中東全面戦争を構想するトランプ次期政権と、武力抵抗こそが占領を終わらせる唯一の方法と考えるアラブの人々に勝利できないイスラエル
トランプ次期政権の閣僚たちが親イスラエル傾向の持ち主であることは先日も書いた通りだが、この政権は好戦的なネタニヤフ首相の構想通りに中東政策を進める可能性がある。
バイデン政権はその在任中にイスラエルがもたらす飢餓、強制移住、大量虐殺に終止符をもたらすべきだが、大統領選に立候補したハリス副大統領は、バイデン政権の対イスラエル支援策が決定される際には必ずその場に居合わせたが、大統領選ではイスラエルの殺戮とは関係がないようにふるまった。バイデン政権にはイスラエルによるガザやレバノンでの殺戮を止めるために全力を振り絞るべきだが、そのための主体的、あるいは能動的な気配がまるで感じられない。
トランプ次期政権の閣僚の顔ぶれを見ると、中東政策は残念ながらバイデン政権より悪化することだろう。
トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任するマイク・ウォルツは、9月にフォックス・ニュースに停戦と人質解放では、中東地域の不安定を煽り続けるイランの野心を止めることはできないと、イスラエルによる戦争の停戦に反対を唱えた。
国務長官に任命されたマルコ・ルビオは、今年イスラエルを訪問して、「イスラエルの敵は我々の敵でもある。イラン政府とその代理組織、ガザのハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、シリアとイラクの多数の組織は、中東を支配し西側諸国を不安定化させる計画の一環としてイスラエルの破壊を求めている。ユダヤ国家はこの紛争の最前線にいて、多くのアメリカ人とイスラエル人の生命のために戦っている。」と語った。
ルビオは、国際刑事裁判所がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とガラント国防相に対する逮捕状を検討していることを、まったく言語道断だと判断し、「裁判所は、自国民に毒ガスを投与したシリアのアサド大統領を追及していない。またウイグル人に対して大量虐殺を行っている中国の習近平主席を追及していない。その代わりに、民間人の命を守るために軍があらゆる手を尽くしてきた国(=イスラエル)を攻撃している。この偽善には驚かされる。」と述べた。
ネタニヤフ首相の特別顧問兼戦略問題担当大臣のロン・ダーマーはすでにフロリダ州マール・アー・ラゴにあるトランプ大統領の邸宅に派遣されており、新大統領が就任する1月20日までにトランプ大統領がイスラエル自身に解決を望んでいる問題と、イスラエルがトランプ政権に期待する中東問題について話し合った。ダーマーはトランプのジャレッド・クシュナーとも会談し、クシュナーのガザ沿岸開発計画について話し合った。
イスラエルのサール外相は、中東地域における地域におけるイスラエルのごく自然な同盟者は、クルド人やドルーズ派など国籍をもたない抑圧された少数民族だと述べた 。イスラエルは、2017年にクルディスタン地域政府主導の独立のための住民投票を支持した唯一の国だったが、イラク・バグダッドの中央政府はこれを承認しなかった。トルコやイランにとってサール外相の発言は脅威であり、トルコのエルドアン大統領は13日にイスラエルとの全ての関係を断絶した。レバノンに次いでイスラエルの地上作戦の次の標的はシリアになると見られている。これはトルコとイランにとって重大な脅威となり、両国の地域的勢力圏に対する直接的な挑戦となるが、イスラエルはそのためのコストを払わなければならない。
今年7月に発表されたパレスチナ政策調査研究センターの世論調査では、大多数のパレスチナ人がイスラエルの占領を終わらせるのに、武力抵抗が最も効果的な方法だと考えている。1995年にイスラエルとヨルダンが平和条約を結んだ後にヨルダン初の駐イスラエル大使となったマルワーン・ムアシェル元外相は11月8日付の「ミドルイースト・アイ」のインタビュー記事でイスラエルのガザ戦争がアラブ世界の人々を過激化させることになり、今日平和について語りたがる人はいないと語り、ほとんどのアラブ人が占領を終わらせるのは軍事的抵抗のみだと考えていると述べた。
またネタニヤフ首相の目的は人質を解放することではなくて、戦争を長引かせることにあるとムアシェルハ語った。トランプ政権の親イスラエル姿勢とイスラエルの戦争継続の方針は中東地域をさらに大きな破壊や殺戮の渦の中に巻き込む気配だが、それがイスラエルの安全に役立つとは到底思えない。イスラエルは9月末にレバノン侵攻を開始して以来、無数の空爆を繰り返し、地上侵攻も行っているが、最高指導者や重要な司令官たちを殺害されてもヒズボラは態勢を立て直し、イスラエル軍はレバノン南部の村落を一つも掌握できていない。9月30日の地上侵攻開始以来11月13日までに、戦死したイスラエル軍兵士は47人に上っている。
表紙の画像は「解放まで抵抗」
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