恋するボルシチ
1月5日の小寒を過ぎた東京の街。
本格的な寒さが訪れ、ぴんと張りつめて澄んだ空気に包まれると、ふとロシア料理が食べたくなる。
熱々のボルシチ・ Борщ 。
その深々とした紅葉色に暫し目を奪われ、次の瞬間スメターナ(ロシア風サワークリーム)の白との鮮やかなコントラストにどきりとさせられる。
その名も火焔菜(スヴョークラ)なるビーツとトマトがボルシチの紅を彩る。
スメターナの酸味とスヴョークラとトマト、キャベツ、玉葱、そして濃厚な肉汁の旨味がまぐわい、醸す甘みは、舌を這い、食道のうちに優しく降りていく。スープの熱と滋養が胃袋に染み渡り、ふーっとため息をつく。
分厚く切られた肉片とじゃがいもを口に含み、噛めば、あたかもその時を待っていたかのようにそれらはふわりと崩れ、うま味と甘みが口の中いっぱいに広がる。
「う~ん…」
感嘆が思わず声になる。
もう一度スープをゆっくり口に含み、極寒の国のお袋の味に心を暖める。
焔のような紅と、真夏のような熱と、初恋のような甘さを併せ持つ、そんなボルシチだった。
今度は、凍らせてとろとろになったヴォッカ、ストリナチヤを喉に流し込めば、もう寒い冬は意識の彼方に遠ざかる。
@スンガリー新宿東口本店。