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次世代AIに欠かせない“アブダクション”って? ~ChatGPTを‘秀才’から‘天才’に変える方法~
※ 手っ取り早く「アブダクション」をLLMで試したい方は、参考となるプロンプト例を紹介してるのでこっちからお読みください
1️⃣ はじめに
最近の大規模言語モデル(LLM)は、論理的な推論や要約がすごく得意で、「めちゃくちゃ優秀な秀才」になってきましたよね。だけど、「天才」的なひらめきとか、新しいアイディアをゼロから生み出す力は、まだまだ弱いなーって感じる人は多いんじゃないでしょうか。
だいたいProとかで、おもったよりつかえねーってなってるパターンって、アイディア出しをポン出しとかでお願いしたら全然しょぼいのしか返ってこないとか、そういうのあるあるだと思います。
その背景には、「アブダクション」という仮説形成の能力が足りてないんじゃないか、っていうのをこないだふと思いポストしました。
生成AIの次のチャレンジテーマはアブダクションが実現できるか、な気がするのでその辺みんなナレッジとして先にどういうものかみておくとプロンプトとか書きやすくなって吉な気がするhttps://t.co/DRnkYgJ0EQ
— みやっち | 生成AIエバンジェリスト / AI プロデューサー (@miyatti) December 26, 2024
これはめちゃIQが高まってるといわれてるChatGPT o1 proにおいても、相変わらずゼロイチのアイディアだしはいまいちなところからも、現時点の課題はここにあるんじゃないかなーと思ってます。
ということで、この記事では、なんでアブダクションが大事なのか、そしてどうやって現時点のLLMにそれを補わせるか――私自身がいろいろと手を動かして実験してみて考えたことをまとめてみます。
2️⃣ あらためてアブダクションとは何か
アブダクションって言葉、きいたことありますかね? デザイン思考界隈とかでは結構よく話題にされる言葉で、ざっくり言えば、ゼロイチで新しい仮説を思いつくような思考(推論)法です。イノベーションや新しいアイディアを考える上でも大事な概念な要素ですね。
1. アブダクションの定義
アブダクションをちょっと形式的に表すと、こんな感じになるそうです。
- 驚くべき事実Cがある
- もし仮説Hが真ならば、Cはそれほど不思議ではない(説明がつく)
- よって、Cを説明できるかもしれないHを採用してみよう
チャールズ・サンダース・パース(19世紀の論理学者)の提唱した定義です。ここでCは「驚くべき事実」(case) を、Hは「説明仮説」(hypothesis) を指します。 彼によれば、アブダクションは「発見の文脈」で主に働く推論とのこと。つまり、まだ一般化されていない「新しい仮説」を提案する段階、ということですかね。
以下はアブダクションを含めた3大推論の定義です。
演繹 (Deduction) もう分かっている一般法則を前提にして、個別の結果を導く 例: 「全ての人間は死ぬ → ソクラテスは人間 → ソクラテスは死ぬ」 いわゆる「分析的推論」で、前提に含まれる情報をきっちり展開していくイメージです。
帰納 (Induction) いくつもの事例から一般的な法則を導き出す 例: 「ソクラテスは死んだ、アリストテレスも死んだ → 人は死ぬらしい」 実験や観察による“検証”の文脈で重要。たくさん経験を積んでモデルを良くしていく感じですね。
アブダクション (Abduction) 「なんでこんなことが起きてるの?」という“驚き”を起点に、まだ定まっていない仮説を立ててみる。 例: 「内陸で魚の化石が見つかった、ここが昔は海だったら説明がつくかも!」 みたいな一歩先の飛躍。 これは「拡張的推論」と呼ばれることもあります。未知の領域に踏み込んで新しい知識を生むのが特徴ですね。
2. 「拡張的推論」としてのアブダクション
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論理学者パースいわく、「アブダクションは科学的探究の出発点」だそうです。今の知識では説明しきれない現象に直面したとき、人間は「こう考えたら説明がつくんじゃないか…?」とひらめくわけです。 ただし、このひらめきが正しいかは別問題。当たり外れがある中でどんどん仮説を立てて、それを演繹や帰納で検証していき、最終的に生き残ったら「新しい知識になる」っていう流れですね。
アブダクション = 発見(Discovery)の文脈 例:さっきの「内陸で魚の化石が出た → ここ昔は海だったのかも!?」とか。
演繹・帰納 = 正当化(Justification)の文脈 例:アブダクションで出した仮説をもとに、実験や観察で「本当にそうなの?」を確かめる。
科学史を見ても、画期的な発見ってまず「ひらめき」から始まり、それを検証しつつブラッシュアップするパターン多いですよね。アブダクションがある意味“火種”になってるんです。
LLMは、演繹や帰納――つまり大量のデータを活かした推論や要約は得意ですが、「人間みたいに新しい仮説をパッと出す」のはまだ難しい。
これまでのパターンを再生産するのは得意だけど、「まだない視点」を提示するのはもう一工夫いる感じ。
「アブダクションっぽいアイディア」を出そうとすると、突然ランダムな方向に突っ走ったり(それっぽいけど微妙にずれてる)したりして、人間レベルの“しっくりくる”ひらめきには届いてない印象です。
このへんが、LLMがゼロイチのアイディア出しはまだまだだなーといわれる話で、要はアブダクションが苦手、という話とイコール、ということです。
3️⃣ LLMが苦手とされるアブダクション、それはなぜか、その仮説
本来のアブダクションには「能動的行動」が伴う
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なんでLLMがアブダクションが苦手か。
人間の場合、新しいアイディアをおもいつくときは、身体性が伴うことが多い。例えばシャワーをあびているとき、あえてぼーっとしているとき。体を動かして現地調査をしたり、道中で思わぬ偶然に遭遇して新しい視点を得たり。適当に回って環境を変えながら、驚きの事実(C)に出会い、それを説明する新しい仮説(H)を生み出す一連の流れです。仮説をパッと立ち上げる――これがアブダクションの肝なんですよね。
ここでポイントになるのは、“驚くべき事実”に遭遇するプロセス。 そんながっつり体を動かさなくても、論理的推論からはなれてあーでもないこーどもないと、自分の脳内をひっくり返して、ある種脳内を旅してアイディアだしたりするのも、身体的といえると思います。
人間は、実際に身体を動かして調べに行ったり、新しい環境に踏み込んだり、たまたまの発見(セレンディピティ)を得たりすることで、「え、そんなことある?」みたいな現象に出会いやすい。
一方LLMがアブダクションを苦手とする理由として、大きく3つ挙げられるかなと思います。いずれも、人間や動物の「生きるモチベーション」や「無意識の連想」みたいな部分と絡んでいて、そこをLLMは自然に持ってない、という構造的な問題があります。
1. 行動をともなう「能動的推論」が足りない
能動的推論(Active Inference)と脳の大統一理論
こうした「行動して仮説を学ぶ」仕組みを説明するモデルとして、最近話題になってるのが脳の大統一理論で能動的推論(Active Inference)という考え方です。
生物は“未来の不確実性”=「死ぬ確率」を減らすために動く
そのためにまずは、常に生物は「推論」をしつづける。どうしたら自分が死なないか。エネルギーを保持できるか、獲得できるか。
さらに、その過程で、新しい情報を積極的に取りにいって、驚きや仮説形成を繰り返す。それが「行動」。そしてそれは推論と同じ、未来の不確実性を下げる振る舞いである。なので行動は推論の一種として「能動的推論」といえる
LLMは「行動しながら未来を切り開く」流れが弱い、もしくはそもそも欠落してる。
「能動的推論(Active Inference)」の見方だと、生物は“未来の不確実性”を下げるために自ら行動して、新たな情報をどんどん取りに行きます。
こういう行動が、アブダクションを発火させる“驚き”や“意外性”を引き寄せるんですが、LLMはもともと行動する“主体”としては作られてない。
LLMは基本的に「入力されたデータ」の中でテキストを処理するように設計されてるから、周囲をうろうろ動き回る仕組みとか、「その場の偶然に出くわす」要素が弱い。だから意外な事実を自力で拾いにいくのが苦手なんです。
最近は「エージェント」としてウェブ検索や外部APIにアクセスできる形態もあるけど、“死活問題”レベルの切迫感がないので、環境をガチで探索しようって意欲は生まれにくいですよね。
2. 「生存本能」や「報酬設計」がない
人間や動物にとって、アブダクションをゴリゴリに回す原動力って、やっぱ生存本能や欲求なんですよね。
「これ解決しないと死にかねない」「家族を守るために何かしなきゃ」みたいな強い動機が、普段やらない選択肢を試す“大胆な探索”を生む。
でもLLMって「死ぬリスク」もなければ「痛い」とかもないから、わざわざ危険を冒して未知を開拓するって発想が自然にはわいてこない。
強化学習だけでは不十分?
LLMに強化学習を組み合わせれば「高い報酬狙いの動き」をある程度模倣できます。チェスや囲碁AIが勝利を目指して多彩な手を打つように、報酬アップをめざして新しい手段を試す、みたいな動きは可能です。
とはいえ、人間って勝ち負け以外にも「名誉」「愛」「好奇心」とか、いろんな要素が絡んで予想外の仮説が出てくる。
LLMはそういう多面的バイアスを原理的に持ってないので、「ここで冒険すると面白いかも!」って思い切った思考には限界があります。
3. 「無意識の連想ゲーム」がない
人間の脳は、集中してない“ぼんやりタイム”とか寝てる間に、意識にのぼらないところでいろんな連想や組み合わせを試してるっていう説があります(デフォルトモードネットワーク)。そこから、意外なアイディアや仮説がふっと出てくるんですね。
LLMは「入力→出力」の一発勝負なので、無目的に連想し続けるモードがほとんどない。
もしLLMに「ランダムに膨大な出力を生成して相互に比較する」みたいな仕組みを加えれば、人間の無意識っぽいことは少しできるかもしれないけど、膨大な計算リソースが必要になりがちです。
無意識モードをどう再現する?
たとえばChain-of-Thought(思考プロセスの可視化)や、外部ツールとのやりとりを連続させる研究が進んでるけど、人間みたいに「明日になってみたらふと思いつく」みたいな無意識的熟成までは、まだ道のりが長そう。
要は、「ぼんやり連想が勝手に回ってて、急に仮説が出る」みたいなモードをどうAIに作るかが、大きな課題ってわけですね。
LLMのアブダクション実現に足りないもの
能動的な行動: 環境を変えたり探索する主体性(Active Inference的視点)が弱い
強力な動機づけ・バイアス: 命がかかる必死さや、大切な家族を守りたいみたいな内発的欲求がない
無意識的な連想: デフォルトモードネットワークみたいな、勝手にアイデアが熟成されるプロセスがない
つまるところ、アブダクションには「驚き」と「大胆な仮説」が必須。LLMはデータをもとに論理的に推論するのがうまいけど、「驚くような事実を見つける」とか「誰もやらないバイアス破壊」を自主的にやるのが苦手なんです。 ここをどう補うか、あるいは実装していくかが、LLMを“秀才”から“天才”に進化させるための大きなポイントだと言えますね。
4️⃣ 今からでもできる、LLMにアブダクションを促すプロンプトフレームワーク実践例
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なぜフレームワークが必要なのか?
LLMって、もともと「過去に学習したデータからいちばん“それっぽい”答えを出しやすい」仕組みなんですよね。「ソクラテスは死んだ、アリストテレスも死んだ → 人は死ぬらしい」というような帰納的推論というやつ。これって裏を返すと、「ありきたりなアイディアはすぐ出せるけど、ちょっとクセのあるアイディアは基本的に“出にくい”」ということなんです。
だから、ただ「面白いアイディアちょうだい!」と頼んでも、どうしても帰納的推論に頼って“そこそこ無難”なアウトプットに落ち着きがち。
フレームワークをあらかじめ用意して「ここをズラそう」「この枠外狙おう」といった誘導をすることで、機能的推論を超えて、探求的推論を促せる。思わぬ発見、驚きにであわせる。LLMを“ブルーオーシャン”へ飛ばしやすくなるわけです。
バイアスブレイクフレームワークを使う例
探求的推論を促せるなら、どんなプロンプトでもいいわけですが、おすすめなのが、バイアスブレイクというやつ。濱口氏が提唱するイノベーションの手法のひとつで、以下の3ステップを踏んでアイディアをガンガン広げます。LLMへのプロンプトを作るときも、この流れを取り入れると結構スムーズ。
バイアスの可視化:さっき洗い出した“当たり前”とか“固定観念”をリストアップ。桃太郎なら「桃太郎=ヒーロー」「鬼=悪役」みたいなやつ。
バイアスの破壊:「逆に鬼がかわいそうだったら?」「実は桃太郎が黒幕だったら?」みたいに、思いきってタブーに突っ込む。「じゃあそれでどんな話になるか、箇条書きでいいから書いて?」と具体的に形にさせる。
ステップ1:バイアスの可視化
ターゲットを決める 例:「昔ばなし『桃太郎』をアレンジして、もっと今っぽい感じにリメイクしたい」 例:「自社で新しいビジネスのネタを考えたいけど、既存の業界常識を崩すアイディアが欲しい」
既存の“あたりまえ”を洗い出す 例:「桃太郎=正義」「鬼=悪」という固定観念 例:「この業界では○○が必須、みたいな常識」 実はこれらが“バイアス”として働いてるかもしれないので、意識化して崩しやすくしましょう。
例:バイアス抽出プロンプト
桃太郎という昔ばなしを面白くしている構成要素をいくつかリスト化して
たとえば
・勧善懲悪
・グループでたたかう
...
出力例
以下に、桃太郎を面白くしている主な構成要素をいくつか挙げます。
勧善懲悪
悪さをする鬼に正義の主人公が立ち向かい、懲らしめるという、分かりやすい勧善懲悪の構図が魅力です。
仲間と一緒に戦うストーリー
犬・サル・キジが仲間として加わり、グループで協力して鬼退治に向かう展開が物語を盛り上げます。
主人公の出自の特別感
川から流れてきた桃から生まれたという、普通とは違う生い立ちが物語に神秘感を与えています。
冒険と危機感
鬼ヶ島へ赴くという遠征や、敵である鬼の存在など、冒険心をそそる設定が読者(子ども)をわくわくさせます。
報酬・成功のイメージ
最後に鬼を退治して宝物を手に入れ、村に貢献するというハッピーエンドが、爽快感をもたらします。
繰り返し要素
犬・サル・キジそれぞれにきびだんごを与えて仲間になる、というパターンが繰り返されることで、子どもにも分かりやすく印象に残ります。
例:軸づくりプロンプト
それぞれをパラメータと考え、軸とします
いまあげたものをこのような軸として表現してください
(例:勧善懲悪<->グレー、仲間<->ひとり、他にもいろいろ...)
出力例
以下に、先ほど挙げた「桃太郎」の魅力的な構成要素を、それぞれ“軸”として両極端で表現します。作品を比較・分析する際などに活用できるよう、パラメータのイメージで記載します。
勧善懲悪 <--> グレーな展開
(例)「正義が悪を懲らしめる」明快なストーリーか、「善悪の境界がはっきりしない」曖昧な展開か。
仲間とともに戦う <--> 一人で戦う
(例)「助っ人やチームで力を合わせる」か、「主人公が孤軍奮闘する」か。
特別な出自 <--> 平凡な出自
(例)「桃から生まれる/超常的な存在」か、「一般的な家庭に生まれ育つ」か。
冒険・危機感 <--> 日常・安全
(例)「鬼ヶ島に乗り込む/遠征がある」など非日常体験か、「あまり危険を伴わない日常的物語」か。
報酬・成功のイメージ <--> むなしさ・失敗の結末
(例)「鬼を倒して宝物や名声を得る」か、「結果的に何も得られず空回りで終わる」か。
繰り返し要素 <--> その都度ランダムな展開
(例)「犬・サル・キジを順に仲間にするような繰り返しのパターン」か、「行動がすべてアドリブで、場面ごとに展開が異なる」か。
ステップ2:バイアスの破壊
二軸マトリックスで視覚化し、ズラす
桃太郎をアレンジするときに便利なのが、二軸マトリックスを使った発想整理です。例えば、
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縦軸「勧善懲悪 vs グレー展開」、横軸「仲間と戦う vs 一人で戦う」で4象限に分ける感じ。このマトリックスの各ゾーンを見ると、「ここはあんまり使われてない?」とか「ここ王道すぎるな?」とか見えてきて、LLMへの誘導がしやすくなる。真逆にガッと振ると、ちょっと荒唐無稽に振りきれがちなので、「ちょっと隣に移動する」ぐらいが意外と穴場だったりします。
アブダクションの本質を思い出します。生き残りたいから、そのために推論をする。そのために行動、能動的推論をする。
少しでも競争相手が多いところを避けて、おいしいエサを探す、みたいなのがアブダクションの肝なんじゃないかってわけです。
LLMは放っておくと、確率の高いとこ(ありきたり)に落ち着く。でもそこは、めちゃくちゃレッドオーシャンで競争に負けてしまう。そこで、人間が「少しだけズラす」ツアーガイドをやって、生き残るための探索を促すのが大事。
例えば、
真逆:桃太郎が実は鬼サイドで、鬼こそ正義。もちろん面白いけど「それ、桃太郎かな…?」となりやすい。
少しズラす:桃太郎は正義感あるけど、道中で鬼の事情を知って悩む、とか鬼にも善人がいる設定にするとか。読者が「なるほど!」と思う新鮮さを出せるかも。
例:マトリックス展開・ズラしプロンプト
このなかから2つの軸を選んでパターンを3つ作ってください。
それぞれ4つのサブパターン(勧善懲悪×仲間/勧善懲悪×ひとり...など)
おもしろいあらすじを箇条書きで書いて
出力例
### パターン1:勧善懲悪×仲間
**軸**
- 勧善懲悪 <--> グレー(善悪が曖昧)
- 仲間とともに戦う <--> 一人で戦う
#### サブパターン1.1:勧善懲悪×仲間
- 桃太郎は「鬼=悪」と明確に決め、正義の使命として鬼退治へ。
- おばあさんからもらったきびだんごで犬・サル・キジを仲間にし、力を合わせる。
- 悪事を働く鬼たちを成敗し、村人から称賛される。
- 正義vs悪がはっきりした、分かりやすいハッピーエンド型のストーリー。
#### サブパターン1.2:グレー×仲間
- 鬼が村に迷惑をかけてはいるが、実は鬼にも生きるための事情があるという背景がある。
- 桃太郎は迷いつつも、犬・サル・キジと協力して鬼ヶ島へ向かう。
- 鬼たちと戦いながらも、「本当に倒すべきか?」と葛藤が生まれる。
- 最後は"鬼と和解する""一部だけ退治し和解を模索する"など、単純な勧善懲悪ではなく、グレーな結末を迎える。
#### サブパターン1.3:勧善懲悪×ひとり
- 桃太郎は生まれつき強い正義感をもっており、仲間を募る必要を感じない。
- 一人で鬼ヶ島へ出発。強力な鬼に苦戦しながらも「絶対に悪は許さない」という強い信念で立ち向かう。
- 村人は心配するが、結局、桃太郎は一人での鬼退治を成し遂げ、村に宝物を持ち帰る。
- 「味方なしでも正義を貫く」という孤高のヒーロー像が際立つストーリー。
#### サブパターン1.4:グレー×ひとり
- 桃太郎は周囲に味方を求めず、自分の判断で鬼に挑む。
- 鬼の悪事に苦しむ村人を見て「倒すべきか」「他の手段はないか」と悩みつつも単独行動。
- 戦いの中で鬼の境遇を知り、完全には割り切れないまま激突。
- 最終的に鬼を打ち負かすか、それとも共存の道を探るか…結末がはっきりしないグレーな物語。
### パターン2:冒険・危機感×報酬・成功
**軸**
- 冒険・危機感 <--> 日常・安全
- 報酬・成功 <--> 虚しさ・失敗
#### サブパターン2.1:冒険・危機感×報酬・成功
- 桃太郎は「このままでは村が滅びる」と聞き、命がけで鬼ヶ島へ。
- 道中も嵐や岩場など危険が多く、犬・サル・キジも苦戦を強いられる。
- 鬼の砦を攻略し、見事にお宝を奪還し、村へ帰還。
- 冒険のスリルと大成功のカタルシスが強く味わえる、王道ヒロイック展開。
#### サブパターン2.2:日常・安全×報酬・成功
- 実は鬼ヶ島はそれほど遠くなく、小舟で気軽に行き来できる程度の場所。
- 桃太郎は散歩気分で犬・サル・キジを連れて出発し、鬼の砦もあまり警備が厳しくない。
- 小競り合い程度で鬼を退治し、宝物を手に入れる。
- 大きな危機感もないままに気軽に成功する、どこかのほほんとした物語。
#### サブパターン2.3:冒険・危機感×虚しさ・失敗
- 強敵の鬼が待ち受ける鬼ヶ島へ、桃太郎たちは困難を覚悟で出発。
- 予想以上の鬼の力や罠により、仲間が負傷したり、船が沈んだりする。
- 結果的に桃太郎は大きな被害を出しながら撤退し、宝物どころか状況が悪化する。
- 「冒険はしたが、得るものは少なく、むしろ損害を被った」という苦い結末。
#### サブパターン2.4:日常・安全×虚しさ・失敗
- 鬼ヶ島はすぐ隣の島で、桃太郎は犬と気軽に出向くが、鬼が思ったより手ごわいわけではない。
- ところが、取り返す宝物も大してなく、鬼も特に大悪党というわけでもない。
- 結局、小競り合いだけしてなんとなく帰ってきたが、得たものも学んだこともほとんどない。
- 失敗とまでは言わないが「何だったんだろう…」とむなしさだけが残る結末。
...(以下省略)...
LLMは具体的な指示があると、ふだんなら選ばない方向も意識的に探ってくれたりします。結果、思ってもみないアイディアがポコっと出ることが増えるんですよ。
要点まとめ
フレームワークで地図を作って移動を促す いろんなフレームワークを使って、まずはLLMに筋のいい探求的推論のために、
“ズラし”を具体的に指示する 「真逆にぶっ飛ばす」だけじゃなくて、「隣のマスへちょっとずらす」みたいな指示で、生き残る確率が高い推論を促す
アブダクションさせたら、それが妥当かどうかをLLM自身に判定させる そのアイディアの妥当性は、そこからLLMと議論をして分析的推論を思う存分してもらう。LLMの大得意分野。
結局、LLMに“勇気ある飛躍”を求めるんじゃなくて、人間がある程度ガイド(フレームワーク)をセットして、ズラし方を細かく指定するのがコツです。
LLMの演繹&帰納力は高いので、フレームワークさえ決まってればスムーズにパターンを埋めてくれる。
そのおかげで、普通なら選ばないような突飛な組み合わせや、ほんの少しだけハズれたアイディアが自然に出てきやすくなるんです。
とはいえ、フレームワークのみで解決できるのは、
能動的な行動: 環境を変えたり探索する主体性(Active Inference的視点)が弱い
のみ。しかも、フレームワーク自体がバイアスである可能性もあり、本来の人間の自然な能動的推論とはやはり異なる。そして以下2点は、このやり方ではカバーできない。
強力な動機づけ・バイアス: 命がかかる必死さや、大切な家族を守りたいみたいな内発的欲求がない
無意識的な連想: デフォルトモードネットワークみたいな、勝手にアイデアが熟成されるプロセスがない
これらについては、LLMのモデル自身が今後進化をとげることを待ち望む
5️⃣ ずっとLLMはアブダクションを理解できないままなのか?
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アブダクションが大事だって話をずっとしてきて、それを現段階でリカバーできるフレームワーク手法の紹介なんかもしましたが、結局のところ「LLMはアブダクションが苦手」という事実が一番大事かもしれません。演繹や帰納はめちゃくちゃ得意なのに、ゼロから斬新な仮説をポンと出すのはまだ人間ほどじゃない。
いまは人間がボトルネック、でも、そこも任せられる時代が来る?
たとえばエージェント的なフレームワークとかシステム開発だと、LLMを使うと結構自動化できますよね。
だけど、「ゼロから発想する」「何がしたいかを決める」部分は、まだ人間側がボトルネックになることが多い。
でも、アブダクションを誘発する仕組みやフレームワークを人間が用意して、LLMに大量に試行させれば、想像以上のアイディアが出る可能性もある。
もちろん、まだ“生存本能”なんかはエミュレートしてないので、「そりゃ人間の発想力には勝てないでしょ」って思う人は多いかもしれない。ただアブダクションがLLMがずっと無理かっていうと、そうでもないと思います。
もうすでにエージェント機能とか強化学習を組み合わせて、LLMが勝手に情報検索したり行動したりする研究は進んでますし。
「報酬設計を工夫する」「無意識的連想をシミュレートする」「生存本能みたいな動機を仮定する」なんてアプローチがさらに進めば、アブダクション的な発想を大規模に試せる時代が来るかもしれません。
そうなったら、LLMが人間レベル、もしくはそれ以上にアブダクションを回す未来も十分ありえます。
もしそうなったら、「アブダクションは人間だけの特権」って余裕ぶっこいてる“哲学者”や“アイディアマン”の立場が危うくなるかもしれない。
ひょっとしたら、LLMが人間を超える“直感的発見”をめちゃ速でやっちゃうようになって、「え、こんなことまで考えつくの?」って人間が逆に驚く時代が来るかもってことです。
6️⃣ 今、人間ができることは、LLMができること、できないことをきちんと把握すること
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アブダクションの概念を知らないと、LLMをちゃんと評価できない
なので、まずは今人間がやれること。アブダクションについて理解LLMを評価するとき、「文章がうまい」とか「答えが正確」みたいな論理面だけ見がちですよね。
でも、アブダクション(新しい仮説をひらめく力)はどうなの?という視点で見ると、LLMの弱さと限界、そして可能性がスパッと見えてくる。
これを知らずにいると、LLMをただの“超便利な要約マシン”ぐらいで止めちゃうかもしれない。
逆に、人間が「LLMにはアブダクションが足りない」と理解してれば、そこを埋めるようなプロンプト作りやフレームワークづくりがうまくできる。
それによって、今のLLMでももっと創造的なアイディアを引き出せるし、
将来的にLLMが“天才化”しかけたときに、どう使うか、どう評価するかも見極めやすくなるってわけです。
心理学や脳科学の知見がLLM開発に役立つ
「アブダクション」ってもともと論理学とか科学哲学の概念だけど、実は心理学や脳科学ともかなり関係深いんですよね。
たとえばデフォルトモードネットワークでいう「無意識の連想プロセス」とか、「生存本能が生む強いモチベーション」とか、AI研究では意外と軽視されがちな領域にヒントがある。
ここを掘り下げれば、LLMに「なんとしても解を探そう!」って切迫感を与えたり、「ボーッと連想し続けるモード」を実装したりも期待できるかもしれません。
LLMを使いこなすということは、人間の心理・脳を理解することにつながっていると思います。LLMで泥臭く手を動かすことと同時にこういったことに関心を向けるのが吉です!
📝この記事のいいたかったこと
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LLMは演繹・帰納の秀才だけど、新しい仮説を作るアブダクションがまだ苦手。
でもそれを逆手に取れば、「どうすれば“天才”になれるか?」がハッキリ見えてくる。
「アブダクションが足りない」と理解しておけば、フレームワークやプロンプトを工夫することで、今でもLLMからかなり創造的なアイディアを引き出せる。
将来的には、生存本能や無意識モード、つまり人間の“能動的推論”をAIが再現する可能性もある。
そうなると、人間がゼロイチで余裕かましてる時代は終わるかもしれないし、本気でLLMが天才的なアブダクションを発揮するかもしれない。
結論としては、「今は人間がガイド役(地図やフレームを設定して、ちょいズラしを促す)をやりつつ、LLMにどこまで任せられるか探っていく段階」です。
心理学や脳科学の知識もめちゃ大事になるでしょうし、LLMを作る人も使う人も、そういう領域を学んどく価値は大いにある。
それで、“なんでこのアイディアが必要で、どうアブダクションを促すか”をちゃんと理解して、LLMをフルに活かせるようになるはずです。
“秀才”だったLLMが“天才”を超える時代、きっと近いかもしれません。今のうちにアブダクションの概念を押さえておいて、人間とLLMが組んで限界を突破する準備をしときましょう。