
パレスチナの文化を抹殺するイスラエル ―本を焼く者はやがて自らも焼かれることになる
ユダヤ系ドイツ人の詩人ハインリッヒ・ハイネは、本を焼く者は、結局人を焼くことになると述べた。1933年5月3日、数千人のナチスの学生や教授がドイツ全土の30の都市にある大学の図書館や書店を襲撃して、数10万冊の非アーリア的な、またナチスのイデオロギーに反する本やユダヤ人による本を焼いた。これはドイツから「非ドイツ的」な不純なものを粛清する目的で行われたが、この焚書を行ったヒトラーを頂点とするナチス・ドイツは自らも焼かれるはめになった。

イスラエルは1948年の建国以来、占領地からパレスチナ人を追放するなど民族浄化を行ってきたが、パレスチナ人の文化も民族浄化の対象となってきた。
1982年、イスラエルはレバノンに侵攻すると、PLO(パレスチナ解放機構)の芸術文化部門、研究センター、その他のPLOのオフィスが略奪された。パレスチナ映画協会の映画アーカイブは、イスラエル軍の侵攻中に移動を余儀なくされ、そして混乱の中で消滅した。パレスチナの文化財に対する窃盗と略奪は、2000年代初頭の第二次インティファーダとガザへの度重なる攻撃の間にも起こった。このパレスチナの文化施設、公文書館、図書館に対する略奪によって視聴覚資料を含む貴重なパレスチナの文化資料が紛失した。

20世紀半ばまでにパレスチナ映画は第三世界主義や反植民地主義、民族解放運動の構成要素として頭角を現した。PLOの映画制作者たちはアジア・アフリカの解放運動や社会主義のネットワークを通じてパレスチナの大義に対する国際的連帯を訴えるものだった。ところが、植民地主義国家であるイスラエルは、パレスチナの土地と、歴史的・文化的つながりを断つために、映画などパレスチナ文化の抑圧を考えてきた。10月にネットフリックスは、パレスチナ映画24本をそのラインアップから削除したが、その背景にイスラエルや米国の親イスラエル団体の圧力があると見られている。

最近では、イスラエルはパレスチナの詩人作家、ガザ・イスラム大学の教授で、シェークスピアやジョン・ダンなどを研究していたレファアト・アライール(1979年9月23日~2023年12月6日)を空爆で殺害した。アライールはロンドンの大学で修士号を取得し、ガザの大学で16年間教鞭をとった。ガザの現状を英語で発信しようとして教育に力を入れ、ガザの一人一人の人生を物語にして出版した。

もし、私が死ななければならないなら
あなたは生きなければならない
私の物語を伝えるために
もし私が死ななければならないなら
それが希望をもたらしますように
それが物語となりますように ―アライールの詩(抜粋)

パレスチナ系米国人の文学者エドワード・サイードは欧米がパレスチナ人自身の物語を語る権利を組織的に否定していると語り、欧米によるパレスチナに関する歪んだ報道と、パレスチナ文化の抑圧は、この地域の歴史を歪曲し、イスラエルの侵略を正当化するものだと述べた。歴史をより正確に理解するために、パレスチナ人は「語る」権利を必要としている、とサイードは語っている。
昨年10月7日にガザでの戦争が始まって以来、イスラエルはパレスチナ人の言論を組織的に沈黙させたり、圧殺したりして、パレスチナ占領地とレバノンでは137人のジャーナリストが殺害された。ガザ地区では、大学などパレスチナの文化・学術・教育機関、文化遺産、公文書館も爆撃され、破壊されている。この破壊の目的には、パレスチナ文化や歴史的記憶を抹殺し、これまでのイスラエルによる人権侵害や戦争犯罪の記録を隠蔽することもあるだろう。

中国の文化大革命でも焚書坑儒が行われたが、文革を推進した四人組は権力闘争に敗れ、失脚した。パレスチナ人の本を焼くイスラエルの末路もナチス・ドイツや四人組のように、寂しいものになるという気がしている。文化財の意図的な破壊は戦争犯罪に該当し、国際慣習法の規則として扱われるとされ、国際刑事裁判所(ICC)も「宗教、教育、芸術、歴史的建造物などを攻撃すること」を戦争犯罪に含めているが、ロシアによるウクライナの文化財破壊を非難する欧米はイスラエルによるパレスチナの文化施設の破壊に大きな声を上げることがない。

表紙の画像はイスラエルによって破壊されたガザの図書館
https://www.washingtonpost.com/world/2023/11/30/gaza-library-palestinian-culture/