見出し画像

平和安保法制に「声を上げる勇気」をもった村上誠一郎議員の閣僚就任

 石破新内閣の総務大臣に村上誠一郎氏が就任することになった。平和安保法制成立の際に自民党では例外的に反対の声を上げた人だった。


 外国特派員協会での講演の冒頭で、党執行部が自分の主張を聞いてくれないので、体の大きな村上議員も「やせる思いだ」と冗談ながらに語っていた。その当時、村上氏は、自身の生い立ちに触れながら「父の故・信二郎氏は、検事だった祖父の赴任地の広島市で生まれた。内務省に入り、陸上自衛隊の前身、警察予備隊の創設に携わった。晩年は衆院議員に転じた。父は常々、『防衛予算が少なくて済むなら、その方がいい。』『自衛隊員の安全に万全を期せ』と言っていた。私もその信念を受け継いでいる。父が存命なら、安保関連法案について『考え直せ』と言っただろう。安倍政権の閣僚は簡単にリスクという言葉を使うが、いいかげんな法律で派遣されるかもしれない自衛官の身を考えているのか。自衛官が集まらなくなったら、徴兵制につながる恐れだってある。憲法にどう向き合うのか。国民が自分のこととしてよく考え、判断しなければならない問題だ。正論を訴え、国民に分かってもらうのが私の使命だ。」と語っていた。

 
 10代の頃に「私たちnein(ナイン:ドイツ語のノー)」と言えなかったことが、ナチスの台頭とドイツの破滅をもたらしてしまったというドイツの思想家のコメントに接したことがあったが、平和安保法制に反対する国民は多かったが、国民の多数の考えとは対照的に、与党議員たちは「ナイン(ノー)」の意思表示ができなかったが、村上氏は例外的な存在だった。

村上誠一郎「国民窮乏 自民党は襟正せ」 https://sei-murakami.jp/wp-content/uploads/2023/10/professional-2023.pdf


 村上誠一郎氏の閣僚就任についてFNNオンラインでは、「ある自民の議員は『安倍派が反逆するだろう。一番やっちゃいけない人事だ』と話しています。」と書いているが、こういう人事を行う石破内閣にはある種の気骨を感じ、期待がもてるように思う。これまでも書いてきたが、石破さんはガザ問題に関する人道外交議連の会長を務めてきた。岸田政権がUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への支援を停止すると、その再開に尽力した。石破さんは拙著『ガザ紛争の正体』を読み、よく書けてますと評価してくださったが、忙しい中でよく時間があるものだと思った。人付き合いがよくないと言われるが、自身の勉強に多くの時間を割いている印象を受けた。
私たち中東研究者は平和安保法制に反対し、法案成立直前の2015年9月10日に、参議院議員会館で安保法制に反対するアピールを行った。

他の中東研究者たちとともに安保法制反対のアピールを行った。2015年9月10日 日刊ゲンダイより



 そこで東京外国語大学の黒木英充教授は、「アラブの人々は『カラーマ(尊厳)』を大事にし、そのために生きていると言っても過言ではない。アラブの人々のカラーマを傷つける米国に軍事的に協力することは日本人としての尊厳や誇りを傷づけるものだ」と語っていた。



 また、板垣雄三・東京大学名誉教授は「『存立危機事態』とは、イスラエルのような人工的につくられた『特殊な国家』について言えるかもしれないが、歴史をかけて形成されてきた日本のような国にはふさわしくない言葉であり、『亡国』を促進するものである。安保法案は米国やイスラエルがつくった中東の破局的事態に日本が自ら飛び込むことになる。まさに人間の尊厳の否定で、人間無視のものだ。」というメッセージを記者会見に寄せた。板垣さんの言う通りにイスラエルは現在存立危機事態を迎えるようになったが、米国やイスラエルは中東の破局的事態をもたらした。

板垣雄三名誉教授 https://www.youtube.com/watch?v=owCoRCtSAh0



 日本人として尊厳を高めることは、これまで中東イスラム世界の人々が抱いてきた日本への信頼をいっそう篤く、ゆるぎないものにするということだろう。イスラムの人々には、広島や長崎への原爆投下の被害に遭いながらも、復興を遂げた日本への称賛の思いがあるが、その日本が原爆を投下した米国に唯々諾々と従うことだけが理解できないという感情がアラブ・イスラム世界では共有されているという指摘が参加者からあった。

 日本とすれば本来の意味での「積極的平和主義」の構成要素である教育や福祉への支援、難民の受け入れ、文化交流などにもっともっと力を入れ、そのための予算づくりを政府や議員たちは視野に入れ、行動していくべきだろう。こうして日本人としての尊厳を高めることが、米国への軍事的協力よりも日本人の安全をはるかに確実にすることができると常々思っている。

 2013年8月に広島を訪問したパレスチナの平和・人権活動家マーゼン・クムスィーヤ氏は、その時の印象を以下のように語っている。
「私が広島で目にしたのは、日本に関する海外報道ではあまり触れられてこなかった、日本の人々が抱いている平和への希望や先の戦争の痛みであり、一部の右派政治家や第二次世界大戦における日本軍の残虐行為さえ否定する一部の人種差別論者に敢然と立ち向う素晴らしい人々の姿でした。」

 中東で戦争を繰り返し、イスラエルによる戦争を支持してきた米国と一体となる安保法制は、クムフィーヤ氏のような「平和への希望をもつ国」である日本のイメージとは逆行するものだと常々思っている。この法制の廃止ができればと今でも思う。

表紙の画像は村上誠一郎(反安倍)
脱麻生の執行部体制
https://x.com/1007wtnb/status/1840516277615653196

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?