生成AIをプロダクトに組み込むなら押さえておきたい5つのポイント
こんにちは。「教育に、人に、社会に、次の可能性を。」をミッションに掲げるatama plusで、UXデザインやプロダクトマネジメントを担当している宮田です。
先日、当社では生成AIを活用した新機能「AIステップ解説」をリリースしました。
生成AI(Generative AI)はいよいよ実用化フェーズに入り、多くの可能性が広がっています。しかし、適切なUX設計を怠ると、期待した成果を得られず失敗するリスクも伴います。本記事では、私が「AIステップ解説」機能を開発する際に重視したポイントや、リサーチを通して得た知見をまとめて紹介します。
1. 怠惰の法則
人間は本能的にエネルギーを節約し、最小の労力で目的を達成しようとします。Chat GPTでAIにわざわざ話しかけようと思う人は10%程度。さらにプロンプトを入力する人は1%もいないでしょう。
多くの人にとって「AIには何ができるのか」も未知数ななかで、「ユーザー自身が実行したいことを言語化して入力する」という行為は非常にハードルが高いと言えます。
この言説を裏付ける事例として、質問回答サービスのQuoraは「課題を言語化して質問する能力」を重視し、「優れた回答者」よりも「優れた質問者」にリワードを設計しています。 これにより、ユーザーは積極的に優れた問いを投げかけ、それを見た別のユーザーが優れた回答を投稿し、コミュニティ全体の質が向上したそうです。つまりリワードが必要なほど「課題を言語化して質問をする」という行為にはエネルギーを要するのです。
例えば、MiroのAI機能はテンプレートからプロンプトを選択でき、そのまま実行できることでユーザーの労力を最小にしています。守破離の概念のように、まずは用意されたものを使い、出力結果を調整したくなったらそのテンプレートに改良を加えればいいのです。
2. 過剰な期待を避ける
生成AIを活用した機能のデモやオンボーディングにおいて、ユーザーの期待値を適切に調整することは極めて重要です。
ユーザーがAIの能力を正しく理解していないと、魔法のような期待を寄せられた結果、信頼を失い離脱してしまう可能性があります。デモやサンプルでどのようなレベルのアウトプットが出力できるか事前に示すことが有効です。
このような課題を軽減するための設計はDefensive UXと呼ばれており、以下の記事でも紹介されています。
https://eugeneyan.com/writing/llm-patterns/#defensive-ux-to-anticipate--handle-errors-gracefully
Galileo AIは生成したUIをFigmaで編集可能にし、ユーザーのワークフローに落とし込むことで最終的な出力をユーザーに託しました。これによりユーザーはGalileo AIのことを「100点のUIを一発で生成してくれるツール」ではなく「80点の下書きをクイックに生成するツール」として期待するでしょう。
(参考:https://pivotmedia.co.jp/movie/11821)
3. AIの出力精度の向上
期待値の調整により100%の精度を求められることは少ないですが、それでもある程度魅力的な精度がないと使われないプロダクトになるでしょう。RAGなどの高度な手法を使わなくても、プロンプトや入力データを工夫するだけでも大きく変わってきます。
プロンプトの工夫
プロンプト(AIへの指示文)の質がAIの出力結果に直結します。Open AI公式のプロンプトジェネレータの利用や公式のガイドライン(Open AI, Anthropic)を参考にすることで、精度を上げることが可能です。
データの前処理
プロンプトを通してデータを渡す際には、事前にデータの整形や不要な情報の除去を徹底することが重要です。Appleの研究によれば、無関係なデータが混入すると、回答の精度が下がることが明らかになっています。
ユーザーの入力を制限する
AIに対してユーザーが自由に入力できるようにすると、LLMが答えづらい曖昧な内容が来るかもしれません。十分なコンテクストをもらうために、いくつかのクローズドクエスチョンに答えていくようなUIも有効でしょう。選択式UIや予測変換によってユーザーの入力を制限することも有効です。
高度な手法の活用
RAGやファインチューニングといった手法を活用することで、AIのパフォーマンスをさらに向上させることが可能です。
ただし、PMFしていない検証段階の機能では、LLMの進化を待つことも立派な戦略です。LLMの進化は巨大企業に任せて、ユーザーの課題に向き合うことに時間を使うべきです。
4. 待ち時間を減らす
Webサイトではページの読み込み時間によって直帰率が大きく変わるように、生成AIを利用する際の待ち時間も、同様にユーザー体験に大きな影響を与えます。
高速なモデルの選定
高度な推論が必要でない場合は、「GPT-4o-mini」や「Claude 3.5 Haiku」などの回答速度が速いモデルを選ぶことで、ユーザーの待ち時間を短縮します。ローディングの導入
視覚的にローディングアニメーションやスケルトンスクリーンを表示することで、ユーザーの不安を和らげます。さらに今何に時間がかかっているかをテキストで表示することも有効です。ストリーミング表示の活用
AIの生成を最後まで待たずに、1文字ずつストリーミングして都度表示することで体感時間を減らすことができます。非同期生成の活用
ユーザーが別のタスクを行っている間にバックグラウンドで生成処理を進めることで、待ち時間を実質的にゼロに近づけることができます。(空港でたくさん歩かされるのと同じですね)
5. フィードバックループの構築
生成AIをプロダクトに組み込んだ後、効果を継続的に評価・検証することが成功の鍵です。AI機能が期待通りの成果を挙げているかを確認し、必要な改善を行いましょう。
認知促進の工夫
フィードバックを集めるにはユーザーにAI機能を認知してもらうことが大前提です。例えば、AI機能のアイコンを目立たせるなど、視覚的にわかりやすくすることで、ユーザーの興味を引きます。常に目立たせるのではなく、ユーザーが利用したいと思う瞬間だとさらに効果的です。ログデータの収集と分析
ユーザーの行動データを詳細に記録し、いつ、どのように使われているか。繰り返し利用されているかを計測しましょう。アンケートの実施
機能利用後にプロダクト内でワンタップで答えられる簡単なアンケートを実施し、「ユーザーがアウトカムを達成できたか」「生成AIのアウトプット品質は十分か」を確認します。必要に応じて追加のアンケートやヒアリングを行いましょう。
優れたUXのAIプロダクト事例
これまで紹介した5つのポイントを使ってプロダクトに上手くAIを組み込んでいる事例を紹介します。
SpeakのオンボーディングUX設計
Speakはユーザーが英語でスピーキングする前に日本語で練習できる機能を提供しています。これにより、発話のハードルを下げ、ユーザーがリラックスしてAIと対話できる環境を整えています。また、発話内容を自動でまとめてAIとの対話を進めるため、ユーザーはまるで専用のチューターがいるかのような体験を享受できます。
Poeの選択肢提供
ユーザーがフォローアップ用の質問を選択肢から選べるようなインターフェースを提供することで、AIとの対話をスムーズに進めることができます。
Feloのローディング表示
裏側で今何を実行しているのか表示したり、スケルトンスクリーンを組み合わせたりすることで待ち時間の不安を和らげています。
Feloの出典確認機能
AIが生成した情報の出典を確認できる機能を搭載し、ユーザーが情報の信頼性を確保できるようにしています。マウスホバーで直ぐに確認できる上に外国語のサイトも日本語で表示してくれます。
ブラウザArcの融けるデザイン
ArcではAIを意識することなく通常の操作(検索結果をホバーする・ブックマークに追加する)をしているだけでAI機能のささやかな利便性を感じることができます。
全自動議事録AIツールtl;dv
会議が全自動で録画・文字起こし・要約・CRM連携されるので、一度導入すればユーザーが操作する必要は全くありません。
https://tldv.io/ja/record-zoom-meeting/
まとめ
生成AIをプロダクトに組み込む際には、単にAI機能を追加するだけではなく、ユーザー体験を最大限に引き出すための細かなUX設計が求められます。
人間の「怠惰」に寄り添ったインターフェースを提供する
ユーザーの期待値を適切に調整し、信頼を築く
AIの出力精度を高め、信頼性のある結果を提供する
応答待ちの時間を快適に感じさせる工夫を施す
効果を継続的に検証し、改善を行う
データを整形しプロンプトを調整してAIを使いこなすなんて面倒な作業は忘れて、最高のタイミングで「これが欲しかった!」となる機能を提示することが「生成AIの民主化」としてユーザーに価値を届ける上で最重要です。
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生成AIや機械学習からルールベースのロジックまで様々な技術を活用し、生徒にとって最高の学習体験を提供することをめざしています。毎週のように現場の生徒や先生と連携しながら、現場とデータの両面から熱量高くプロダクトを開発しています。