ガザ和平調停役から撤退するカタール ―国際社会で日本外交の力量が試されている
イスラエルとハマスの停戦のための仲介を行ってきたカタールは、イスラエルとハマスがカタールなどの調停国への努力に応じないかぎり、仲介者としての立場から撤退することを表明した。
今年5月初めにハマスはカタールとエジプトという仲介国に対して停戦案を伝えることを表明した。しかし、この停戦案をイスラエルのネタニヤフ首相はただちに拒否した。この時の停戦案の内容は、段階的に行われるものとして、第1段階ではイスラエルの刑務所に収監されているハマスの囚人50人の釈放と引き換えにハマスの人質になっているイスラエル人女性兵士らを解放することなどが含まれていた。第1段階は42日間にかけて実施され、この期間中イスラエル国防軍(IDF)はガザ地区内に留まるが、戦闘の停止が始まってから11日以内にガザ中部にあるIDF施設の解体を開始し、ガザ南北を走る主要ルートや海岸沿いの道路からIDFは撤退する。
第2段階も42日間で、この期間中にイスラエル軍はガザ封鎖を完全に解除することが求められた。しかし、ネタニヤフ首相はイスラエルの基本的な要求からかけ離れていることを理由に拒否した。ネタニヤフ首相はイスラエルの治安当局の再三の助言があったにもかかわらず、和平案を拒否し続けてきた。
ハマスが受け入れられるのはイスラエル軍のガザ地区からの完全な撤退だが、ガザの再占領と、ガザでの入植地の再建を考えるネタニヤフ首相やイスラエルの極右閣僚には、ハマスの要求を受け入れるつもりは毛頭なく、ガザへの軍事占領を続けるつもりだ。ネタニヤフ首相は停戦協議に前向きだったガラント国防相を解任したが、これもネタニヤフ首相の和平協議に対する消極的な姿勢を表している。
軍事占領は言うまでもなく、国際法に違反する行為であり、軍事を背景にする入植への抵抗は国際法によって認められている。ハマスがガザ内部に侵入してきたイスラエル軍に対して武力をもって抵抗することには国際法の観点からも正当性がある。
米国はカタールに対してハマスをカタールから追放するように求めたが、ハマスの幹部はカタール当局から国外退去の指示は一切受けていないと話している。ハマスをカタールから追放することを呼びかけ、ハマスに停戦協議への取り組みを求めるのであれば、バイデン政権はイスラエルに対しても同様な圧力をかけなければ公平ではない。
イスラエルによるガザ攻撃が始まってからすでに4万3500人以上のガザ住民が戦争の犠牲になった。一日も早い停戦が求められるが、停戦協議に日本も関心をもつべきだと思う。
以前も紹介したが、2019年10月27日付の「アラブ・ニュース」は、グローバルなデータ収集と分析の専門会社YouGovによる世論調査の結果は、56%のアラブ人が日本にパレスチナとイスラエルの和平調停を望んでいることを伝えている。それは、15%で2位のEU、13%で3位のロシアを大きく引き離している。パレスチナ人の間でも日本は第一位で、50%が日本の調停に期待していると回答した。
昨年ガザ戦争が始まって以来、日本はアラブやパレスチナの人々の期待に応えていない。岸田首相や上川外相などは「ハマスのテロ」を非難するばかりで、イスラエルに停戦努力を求めることはなかった。
「アラブ・ニュース」は日本がアラブ世界の信頼すべきパートナーと認められていると結んでいるが、日本はパレスチナについては「平和と繁栄の回廊」構想でヨルダン川西岸のジェリコ(エリコ)に農産加工団地をつくり、パレスチナ人の職の創出を目指し、和平に貢献することを目指してきた。日本の政治社会は議論が国内問題中心の傾向にあるが、パレスチナ和平への調停は、イスラエルによる戦争が中東地域や国際社会に甚大な影響を与えるために、日本の国際舞台で力量が試される問題だ。日本の公平な調停役としての役割をアラブやグローバルサウスの国々は求めている。