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イスラエルをBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)から守るイギリスは、イスラエルのアパルトヘイトにもイデオロギー的影響を与えた

 イギリス政府はイスラエルとその占領地域(エルサレム、ヨルダン川西岸、ゴラン高原)に対するBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)を防止する法案を提出した。つまり、イスラエルに対してBDSを行う動きに罰則を科すというものだが、イギリス政府内で最も親イスラエルな閣僚の一人で、クリスチャン・シオニスト(キリスト教徒で、シオニズムを支持する人)とされるマイケル・ゴーヴ氏が推進している。ゴーヴ氏は、この法案が反ユダヤ主義と闘うものであると主張している。

私も所属していた北米中東学会は昨年、会員の80%という圧倒的多数でイスラエルに対するBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)に賛成しました。正義の声だと思います。 https://bdsmovement.net/news/palestinians-welcome-historic-middle-east-studies-associations-vote-endorse-bds?fbclid=IwAR1i3phDUooVZZ0M6yhnWsN9ILEphGrkg2fkXbwZ4a9OSSOjrqVl2hh5hgU

 イスラエルの占領地における入植地拡大やパレスチナ人に対する人権侵害を批判することが反ユダヤ主義ではない。イスラエルは占領地においてパレスチナ人の強制立ち退きを行い、彼らの家屋を破壊し、そこにイスラエル人のための入植地(住宅)を建設している。また、今年は2005年以降で最も多数のパレスチナ人を殺害している年でもある。イギリスは中国によるウイグル人弾圧や、ロシアのウクライナ侵攻を強く非難してきたが、この法案が成立すれば、イギリスの中国やロシアに対する非難はまったく説得力をもたなくなる。

 ジェレミー・コービン元労働党党首は、この法案はイギリスが南アフリカのアパルトヘイト体制を支持し、ネルソン・マンデラに「テロリスト」のレッテルを貼ったことを彷彿させるものだと語り、世界中のパレスチナを支援する人々は反ユダヤ主義者ではなく、パレスチナ人に対する公正を求めているのだと語った。

パレスチナに自由をージェレミー・コービン氏 (前例黄色いシャツ) https://www.palestinecampaign.org/jeremy-corbyn-a-champion-of-palestinian-rights-leads-the-labour-party/

 コービン氏の主張はまったくの正論のように思える。この法案はイギリスがパレスチナ問題の淵源をつくったことを忘れ、イギリスの歴史的責任を放棄しているかのようだ。第一次世界大戦中、イギリスは同じ地域に対して、アラブ人国家建設の約束をし、フランスとの間では分割の密約を行い、ユダヤ人に対しては彼らの民族郷土創設を確約した。そもそもパレスチナの人々の主権を無視してイギリスにこれらの3つの互いに矛盾する約束を行う権利も資格もない。

 イギリスはこの「三枚舌外交」の他にもイデオロギー的もシオニズムに多大な影響を与え、現在のイスラエルのアパルトヘイトをもたらした「張本人」ともいえる。 19世紀イギリスの政治家セシル・ローズ(1853~1902年)は、1890年にイギリス・ケープ植民地政府の首相となった。ヨーロッパ諸国がアフリカでの植民地獲得に躍起となった「アフリカ分割」の時代に、ローズはイギリスのアフリカ縦断政策を推進し、エジプト・カイロとケープタウンを結ぶ地域の獲得にエネルギーを傾注していった。

アフリカをまたぐセシル・ローズ https://mirai-bridges.com/africakyojin/


 セシル・ローズは1889年には東インド会社をモデルに貿易会社であると同時に統治・警察権をもつイギリス南アフリカ会社を設立し、中央アフリカ進出を目指し、1894年にンデベレ人やショナ人の居住地域を征服して植民地としたが、イギリス本国の4倍の面積をもつその植民地は彼の名前にちなんでローデシアと名づけられた。ローズは1895年にトランスヴァール共和国を併合しようとしたが、失敗してケープ植民地首相を辞任することを余儀なくされた。

セシル・ローズと南アフリカ 鈴木正四 https://yomitaya.co.jp/?p=172340

 あまり知られていないが、セシル・ローズの植民地主義の方策は、パレスチナにユダヤ人の国家をつくろうとするシオニズム運動のイデオローグであるテオドール・ヘルツル(1860~1904年)にも大きな影響を及ぼした。ヘルツルは、ローズにシオニズムへの理解を求め、1902年、ローズの晩年に手紙を送るほど、ローズの「業績」に感銘を覚えていた。ヘルツルは、ローズが経営していた南アフリカ会社のように、パレスチナにユダヤ人会社を設け、貿易・通商活動を行い、国家経営の基盤にしようとした。ヘルツルが構想するユダヤ人国家においては先住のパレスチナ・アラブの小作農たちを排除し、彼らに代わりの職を与え、アラブ人地主たちから巧みに土地を購入し、ユダヤ人国家に必要な土地を獲得していくことをヘルツルは考えた。

 ローズが中心となって築いたイギリス植民地主義が南アフリカやローデシアでアパルトヘイトをもたらしたように、ヘルツルのイデオロギーによってつくられたイスラエルは21世紀になってヨルダン川西岸に分離壁を設けたり、ガザにパレスチナ人たちを閉じ込めたりするなどアパルトヘイトを固定化しようとしている。

 南アフリカはアパルトヘイトを克服し、世界ではBLMの運動が注目され、人種主義者のセシル・ローズ像の撤去が叫ばれるように、世界では世界史の負の遺産が清算されようとしている。パレスチナ問題もこの流れに応じて、あらためて検討され、不合理が是正されるべきである。

ヘルツルの思想に基づいてイスラエルは建国された


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