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ガザ戦争で戦争忌避の感情を強める世界の若者たち

 イスラエルが8日に行ったガザ中部のヌセイラットの難民キャンプへの攻撃でイスラエルの4人の人質が解放されたことに、バイデン米大統領やドイツのショルツ首相は祝意を表したが、しかしその解放のために犠牲になったパレスチナ難民たち274人に触れることはなかった。

 近年の戦争でイスラエルのガザ攻撃ほど悲惨な戦争は知らない。ベトナム戦争ではソンミ村の虐殺などあったが、イスラエル軍は意図的に、徹底的に病院などの医療施設や学校をはじめとする社会インフラを破壊し、また子どもや女性たちが多く犠牲になった。さらにイスラエルはガザ住民への人道物資・支援の提供も制限するようになっている。

 ガザ住民たちが犠牲になったり、ガザ社会のインフラが破壊されたりする様子は日々映像や画像でSNSを通じて目にしたりすることになる。世界の若い世代は戦争の実相、リアルをガザで初めて見聞きすることになった。

アメリカの大学で広がるガザ抗議デモ、社会への不満が根底か…大統領選の争点に https://www.yomiuri.co.jp/world/uspresident/20240507-OYT1T50030/

 米国によって戦われたイラク戦争、アフガン戦争は、報道規制もあって戦争の悲惨さが伝わることがあまりなかった。米国はベトナム戦の地上での様子が、本国で報じられることによって反戦運動が高揚したこともあって、1989年のパナマ侵攻あたりから戦争報道に関する規制を厳格に行うようになった。

 4月17日付の『北海道新聞』の記事は、北海道民の世論調査の結果を伝えているが、憲法9条を改正すべきではないと回答した人が67%と昨年の結果よりも10%も増え、戦争の忌避感が日本でも増していることを伝えている。昨年はすでにロシアのウクライナ侵攻が開始されてから1年以上が経過していた時期だから、特にイスラエルのガザ攻撃が道民の意識に大きく影響をもたらした。

北海道新聞の記事。誰だって戦争は嫌だろう。

 一昨日、朝日新聞『AERA』に「ガザ侵攻抗議でテント張る青学生 社会運動に関心あるZ世代は“大人が考えているより多い”?」という記事が掲載された。アメリカの学生たちに触発されて日本の大学でもテントを張って、イスラエルのガザ攻撃を非難する運動が少しずつとはいえ、増えている。青山学院大学もその一つの例で、国際政治経済学部4年生の八島望さんは、イスラエル軍がガザを攻撃し、子どもたちが殺される様子を見て、「我慢できなくなり、ブチ切れました」と語る。「国際政治経済学を学んでいながらこのまま何もしなかったら、『国際政治経済学部を卒業しました』と、恥ずかしくて言えないと思った」そうだ。

ガザ侵攻を抗議する青山学院大学の八島望さん https://dot.asahi.com/articles/photo/224354

 今年2月に「青山学院大学立て看同好会」を一人で作ってSNSでの発信を始めた。地面に横たわって抗議するダイ・インの抗議デモを行おうとしたら、大学は「政治的実践活動は禁止」を通告してきたので、5月10日にテントを張ると、大学の警備員や学生生活課の職員たちがやって来て、「風でテントが飛ぶと危ない。大学はキャンプ場じゃないから、テントはダメ」と言われたという。後日、学生生活課に行くと、「テントを張ることが学則で禁止されていないことがわかり、学生生活課も「黙認」という形で八島さんらの行動を認めるようになった。テントを張るのは金曜日の午後だけだが、SNSでの発信でフォロワーは増えるようになった。八島さんが疑問に感じるのはロシアのウクライナ侵攻を非難するのに、イスラエルのガザ攻撃には沈黙する大学当局の「ダブルスタンダード」だ。日本社会にはロシアとイスラエルに関するダブルスタンダードが岸田首相をはじめ多く見られる。政治や社会に関心がある若者は大人たちが考えているよりは多いのではと八島さんは語るが、若者たちは政治の世界のダブルスタンダードを敏感に感じている。

 欧米でもガザ発のニュースが若者たちの強い関心を呼ぶようになった。米国の若い世代にとって戦争は過去の出来事だったが、ガザ戦争が若者たちの意識を変えるようになっている。イスラエルのガザ攻撃は戦争の恐怖を欧米のZ世代に植えつけることになり、また特に米国の学生たちは、自分たちの政府がその悲惨な戦争に加担するだけでなく、自分が属する大学までもガザの戦争で利益を上げていることにどうにも我慢ができなくなっている。

京大学生グループが要望書 大学にガザ支援求め https://www.arabnews.jp/article/japan/article_119387/

 3万6000人余りが犠牲になったガザ攻撃から何らかの教訓を国際社会が得られなければ、同様な悲惨な戦争が繰り返されることになる。悲惨な戦争は止む気配はないが、世界の若者たちがイスラエルへの抗議の前面に立っていることに希望を感じている人は少なくないだろう。

表紙の画像は 

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への侵攻が激化する中、ジェノサイド(集団虐殺)に反対するよう上智大学側に訴える学生ら=東京都千代田区で2024年5月30日午後1時29分、北山夏帆氏撮影


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