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オフィス移転・レイアウト変更は慎重に! オフィス移転・レイアウト変更の従業員間コミュニケーションへの影響


はじめに

日本の在宅勤務率はコロナ禍に急上昇しましたが、その後低下しています。日本生産性本部の「第 15 回 働く人の意識に関する調査」によれば、2024年7月時点で在宅勤務の実施率は前回 の同年1 月の調査から全体では微増しているものの、1000名以上の企業では、 29.4%から26.7%へと減少しています。
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/15th_workers_report.pdf

このように現在オフィス勤務への回帰が進んでいますが、弊社が企業にヒアリングした内容をもとにすると、企業がオフィス出社を方針として決めたことの影響が大きいと考えられるものの、従業員の出社率を上げるべくオフィスを従業員にとって魅力あるようにリニューアルする企業の動きによる影響も少なからずあるのではないかと思われます。

そこでは今回は、オフィスのリニューアル、特にいわゆるオープンプランのオフィスに変更した時の、対面でのコミュニケーション、電子メールやインスタントメッセージといったオフラインのコミュニケーションへの影響を検討した研究を紹介します。

Bernstein, E. S., & Turban, S. (2018). The impact of the ‘open’workspace on human collaboration. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 373(1753), 20170239.
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.2017.0239

Bernstein, E. S., & Turban, S. (2018)

ハーバード大学に在籍する研究者がフォーチュン500に含まれる2つの企業で実施されたオフィスリニューアルの機会に研究を実施しています。

研究1は、フォーチュン500に含まれる大企業の本社オフィスで実施され、52人の従業員が参加しました。このオフィスでは壁に仕切られたオフィスから、仕切りのないオープンプランのオフィスに変更になりました。研究に参加した従業員は、赤外線センサー、加速度計、マイクロフォン等を含むバッジ型の装置を身に付けてもらうことで、対面でのコミュニケーション量が測定されました。データ収集間隔は10ミリ秒でした。さらに会社のサーバーから電子メール、インスタントメッセージのデータが収集されました。

データはオフィス変更前の15営業日と、変更後3か月後の15営業日収集されました。その結果、オフィス変更後、対面でのコミュニケーションが減少し、代わりにメールでのコミュニケーションが増えたという結果でした。

研究2では、研究1と同様に、フォーチュン500に含まれる多国籍企業の本社オフィスが研究に参加し、従業員100人が研究に参加しました。この会社のオフィスでは、パーティションに囲まれた座席からなるレイアウトから大部屋でデスクの間に仕切りの無いレイアウトに変更になりました。

データは研究1と同様の装置により収集され、オフィス変更2か月前の8週間と、変更の2か月後の8週間にデータ収集されました。なお、研究2ではオフラインのコミュニケーションとしては電子メールのデータのみが収集されました。

研究2でも、研究1と同様に、対面のコミュニケーションは減り、電子メールのコミュニケーションが増えたという結果となりました。

研究1と2のいずれにおいても、オープンプランのオフィスに移行することで従業員間の対面コミュケーションを増やすことが意図されていましたが、対面コミュニケーションが減少するという結果となりました。

このような意外な結果となった理由を論文の著者らは様々に考察していますが、その一つとして、従業員がプライバシーを求めたため、他人に見られやすいオープンプランのオフィスでは対面でのコミュニケーションを避けるようになったのではないかということが考察されています。

終わりに

実は、今回紹介したような、オフィス移転やオフィスのレイアウト変更による従業員の行動の影響については先行研究が非常に少ないのが現状です。多くの企業では、常識的な推測を元にオフィスの移転やレイアウト変更が実施されていると思われますが、今回の論文にようにオフィスのレイアウト変更が意図した効果を発揮しない、逆の効果を生むこともあると考えられます。

複数のオフィスからなる企業であれば、まずは一部のオフィスに限定してオフィス移転やレイアウト変更を実施し、移転前後で従業員に対する調査を実施して結果を分析し、意図した効果が得られるか検討することをお勧めしたいと思います。


以 上


<執筆者紹介>

宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。


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