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ハマス「奇襲攻撃」から1年 ―イスラエル社会の極右化と占領は終わらせねばならない

 昨年10月7日にハマスがイスラエルを奇襲攻撃してから1年が経った。6日までのガザの死者は41,870人、その多くが武器を持たない子どもや女性、老人たちだ。ガザは、イスラエル建国によって現在のイスラエル南部に住んでいたパレスチナ人たちが難民として流入したところで、10月7日の攻撃でも、ハマスの戦闘員たちが電動パラグライダーでイスラエル領に進入しながら、「これは我々の土地だ」と叫ぶなどパレスチナ人は自らの故地への執着を決して放棄していない。

昨年10月7日


 6日、オンエアされたNHKスペシャル「“正義”はどこに ~ガザ攻撃1年 先鋭化するイスラエル~ 」では、この1年間のイスラエルの政治・社会の変化、とりわけ顕著になる「極右化」を紹介していた。極右勢力が政権に入ったイスラエルでは、言論の自由が急速になくなり、また不法入植者が跋扈するなど国際法違反がいっそう進んでいる。

 イスラエルの高校で歴史を教えるメイール・パルヒン氏は、扇動の疑いがあると警察から呼び出された。イスラエルという国の名の下で何が行われているか知ってもらいたくて、攻撃で亡くなったガザのアブダカ家の子どもたちの遺体の写真をネットにアップし、「この殺りくを止めるためにできるあらゆることを皆さんに求めます」と書いた。警察では「国家を裏切り秩序を破壊する意図がある」「10月7日のハマスによる強姦などの暴力を正当化する行為だと思わないのか」などと言われ、尋問が終わると、拘置所に入れられた。拘留が終わり学校に戻ろうとすると今度は生徒たちに授業を阻止された。「お前は人でなしだ!」などの罵声を浴びせられる。まるで日本の戦前の「非国民」を彷彿させる世界だ。

パレスチナ自治区ガザでの戦闘に抗議し、福岡市でデモ行進する人たち=6日午後 https://www.nishinippon.co.jp/item/o/1266809/


 イスラエル検察庁治安責任者は「私たちはユダヤ人とアラブ人が手を取り合う平和な楽園に住んでいるわけではないのです。自国民が敵を支持することは受け入れることは不可能です。全てが犯罪行為とは言えないが社会が封じ込めるべきことです。」と述べる。この検察関係者の発言の通りイスラエルでは即時停戦を求めるデモも警察によって即座に解散を命じられ、また「ガザの子どものための展示会」も極右の人物によって写真パネルが蹴散らされ、男は「ここにハマスの旗でも立てたらどうだ」と絶叫する。

 右派活動家は「イスラエル兵やイスラエルに危害を加える者と戦います。これは善と悪、光と闇の戦いです。善の民である私たちは必ず勝利します。」と語る。停戦を求める運動には「アラブ人は出ていけ!恥さらしめ!」という罵声が投げかけられる。「10月7日はホロコースト以来、最も困難な日になった。テロリストを殺してその代償を払わせる必要があります。10月7日に戦争を始めたのはハマスだ。戦争をやめろと訴えるならハマスにこそ言うべきだ。」と語る。

パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まって7日で1年となるのを前に、福岡市中央区で市民やイスラム教徒ら約200人が停戦を求めてデモ行進しました。 https://x.com/AkimotoThn


 ヨルダン西岸ではパレスチナ人たちは土地を奪われ、家屋を破壊され、イスラエルの入植地が拡大されていく。極右の入植者たちによるパレスチナ人に対する暴力は日常茶飯事になり、ベングビール国家治安相が銃器所持の制限を緩めたことによって彼らは銃で武装するようになった。極右入植者に撃たれ倒れるパレスチナ人の様子も映像で写し出されていたが、傍らにいたイスラエル兵はただ立って見ているだけだけで犯罪を取り締まろうとしない。イスラエルの占領は、ユダ王国があった土地に戻ってきただけだという高校教師の発言もあった。

 土井敏邦『ガザからの報告』(岩波書店、24年7月)ではガザ在住のジャーナリスト、研究者であるMの目を通してイスラエル攻撃下のガザの現状が語られるが、ハマスとは何の関係のないMの自宅もイスラエル軍戦車に砲撃され、家族、親族が殺される。イスラエルの攻撃がいかに無差別であるかを伝え、イスラエル軍の攻撃、食料、医薬品の不足やその価格高騰に苦しみ、風雨にさらされるテント暮らしを余儀なくされるガザの人々の筆舌に尽くしがたいほどの困難な状況が明らかにされるが、ガザ住民たちの怒りはイスラエルや、イスラエルの攻撃をもたらしたハマス指導部にも向けられている。

アマゾンより



 パレスチナ人の苦難を取り除くには、NHKのドキュメンタリーで「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のパレスチナ人職員も語っていたが、国際社会が本当に目を向けなければならないのはヨルダン川西岸、東エルサレム、ガザで1967年以来イスラエルの占領状態が継続していることで、この占領こそがパレスチナ問題の不合理の根源となっている。イスラエルの占領を終わらせるには日本など国際社会の不断の注意や関心、またイスラエルに対する圧力が求められている。イスラエルに影響力があるものの、国連安保理の停戦決議に拒否権を投じるなどイスラエル一辺倒の政策を続ける米国の責任が重大であることは言うまでもなく、米国のパレスチナ政策を変える努力や工夫も国際社会には求められているが、そこでは日本も含むG7の役割が重要だ。

ニューヨークでガザ反戦デモ 数千人が集結 https://www.youtube.com/watch?v=z08ZGTfvUjQ

表紙の画像はNHKの番組より

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