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宝田明さん ―ウクライナの子供たちは77年前の僕だ

 俳優の宝田明さんは、東宝の二枚目俳優だったという印象が強いが、最近の作品では「ダンスウイズミー」(矢口史靖監督、2019年)で主人公の三吉彩花に催眠術をかける詐欺師の軽妙な役がはまっていた。

「ダンスウイズミー」より


 旧満州のハルビンで暮らしていて、終戦間際に満州に攻め込んできたソ連兵にダムダム弾で腹を撃たれて重傷を負ったことがある。ダムダム弾はハーグ陸戦協定で禁止されている殺傷能力が高い弾丸で、人間の体内に入ると、弾頭が裂けて体をえぐるようになっている。自分のような無辜の市民まで犠牲になる戦争について政治家たちは真剣に勉強してほしいと語っていた。

 ソ連兵に撃たれた経験があるために、ロシアについてはよい印象をもつことがなかった。ロシアには素晴らしい文学や、音楽、映画などの芸術があるのに、好感がもてないのは戦争の体験があるからだと話していた。ロシアのものを見ると吐き気がしてしまうのは戦争が憎悪しか生まないからだとも語っていた。亡くなる4日前のインタビューではロシア軍の銃弾から逃げ惑うウクライナの子供たちは77年前の僕だと話した。

 旧満州から引き揚げてきた著名人たちからは戦争への嫌悪が聞かれてきた。作詞家のなかにし礼氏も旧満州国牡丹江市で生まれ、ソ連の侵攻とともに命からがら日本に帰還した。ソ連軍機の機銃掃射も受けたことがあった。なかにし氏は軍隊も戦闘となれば、真っ先に逃げていくことを知ったという。国家の無責任を知っているからこそ集団的自衛権の行使を含む平和安全法制に激しく反発した。やはり満州引き揚げ者だった漫画家の赤塚不二夫氏は『「日本国憲法」なのだ!」』という本の中で「ひみつのアッコちゃん」に「国民が主権者になるまで多くのギセイと努力があったのよっ!」と語らせている。

 同様に満州を引き上げたちばてつやさんは2019年6月に「『戦争をもう二度としない』と定めている憲法を世界の憲法にしてほしい。(安倍首相ら)戦争を知らない人にいじってほしくない」「満州からの引き揚げでは、20万人が亡くなった。私たち家族は、父の同僚だった中国人男性が一冬の間、自宅にかくまってくれて助かった。その屋根裏部屋で弟たちに描いた絵物語が、作家としての原点」と語っている。

 宝田さんが主演した初代「ゴジラ」は反戦や反核がテーマでアメリカにとって都合が悪い映画だと語っていた。ゴジラはアメリカの核実験で目覚めた怪獣だった。宝田さんは、「ゴジラ」をアメリカの戦争に反対と言えない議員たちの前で国会で上映すべきだとも話していた。また、戦争は無辜の市民まで虫けらのように命を落とすもので、決して戦闘員だけのものではないことを訴えたいとも話していた。宝田さんの世代から戦争の記憶を継承して語り、今のウクライナ侵略に見られるように、戦争がいかに不合理であるかを私たちは説いていかなければならない。

 ゴジラではないが、映画「モスラ」の原作者で、作家の堀田善衛の『空の空なればこそ』の中の「汝の手に堪うることは力を尽くしてこれをなせ」という言葉をアニメの宮崎駿監督は座右の銘にしている。

東京・日比谷で行われたゴジラの銅像除幕式に、沢口靖子(右)と出席した宝田さん。ゴジラは代名詞だった(95年12月=東スポWeb)


「言論は無力であるかもしれぬ。しかし、一切人類が、『物いわぬ人』になった時は、その時は人類そのものが自殺する時であろう。・・・・・・」-堀田善衛
 今のウクライナ戦争を見るとまさにそんな感じだ。

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