【連載企画】JRA70周年 馬と共に
JRA(日本中央競馬会)が今月70周年を迎える。これまでに競馬事業だけでなく、馬事文化振興など「人と馬」をつなぐ役割を果たしてきた。歴史において馬との関係が深い本県にも、JRA宮崎育成牧場(山本修場長、宮崎市花ケ島町)があり、市民に長年慕われている。育成牧場の役割や歴史を紹介する。
※このコンテンツは、2024年9月11日~9月14日まで宮崎日日新聞社・地域版に掲載されたものです。登場される方の職業・年齢等は掲載当時のものです。ご了承ください。
上 競走馬に
人との信頼関係築く
■来夏デビュー向け調教
9月5日の朝、JRA宮崎育成牧場のきゅう舎前には北海道から陸路で来る1歳のサラブレッド12頭を待つ職員たちの姿があった。長旅の疲れを案じながら、くらも付けたことがない若駒たちに「人と馬の関係」を教え、競走馬に育てていく使命感に満ちていた。
JRAの育成牧場は、北海道・日高と宮崎の二つ。来夏デビューを目指し、人間でいえば小学生のような若駒を人が乗って走れるように鍛える。宮崎では獣医2人、装蹄師1人、馬取扱技能職14人で22頭を預かる。
到着してすぐの若駒は慣れない環境にいななき、周囲を見回す。職員たちはなだめながら、歩く様子や体調をチェック。馬との信頼関係を築く第一歩となる。
到着日の夕方には、同牧場の名物といえる昼夜放牧が行われる。3、4頭ずつ場内の放牧地に夕方から翌朝まで放すが、最初の放牧は力を誇示するためか、すぐけんかが始まる。相手を威嚇しながら走り回り、蹴り上げる。けがが心配だが慣れると落ち着く。夜通し走り、草を食べることでリフレッシュし脚も鍛えられるという。雪が降らない宮崎では年明けまで行う。
調教は1周1600メートルのメイントラックを中心とする設備の下で段階的に進める。徐々に人が乗ることにならし、ゲート訓練やスピードを上げて走れるようにして競走馬の能力を養う。
ただ若駒とはいえ、体重400キロを超え、時速60キロほどで走る能力がある。初めてづくしの訓練に怖がって暴れることもあれば、走っている時に何かに驚いて予測不能の動きで職員を落馬させることも。常に危険と隣り合わせだが、理解するまで根気よく教える。
女性の馬取扱技能職で、3月に北海道・函館競馬場から異動してきた外川ひかるさん(27)も落馬経験はあるが、「馬に怒っても仕方ない。子どもに接するように、おおらかな気持ちでしつけたい」と笑う。
同牧場はG1馬タムロチェリー、九州産馬としてG3を制したヨカヨカなどを輩出。今年はクラスペディアがG32着になった。
獣医で、育成責任者の大村昂也業務課長(42)は、育成牧場の役割は「勝ち負け以上に馬の研究やデータを蓄積し、情報発信して競馬界の利益につなげること」と説明する。ただ手塩にかけてきた馬が中央競馬のレースに出走する姿を見ると力が入る。「スタッフ一丸となって調教し、成長を見てきた馬たちが元気に走る姿を見るのは何よりうれしい」と語る。
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