「イッカボッグ」J.K.ローリング
出会い方:図書館の新作おすすめの中に、J.K.ローリングさんの名前を見かけ、ハリーポッターからしばらくしての新作とのことで気になって借りてみる。
あらすじ:立派な口髭を持つ王様が治める、コルヌコピア王国。世界一幸福な国だったが、ある出来事をきっかけに怪物の伝説を利用することに。次第に国は荒廃していくが―
感想:外国の翻訳ものはあまりなじみがないけど、さすがに世界でも知らない人はいないハリーポッターの原作者の作品とあって、子供でも読みやすい言葉や表現ですーっとその世界に滑り込んでいきました。しかし、その内容は決して子供向きとは思えない、人間の欲や暴力・嘘がありありと展開されているのです。一行でまとめるとしたら『能力に合わない権力を持つ人の怖さ』といったところでしょうか。王様は近い人からの言葉だけがこの国の民衆の意見だと感じている。側近は今の地位を守るために嘘を嘘で塗り固めていく。そして、この世とは、人間とは、不公平であることを正直に伝えてくれる。別世界のファンタージーを通して、今の世の中や自分自身への戒めを痛烈に胸に刻んでくれました。
このタイトルでもある「イッカボッグ」とはこの中の世界に住むとされるが誰も見たことの無いモンスターです。このモンスターが示すのは、実際の腕力としての脅威、実体のない物への不安、証拠の無い罪の擦り付け、そして真の恐れとは、小さい力だった者たちが集団になった時の恐ろしいとも思える圧力です。これはまさに今のネット社会や不安の中で生まれる歪んだ帰属感にも通じるものを感じます。
物語の後半で、「生まれたときの世界に見えたものが自分の基準になる」というシーンがあります。つまりは『自分という個性は環境に影響される』という誰でも当てはまる状況です。物事は近すぎても遠すぎても、真実が見にくくなりますが、逆に自分の心の在り方で変えられるということでもあります。敵か味方か、幸か不幸か、損か得か、なるべくならいい方を選びたいのならその距離感とピントの合わせ方をコントロールするためにも正しい知識と平穏な心を意識して持ち続けたいものです。
この「イッカボッグ」も映画化されたら面白そうだなぁ。