
自壊するイスラエル経済と軍事覇権主義が日本に教えるもの
米国CIAの元職員で、カリフォルニア大学サンディエゴ校の教授も務めたチャルマーズジョンソン氏は、米国の軍事覇権主義は「たえまない戦争、民主主義の崩壊、真実の隠蔽、そして財政破綻」という「4つの悲劇」をたどって崩壊への道を転落するだろうと予想した。

日本は途方もない財政赤字を抱える中でも防衛費は増加し続けたが、しかし昨年度は日本政府が予算に計上した防衛費6兆8219億円のうち1300億円を使い残して、不用額となった。これでは本当の必要に応じて防衛予算を計上していると見られなくなるだろう。それでも岸田政権は防衛増税を行おうとしている。

ソ連出身で、米国のハーバード大学やニューヨーク大学で教授を務め、ノーベル経済学賞を受賞したワシリー・レオンチェフ(1905~99年)は冷戦が終わった頃、米国は軍備に充ててきた予算を教育や研究開発に振り向ければ経済の再生につながると発言し、それが「平和の配当」であることを強調していた。
最近の日本政府は近年その逆を行くように、外交よりも軍事優先のスタンスをとっているものの、多額の不用額が出るなど無駄な予算を計上している。第二次世界大戦、日本や西ドイツの経済発展があったのは、米国のように莫大な軍事費を支出することなく、軍需よりも民需を重視したからだ。中国の脅威を声高に叫び、防衛費を増額する前にまず中国と信頼醸成のための対話を行うという外交を重んじるべきだろう。
自衛隊は大きく定員割れを起こして、昨年度の自衛官の採用人数が募集に対して51%と過去最低となった。これには政治家たちの責任は重いと言わざるを得ない。政治家たちが地球の裏側にまで自衛隊を派遣するとか、物騒な駆けつけ警護の任務の付与とか、政治家たちが自衛隊を危うい組織にするたびに自衛官になろうとする若者は減少を続けている。自分がリスクを負わない政治家は気楽なものだが、彼らの発想や判断のために自衛隊員の著しい定員割れという日本の安全保障が損なわれる事態になっている。政治家たちが自衛隊員たちに真摯な感情移入を行わない限り定員不足が解消されることはないだろう。

先日、中村哲医師の「聖書の言葉を使うと、『剣によって立つ者、必ず剣によって倒される』と。これはもう歴史上の鉄則なんです。」という言葉を紹介したが、イスラエルはその戦争体質によって自壊しそうな様相を見せるようになった。
イスラエルのヘブライ語紙「マーリヴ」は7月10日、ハマスの奇襲攻撃と、イスラエルの報復が始まった昨年10月7日以来、イスラエルでは46,000の事業が閉業に追い込まれたことを報じた。記事はイスラエルを「崩壊する国」と形容している。

最もダメージが大きかったのは建設業で、それに関連するセラミックや、空調、アルミニウム、建築資材などのエコシステム全体も深刻な影響を受けている。イスラエルの建設業が不振に陥ったのは、ガザでの戦争開始によりヨルダン川西岸やガザからパレスチナ人労働者を調達できなくなった要因が大きい。10月7日以前、ヨルダン川西岸からイスラエルに通っていたパレスチナ人労働者は20万人、またガザからも1万8500人がイスラエルに労働に赴き、そのうち8万人前後が建設現場の初期工事を担っていた。イスラエルでは昨年終盤に建設工事が95%も減少し、建設業の低迷によって経済全体が19%も落ち込んだ。(ロイター、3月24日の記事)

戦争によって貿易も大きな影響を受け、外国人観光客がほとんどいない状態となった。観光に関わるサービスや運輸、娯楽などの部門も深刻なダメージを受けているのは当然だろう。また、イエメンのフーシ派による船舶への攻撃によってイスラエル南部の主要港であるエイラトの収入も大きく減少している。

レバノンの武装集団ヒズボラが撃ち込むロケットやミサイルなどによってイスラエル北部のビジネス、農業も停滞するようになっている。7月10日、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師は「敵の経済を枯渇させるという我々の目標は達成された」と述べた。ヒズボラはイスラエルの製油所やガスタンクなどエネルギー・インフラを破壊する能力ももっている。ヒズボラがイスラエルの生殺与奪権を握っているような状態となった。
イスラエルがその経済を再生させるには、ガザ停戦を一刻も早く実現し、パレスチナ国家を認め、パレスチナとの戦争状態を解消することが必要だが、極右を含む現在のネタニヤフ政権の視野は狭く、これらの和平への発想には極めて乏しい。イスラエルはこのまま衰亡の一途をたどるかもしれない。戦争によって経済が冷え込むことになったイスラエルが日本に与える教訓は明らかだ。経済的繁栄を得るには、対立や緊張よりも、平和な安定した外交関係を近隣諸国と築くことだが、岸田首相はNATO首脳会議に出席するなど対決的姿勢のほうが目立っている。彼にもイスラエルの極右と通底するものがあるようだ。
