「日本人はパレスチナに連帯してくれた」と米国大使の長崎式典欠席の背景
長崎市が平和祈念式典にイスラエルを招待しなかったことは、中東イスラム世界では好意的に見られているようだ。トルコの「アナドル通信」は9日付で長崎市のイスラエル不招待と、G7の国々の式典ボイコットを大きく扱った。
同記事の中でワリード・シアム駐日パレスチナ常駐総代表部大使は、日本人はパレスチナに連帯してくれたと日本人に対する感謝の言葉を述べている。シアム大使は、広島がパレスチナを平和記念式典に招待しなかったのは、米国の圧力によるものだろうと語った。日本はパレスチナ国家を承認していないが、パレスチナの外交活動を日本国内で認めてくれている。広島の平和記念式典にはイスラエルが招待され、日本の世論はこの招待に強く反発したものの、招待が取り消されることはなかった。他方で、同じ被爆都市の長崎は、イスラエルに平和祈念式典への招待状を出すことはなかったため、G7の国々は長崎の平和祈念式典をボイコットすることになった。広島にパレスチナは招待されることはなかったものの、広島県の湯崎知事はガザでの戦争を止めるように、比喩を用いて主張してくれたことにシアム大使は感謝の意を表明している。
シアム大使は、広島や長崎を破壊し、市民を殺害した米国が平和式典に招待されていることが不思議なようだ。また、日本は、従来パレスチナ経済の発展にも力を尽くし、ガザ復興への貢献を表明してくれることにも大使は、謝意を表明している。さらに日本や韓国がパレスチナ国家承認を検討していることを評価し、第二次世界大戦で戦争の惨禍を知る日本は、著しい破壊に遭っているパレスチナのことを理解してくれている。日本人は、正義、法の支配と、国際法を重視する支持する人々なので、パレスチナの大義を支持してくれると大使は日本人を評価している。
一方、米国のラーム・エマニュエル大使が長崎の平和祈念式典にイスラエルが招待されなかったことを欠席の理由としたのは、彼の個人的背景が大きい。エマニュエル大使はユダヤ系だが、大使の父はエルサレム出身で、イスラエルでは小児科医だったが、それ以前はユダヤ人の極右軍事組織のイルグンのメンバーだった。イルグンは、現在のネタニヤフ首相が率いる政党リクードの前身だが、イスラエル独立以前はイギリスの委任統治当局に対してテロを行ったり、アラブ人を襲撃したりする軍事組織だった。
そのイデオロギーはゼエブ・ジャボチンスキー(1880~1940年)によって説かれた修正シオニズムの思想に基づく。修正シオニズムはパレスチナ全域がユダヤ人の土地であるという思想で、パレスチナ人との妥協を考えるものではなく、それが現在の右派リクードのイデオロギーになっている。その方針は、武装闘争こそがユダヤ人国家を創設、維持できる手段という極端なものだった。イルグンの初代最高司令官もジャボチンスキーだった。
イルグンは、1946年7月22日にエルサレムのキング・デーヴィッド・ホテルの爆破事件を起こし、また、1948年4月9日にデイル・ヤースィン村で100人から120人のアラブ人住民を虐殺した。科学者のアインシュタインや哲学者のハンナ・アーレントは、イルグンがデイル・ヤースィン村で虐殺事件を起こすと、「ニューヨーク・タイムズ」紙に意見広告を出し、イルグンのことを「ファシスト」と形容し、ナチス・ドイツがユダヤ人に対してことと同様なことを、この極右組織は行ったと強く非難した。
エマニュエル大使のミドルネームは「イスラエル」、ファーストネームの「ラーム」も、イルグンから分派した戦闘組織レヒの戦闘員で、戦死したRahaminという人物から名づけられた。ファミリーネームの「エマニュエル」もアラブ人との抗争で死亡した彼の叔父エマニュエルから改姓したものだ。
こうしたエマニュエル大使の個人的背景が長崎の平和祈念式典をボイコットする要因となったことは間違いない。イスラエルを招待しないという長崎市の決定は、急進的なシオニズムである修正シオニズムを信奉するエマニュエル氏にとってはよほど気に入らないものであったに違いない。大使の役割が国の利益の保護や文化交流などにあるとすれば、自身のシオニズムへの信奉を優先したエマニュエル大使のふるまいは、本来の大使の役割から逸脱している。エマニュエル大使は、米国がおびただしい数の犠牲をもたらした長崎の被爆者たちへの慰霊の機会を台無しにし、日本人の米国に対するイメージを曇らせ、日米関係にとってマイナスとなったことは明らかだ。
表紙の画像は「ナチスがユダヤ人に対して行ったことと同様なことをシオニストがパレスチナ・アラブ人にしていることは私の最大の悲しみだ」―アインシュタイン
https://www.pressenza.com/2018/04/albert-einstein-israel-freedom-party-closely-akin-nazi-fascism/