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ガザ戦争で著しく低下した米国の国際的影響力 -米国のイスラエル支援はアラブ民衆の怒りを沸騰させた

 イスラエルのガザ戦争を米国が終始一貫して支持、支援したことは米国の国際社会における影響力を著しく低下させることになった。

 中東でも米国の同盟国であるサウジアラビア、エジプト、ヨルダン、UAEは、米国に安全保障を依存する引き換えに米国との政治的連携を維持してきた。しかし、イスラエルのガザ戦争は、アラブ世界の民衆の怒りを2011年の民主化要求運動「アラブの春」が始まった当初のようなレベルに引き上げ、アラブ諸国政府に米国との緊密な関係の維持を躊躇させるようになっている。

ガザの戦争犯罪:アルジャジーラは調査する こういう兵士たちは逮捕して裁判にかけるべきだと思います。 https://www.youtube.com/watch?v=qQyexhceR50


 昨年7月に国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルの占領は国際法に違反しているという勧告的意見を出し、イスラエルがヨルダン川西岸とエルサレムで続ける入植活動を停止する義務があると勧告したことは、米国を道徳的にも、政治的にも国際的な孤立の立場に追い込んだ。ところが、米国はその姿勢を見直すどころか、国連での停戦決議を阻止し、イスラエルへの武器の供給を続け、国際社会の「法の支配」に対する米国の関与は、米国の利益にかなう場合にのみ行うという立場をあらためて明確にした。ちなみにこの「二重基準」の姿勢はロシアのウクライナ侵攻や中国の南シナ海進出について「法の支配」を強調し、イスラエルのガザ戦争について「国際法違反」を確認できないという姿勢に終始した日本の岸田前首相にも明白に見られた。

ガザで多くの人が殺害されているのに、この対応はないと思った


 イスラエルと平和条約を結び、米国から経済・軍事支援を受けるヨルダンもイスラエルに関する国際司法裁判所の判断を支持するという異例の措置を取った。ヨルダンでは、パレスチナ系を含む大多数の国民がイスラエルのガザ戦争に憤っているからだ。トランプ1期目政権の仲介を契機にイスラエルとの国交正常化を検討していたサウジアラビアも、当分その計画を凍結せざるを得なくなった。米国の安全保障体制に深く組み込まれていたアラブ諸国は、積極的にパートナーシップを多様化し、中国、ロシア、さらにはイランとの交流を考慮するようになった。

ガザ戦争に反対するヨルダン・アンマンの人々 https://edition.cnn.com/2023/10/20/middleeast/protests-palestinian-gaza-middle-east-int/index.html


 ガザ攻撃はイスラエルの政治も大きく変えることになり、極右勢力を含むネタニヤフ政権は、権威主義的な措置を推進し、ガザ戦争反対の運動やパレスチナとの和平を求める主張などを警察力で抑圧し、政敵を攻撃し、非民主的な性格をいっそうあらわにするようになった。米国のイスラエル擁護派は長年、イスラエルを「中東唯一の民主主義国」と形容することで、米国の対イスラエル支援を正当化してきたが、現在のイスラエル政府の姿勢はその主張に大きな疑問を投げかけ、米国では大学生などを中心にイスラエル支援に抗議する運動が高揚した。

 ガザ戦争は、米国の外交政策の矛盾がいっそう明らかになり、中東イスラム世界では米国の覇権の衰退がリアルタイムで進行しているが、トランプ政権の姿勢は米国の影響力の衰退、その限界をいっそう明らかにすることだろう。

ガザ戦争に反対する イエメン・サナア https://www.aljazeera.com/gallery/2023/10/13/tens-of-thousands-rally-around-the-world-against-israels-gaza-bombardment


 第二次世界大戦が終わると、より平和な世界を築きたいという思いから米国はIMFや世界銀行などを創設し、世界の経済発展、国際理解を推進しようとしたが、トランプ政権は、一期目と同様にWTO(世界貿易機関)協定に違反するように、一方的に関税を引き上げようとしている。国連も米国主導で創設されたものだが、トランプ政権は国連人権理事会から離脱し、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)を解体しようとしている。

 トランプ政権はネタニヤフ首相らに逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)に対する制裁を科すようになったが、イスラエル兵士の戦争犯罪への追及や逮捕は世界各国で進むに違いない。ほとんどの国連加盟国は、国際法の下で最も重大な戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド、拷問を裁く権利をもっていて、アムネスティ・インターナショナルが2021年に行った調査によれば、国連加盟国193カ国のうち164カ国が、自国の法律の下でこれらの犯罪の少なくとも1つを犯罪としている。昨年11月にキプロスでイスラエルの予備役兵士の戦争犯罪に対する捜査が開始されたが、イスラエル人が二重国籍をもつ国ではイスラエル兵に対する告発はより容易だ。

イスラエルのガザ2035構想


 「ガザのリビエラ化」を明らかにしたトランプ大統領の構想はガザの民族浄化を視野に入れるもので、国際社会からまったく相手にされない。14日、アラブ諸国の国連大使はトランプ大統領の構想を念頭にガザ住民の移住を断固拒否するという声明を出した。イスラエル軍の内部告発者は先週、ウェブサイト+972に、イスラエルが米国の供給によるバンカーバスター爆弾を使って、多くの人質を殺害したことを明らかにした。イスラエルの犯罪をほう助し、さらにトランプ構想で明らかになったように米国自身が戦争犯罪の主体となる現状の中で、米国の主張に従う国などほとんど存在しないだろう。

表紙の画像はエジプト・カイロ。ガザ支持の人々。
https://www.washingtonpost.com/world/middle_east/egyptians-rally-in-support-of-palestinians-in-gaza-conflict/2012/11/16/d40ef46a-2ffa-11e2-a30e-5ca76eeec857_story.html

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