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「世界難民の日」と、日本・ドイツの難民受け入れの違い

 6月20日は、2000年に国連総会で定められた「世界難民の日」だった。

 ドイツではシリア難民が町長になった。読売新聞の記事によれば、南西部バーデン・ビュルテンベルク州の人口約2700人のオステルスハイム町の町長となったのは、シリア難民だったリヤン・アルシェブルさん(29)で、4月の町長選で当選した。トルコの対岸にあるギリシアのレスボス島からヨーロッパに上陸して、ドイツの難民施設でドイツ語を学んだ。ドイツに来るまでドイツ語の知識はまったくなかったという。記事によれば、ドイツ全人口の8430万人の4分の1は移民の背景をもち、ドイツは移民を労働力や年金など社会保障を支えるために受け入れてきた。

5月30日、町政への意欲を語る元シリア難民のリヤン・アルシェブルさん(ベルリンで)=中西賢司氏撮影 https://www.yomiuri.co.jp/world/20230607-OYT1T50034/


 ドイツと同じ少子高齢化という問題を抱える日本は難民を拒絶し続けている。入管法改正に賛成した国会議員たちには排外的な意識が先立って、難民を保護するという意識や姿勢が希薄に見え、日本は難民が町長になるドイツとは対照的な構図となっている。

政党党首、コロナ・ワクチンの開発、スポーツ、ドイツでは移民が活躍している https://www.yomiuri.co.jp/world/20230607-OYT1T50034/


 20日の「報道ステーション」では難民と企業をマッチングするNPOの活動が紹介されていた。これは、日本の立法府が難民を排除するならば、NPOが何とかしなければならないという苦肉の策だが、日本では少なからぬ産業分野で外国人労働が必要とされている。難民たちを日本の労働に取り込むのは本来NPOの仕事ではなく、立法者である国会議員たちが考えるべきことだ。   

難民が活躍できる社会に 渡部カンコロンゴ清花さんインタビュー https://www3.nhk.or.jp/.../ohabiz/articles/2023_0105.html


 「世界難民の日」の意義も入管法改正に賛成した国会議員たちは意識していないことだろう。日本は1982年に難民条約に加盟して以来、難民として認定したのは申請者の1%にも満たない。

 国際移住機関(IOM)によれば、今年の1月から3月にかけての第一四半期、地中海経由で北アフリカから欧州に渡ろうとして死亡した移民・難民は441人に上り、四半期ベースでは過去6年で最多になった。命がけで中東やアフリカから地中海を渡る難民が増加した背景の一つにはロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアやウクライナからの小麦の輸出などが滞り食料事情が悪化したことがある。

 6月15日にも地中海のギリシア南岸で難民を乗せた漁船が転覆して少なくとも79人が亡くなった。乗船していたのはシリア人、アフガン人など750人ぐらいで、救出されたのは104人だったから犠牲者はもっと増えることだろう。ギリシア政府は同国の難民関連の事故としては最大規模だと発表し、3日間の服喪を発表した。

 パレスチナでは、難民にもなれずに、ヨルダン川西岸やガザ地区に閉じ込められて暮す人々がいる。イスラエル軍によるパレスチナ人の子供たちの人権侵害を監視する民間団体の「ミリタリー・コート・ウォッチ」が今年5月に出したニュースレターによれば、3月31日までにイスラエルによって「安全保障」上の理由で拘禁されたパレスチナの子供たちは151人に及び、そのうちの70%がイスラエルで収監されている。これは、ジュネーブ第4条約と国際刑事裁判所ローマ規程に違反する行為だ。

 難民の受け入れ・保護を考えると同時に、難民を生み出す中東やアフリカの民生、政治、社会の安定を考えることも日本の政策課題だ。そのような議論が国会からは目立つ形で聞こえてこない。米国の中東イスラム世界の戦争に加担するよりも、民生を安定させることが難民の流出や、過激な武装集団の台頭を抑制することにはるかに貢献することになる。ウクライナの戦争についても和平のための指導力を発揮するような姿勢は日本政府からは見えず、防弾チョッキや地雷探知機など軍事関連物資の供与ばかりが行われている。ウクライナ支援一辺倒だとロシアを刺激することになるが、現にロシア下院は20日、9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第2次大戦終結の日」とする法案を可決した。

宮沢賢治の言葉 https://shins2m.hatenablog.com/entry/20171021/p1


 「世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない。」(宮沢賢治「農民芸術概論綱要」『宮沢賢治全集』ちくま文庫)。まさにそういう思いで日本は難民の保護や、難民の出身国の政治・社会の安定に手を貸していくべきだろう。
アイキャッチ画像はhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000106295.html より

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