防衛費、教育や医療に使えば?
防衛省は令和7年度予算の概算要求で過去最大の8兆4989億円を計上する方針を固めた。2022年度の防衛費がGDP比1%程度の約5兆4000億円だったから、わずか2年の間に、1.7倍にも増えたことになる。2022年6月3日付の東京新聞に「防衛費倍増に必要な『5兆円』教育や医療に向ければ何ができる? 自民提言受け考えた」という記事が掲載されが、政府・与党の間では、いつの間にかGDP2%を超える防衛費が努力目標になり、その実現に向かっている。
この東京新聞の記事によれば、GDP2%を超える防衛費には5兆円の増額が必要だとして、「5兆円あれば」の例として「教育:児童手当の所得制限撤廃も大学、給食無償化も」「年金:全員に月1万円上乗せ」「医療:自己負担ほぼゼロに」などが挙がっている。国民一人一人の生活について言えば「大いに助かる」と言ってよいほどの額だろう。
「GDP比2%」というのは根拠が薄弱なようで、何で「2%」と尋ねられて明確に答えられる与党の国会議員は少ないことだろう。「2%」というのは、米国トランプ政権のマーク・エスパー元国防長官が2020年9月にランド研究所でNATOだけでなく、米国の同盟諸国・友好諸国も国防費をGDP比2%以上に目指してほしと述べたことが背景になっているようだ。エスパー氏は世界第3位の米軍需産業レイセオンで国防総省や議員へのロビー活動の責任者・政府交渉担当の副社長などを務めていた。
安倍政権の6年間、2013年度から18年度までに3億円もの寄付がワシントンDCの「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies, CSIS)」に行われ、中国脅威に日米同盟がどう対処するかなどの政策提言が行われた。こうした寄付も国民が関知しないところで行われた。CSISは、ノースロップ・グラマン、ロッキードなど軍需産業から献金を受け、2016年には軍需産業にドローンの売り込みを成功させ、その寄付を倍増させたとニューヨーク・タイムズが報じたことがあった。日本人の税金が、我々が関知しないところで、米国の軍需産業のために使われている。
元自衛隊員だった俳優の今井雅之さんは紛争や平和についても数々の発言を遺した。米国との「集団的自衛権」が国政の議論の焦点になる中で、米国の戦争や防衛費の本質に触れた彼の言葉に傾聴する意義がある。
「アメリカは日本と兄弟とか言ってますけど、そんなもんとんでもない! 立川だろうが厚木だろうが沖縄だろうがって日本中にアメリカの基地がいっぱいあるわけですよ。でも、考えてみてくださいよ、アメリカに日本の基地がありますか?」
「実際ね、テポドンがアメリカに落ちたらアメリカは鬼になりますよ。でも、日本を守るという大義名分では絶対にアメリカは戦争なんてしませんよ。だって、何の得もないですからね」
「アメリカは10年に1回戦争をしなきゃダメな国でしょ、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争……、そしてその度に自衛隊や他の国の軍に武器を売るんですよ。武器っていうのはね、これはボクも自衛隊にいたわけですからわかるんですけど、10年で古くなるんですよ。その在庫処理みたいなもんなんです。そのためには何をしなダメや思いますか?」
http://journal.ocn.ne.jp/people/vol35/people03.html より
国際政治学者のチャルマーズ・ジョンソンは、「(米国は)米軍基地が地球上で犯してきた深刻な環境破壊をやめ、環境汚染の責任から逃れようとする地位協定を結ぶこともやめること」(『帝国解体』209頁)と述べていた。また、彼は世界の平和や安定の確立・維持のために「(米国は)自己の民主主義に誇りをもつ国として武器弾薬輸出国であることをやめること」とも語った(同、210頁)。
『はだしのゲン』などで知られる漫画家・中沢啓治さんが、アメリカ漫画界のアカデミー賞といわれる『アイズナー賞』で、コミックの殿堂入りをした。中沢さんは核兵器の廃絶を訴えたが、米国の最新の核弾頭1発の価格は1億ドル(146億円)だそうで、核弾頭は古くなれば、改修が行われ、そのための予算が付けられる。。
中村哲医師は、「嘘みたいな話ですが、1億円もあればカブールの人が全部助けられる。」と語っていたが(日経ビジネス)、ボストン大学のネタ・クロフォード政治学教授は、米政府が2019年までにアフガン紛争に費やした額を9340億~9780億ドルと見積もっている。これらの費やされた額はアフガニスタンの人々の人道支援に回らず、米軍の戦費に用いられ、米国の軍産複合体を潤しただけと言ってよい状態だった。
F35戦闘機1機の価格は235億円、幕張新都心につくる病院の総工費は220億円という見積もりもある。日本の国会議員たちは国民の幸福は何かを熟慮の上に予算を考えてほしい。日本人の税金は日本人の幸福のためにあり、米国の軍需産業のためにあるのではない。