我々は歴史の正しい側にいる ―イスラエルの人権侵害とスコットランド・グラスゴーからの訴え
7月17日、パレスチナ保健省は2007年から続くパレスチナ自治区ガザへの経済封鎖によって、ガザにいる9000人のガン患者のうち50%が治療を受けられていないことを明らかにした。イスラエルのヘルツォグ大統領は19日、米上下両院合同会議で演説したが、民主党の数人の議員たちはこれをボイコットし、出席しなかった。イスラエルの日ごろのパレスチナ人に対する扱いに抗議するためだが、数日前プラミラ・ジャヤパル下院議員(民主党・ワシントン州選出)は「イスラエルは人種主義国家」と発言した。
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イスラエルのパレスチナ人に対する人権侵害を批判するスコットランドの詩人・シンガーソングライターのデクラン・ウェルシュ(27歳)は「我々は歴史の正しい側にいる」と7月7日にライブ会場で発言して、7月3日から5日にかけてのイスラエルによるヨルダン川西岸ジェニン難民キャンプへの攻撃を次のように強い調子で非難し、聴衆の喝采を浴びた。
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「ネルソン・マンデラは言った。『パレスチナが自由にならない限り我々の自由はない』と。先週、パレスチナの難民キャンプは爆撃された。空爆とヘリコプターの銃撃によるものだ。その後ブルドーザーによって平地にされ、イスラエル軍兵士たちは催涙ガスを撒いた。イスラエルの弾圧に正当な理由などない。イスラエル軍は世界で最も先進的な軍隊の一つだ。難民たちはキャンプ以外に住む場所がない。子どもたちが眠り、生活し、遊ぶ場所は他にはないのだ。(中略)イスラエルを批判することによって我々は歴史の正しい側にいる。難民キャンプは爆撃されてはならないのだ。まったく正当化できない。」
スコットランドは独自の国王によって統治され、議会(身分制議会)をもつ独立国家だったが、17世紀初めにイングランドと同君連合となり、ピューリタン革命の過程でクロムウェルによって武力で征服された。1707年に議会合同が成立したものの、スコットランド議会の意思決定とは異なって国民の圧倒的多くはイングランドとの合邦に反対であった。合邦発効の5月1日、スコットランド議会の前のセント・ジャイルズ大教会の鐘は「結婚の日というのに、どうしてこうも悲しいのだろう」(How can I be sad upon my wedding day)というスコットランド古謡の旋律を鳴らした。
サッチャー政権時代の新自由主義政策で、鉱業、鉄鋼業、織物業などへの政府補助金が廃止されると、その政権開始から2年の間にスコットランドの5分の1の労働力が失職した。また、1989年にはイングランドよりも1年早く人頭税が課せられることになったことも不評で、各地で抗議運動が起こった。2014年にスコットランド独立を問う住民投票が行われたが、反対が約55%、賛成は45%で独立は実現しなかった。しかし、2016年のブレグジットを問う国民投票では、イギリス全体とは異なってEU残留支持がスコットランドでは多数を占めた。スコットランドでは独立支持派と残留支持が拮抗するほど、独立への機運は消滅する様子はない。
日本ではスコットランド自体の動静はあまり報じられることはないが、1858年に日英修好通商条約を調印されると、その翌年にスコットランド出身のトーマス・グラバーが長崎に来日して、貿易商として活動して、長崎に西洋式の造船ドックを築くなど造船の街としての長崎の礎を築いたり、炭鉱の開発や、製茶工場を設立したりなど幅広く活躍した。その邸宅は「グラバー園」として長崎の観光名所になっていることは周知の通だ。
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日本で有名なスコットランドの製品としてはスコッチウィスキーがあり、タータン柄も親しまれている。卒業式で歌われる「蛍の光」はスコットランドの民謡だし、ゴルフ、カーリングなどのスポーツもスコットランドが発祥だ。「シャーロック・ホームズ」の作家コナン・ドイル、電話を発明したグレアム・ベルなどの人物もスコットランド出身だ。エジンバラ近郊にある世界遺産のフォース鉄道橋の工事監督を行なったのは、渡邊嘉一(わたなべ・かいち)という日本人でスコットランドの紙幣にも描かれている。NHKドラマの「マッサン」の主人公のモデルとなった竹鶴政孝は、グラスゴー大学に留学して有機化学と応用化学を学び、ウィスキー造りのノウハウを学んで日本でウィスキーの会社を興した。
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東日本大震災の際にスコットランドの蒸留所のグループは、共同開発ウィスキー「Spirit of Unity-絆-」を限定2000本発売し、売上の全額を復興支援として寄付した。ドラマの「マッサン」では「情けは人のためならず」という言葉が出てきた。「情けは人のためならず」とは、「人に情けをかけるのは、その人のためになるばかりでなく、やがてはめぐりめぐって自分に返ってくる。人には親切にせよという教え。」という意味である。(「故事ことわざ辞典」)デクラン・ウェルシュによるイスラエル非難の呼びかけも東日本大震災への支援と同様にスコットランドの「情けは人のためならず」という感情の発露なのかもしれない。