ムガル朝のコスモポリタン的性格を表わすタージ・マハル
インド・アグラ(アーグラー)にあるタージ・マハルは、ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーン(在位1592~1666年)が愛する妻ムムターズ・マハルの記憶を永遠に留めるために1632年から53年までの長きにわたって建立した墓廟で、イスラムの最も美しい建造物の一つである。建築にはイランのシーラーズ出身のウスタード・イーサー・シーラーズィーが主要な役割を果たしたとも言われ、インド、ペルシア、オスマン帝国、またヨーロッパからおよそ20、000人の人々が建設に関わった。白亜の大理石を基調として、ラピスラズリ、水晶、トルコ石など世界から集められた28の貴石の象嵌が施されている。
建築に携わった人々も、また建築資材もコスモポリタン的性格をもち、また伝統的なペルシアのデザインや様式をムガル建築に取り入れた。
コーランの章句も刻まれ、砂岩の入り口には「主のみもとへ帰れ、喜び、喜ばれて。わしの僕(しもべ)たちの仲間になれ、わしの楽園にはいれ」(89章28節~30節)というコーランの章句も刻まれ、コーランの楽園のイメージが建築全体のモチーフになっている。
インドのイスラムへの改宗は、イスラム神秘主義(スーフィズム)を通じて平和に、自発的に行われていった。インドのイスラム神秘主義は、たとえばムンバイ生まれの神秘主義者で、ボクサーのモハメド・アリにも多大な精神的影響を与えたとされるイナーヤト・ハーン(1882~1927年)が、「我々は異なる名称、異なる形態で一つの宗教に帰依している。異なる名称や形態の背景には同じ精神や真理がある」と説いたように、他宗教への敬意を示している。
2020年2月24日、米国のトランプ大統領はメラニア夫人とともにタージ・マハルを訪問したが、イランの歴史遺産を破壊すると言ったり、「イスラムはわれわれを嫌悪する」などと言って、イスラム系諸国からの入国を禁じたりしてきたトランプ大統領は、タージ・マハルを訪問するにはふさわしくない人物だ。
ヒンドゥー至上主義のモディ政権もまたアッサム州などインド北東部でイスラム教徒以外の不法移民に国籍を与えるなど、イスラム教徒に対する差別を明らかにしている。トランプ大統領をタージ・マハルに招待したモディ首相もまた、タージ・マハルの共存や、コスモポリタン的性格を意識していないかのようだ。
アイキャッチ画像はタージ・マハル
https://www.getyourguide.jp/uttar-pradesh-l823/skip-the-line-taj-mahal-entrance-ticket-t53017/?fbclid=IwAR1KLRYFDNcc1ciElxVWNdT4Fv7MHUKhLa1zwzEzwk50e18U3JUZDd3giSY より
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