世直しの歌「天使のハンマー」とCO2排出を減らす「幸運」
「天使のハンマー」はピート・シーガーとリー・ヘイズによって書かれたフォークソングで、ワシントン大行進の際にも歌われた自由を希求する歌だ。日本ではPPM(ピーター・ポール&マリー)の歌などで知られている。
もしも私がハンマーをもっていたら
朝にゆうべに打ち続けるでしょう
国中を回って、危険を、警告を
この国の兄弟姉妹同士の愛を訴えて
もしも私が鐘をもっていたら
朝にゆうべに打ち鳴らすでしょう
国中を回って、危険を、警告を
この国の兄弟姉妹同士の愛を訴えて
訳詞は https://ameblo.jp/cjgarf/entry-11760395540.html より。また、PPMの歌の動画は https://www.youtube.com/watch?v=U4jNYaCemKs にある。
愛を訴えるという点では戦争がある今の時代にも通用するテーマで、ハンマーとは世直しの道具の比喩と考えればよいと思う。
ロシアのウクライナ侵攻は不幸なできごとだが、「一陽来復(いちようらいふく)」という悪いことが続いた後には幸運がめぐってくるという言葉がある。
ドイツなどロシアの化石燃料に依存していた国ではロシアへの依存だけでなく、石油そのものから脱することが真剣に検討されるようになっている。ロシアが石油輸出によって得た資金が今回のウクライナ侵攻のように軍事費に用いられるのはヨーロッパなど国際社会の平和や安全の構築という観点からもまったく適切ではない。
EUはロシアからの石油輸入を大きく減らし、スペイン、オーストリア、ベルギー、リトアニア、ルクセンブルクなどは太陽光発電に大きく傾斜することを表明し、そのパネルも中国依存を減らし、ヨーロッパ域内で製造されるものが全体の4分の3にしたいという意向だ。EUではロシアや中国など価値観の異なる国への依存が見直されるようになり、EUは中国のウイグル人への人権侵害をめぐって昨年から中国に経済制裁を科している。
地球環境問題はいよいよ深刻になり、インド北部では熱波によって小麦の生育が阻害され、ウクライナ戦争を契機に生じたウクライナとロシアの小麦輸出の停滞に加えて世界の食料危機にいっそうの拍車をかけるようになった。インドは世界で2番目の小麦生産国で、輸出量はすくないものの、小麦は14億人近いインドの人口にとって不可欠なもので、インドが小麦輸入に転ずれば、世界の食料事情はさらに逼迫することになる。インドでは今年3月は記録的な暑さとなり、月平均気温は実に33.1℃だった。この熱波の背景にあるのは気候変動で、インドの熱波は4月になってもとどまるところがなく、4月の平均気温は122年の観測史上最高となり、北西部で35.9℃、中部で37.78℃だった。
同様に昨年6月にブリティッシュ・コロンビア州で49.6℃を記録したカナダでは、女王蜂、オスのミツバチが大量に死んだ。オスのミツバチは42℃の気温の中では6時間を経過すると50%が死ぬそうだ。気候変動が昆虫の生態系にも影響を及ぼし、多くの陸生種が衰退するようになっている。(Alison McAfee, "Extreme heat waves threaten honeybee fertility and trigger sudden death," Conversation, April 26,2022.)
ロシアのウクライナ侵攻を契機に、その化石燃料への依存を減らさなければならないという認識とともに、食料や生態系などをめぐる気候変動の深刻ぶりや、それへの対応が切実に求められていることに国際社会は気づかされることになった。
アイキャッチ画像はPPM「天使のハンマー」