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#138ダチョウの眼。(北海道旅行編②)

今日は7月末に北海道旅行で出かけた、札幌円山動物園での思い出を綴っていきたいと思います。

札幌駅から電車とバスを乗り継いで向かった円山動物園は、旭川にある旭山動物園に比べたら、規模は小さいのだろうとタカをくくっていましたが、中を歩くと広い、広い。午後の半日を使って回りきるつもりだったのに、ゆっくり動物たちを眺めていたら、結局全部は見ることができませんでした。

園内は少し坂道になっていて、行きは上り坂を歩きながら、キリン館、カバ・ライオン館といった風に、それぞれの飼育場にいる動物たちを見学していきます。

「飼育場所も動物園内も、とにかく綺麗に掃除されている!」
それが一番印象に残っています。こんなに動物が大事にされている動物園、わたしはこの50年(半世紀)見たことがありません。これまで動物園に行くたびに、動物たちを可哀想なまなざしで眺めることの多かったわたしですが「ここでなら動物たちも、居心地よく暮らせるんじゃないか」と感じたほどです。

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子どもの頃、両親が寝室につかっていた狭い和室の壁に、高村光太郎の「ぼろぼろな駝鳥」という詩が掛けてありました。

ぼろぼろな駝鳥

何が面白くて駝鳥を飼うのだ。
動物園の四坪半のぬかるみの中では、脚が大股すぎるじゃないか。
頸があんまり長すぎるじゃないか。
雪の降る国にこれでは羽がぼろぼろすぎるじゃないか。
腹がへるから堅パンも喰うだろうが、駝鳥の眼は遠くばかり見ているじゃないか。
瑠璃色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまえているじゃないか。
あの小さな素朴な頭が無辺大の夢で逆まいているじゃないか。
これはもう駝鳥じゃないじゃないか。
人間よ、
もう止せ、こんな事は。

高村光太郎/青空文庫より

この切ない大きな鳥のイメージが、小学生だったわたしの脳内に刷り込まれていたのですが、今回、円山動物園の駝鳥に会って、人懐っこい、愛嬌のある、おもしろい鳥というイメージに上書きされました(笑)。

というのも、キリン館のとなりの屋外ゾーンにいた駝鳥は、柵の横の歩道を人が歩く度に、その人に近寄っては「タッタッタ」、次の人がくると、また「タッタッタ」。人のとなりを一緒に歩くのです。目がクリクリと大きくてまつ毛も長く、今にもお喋りしそうな小さな頭をもたげながら、面倒臭がりもせずに「タッタッタ」。これはもう、ハートを持っていかれる可愛さです。

駝鳥はアフリカ中部・南部に分布している鳥で、時速70〜80㎞で走ることができます。長距離でも50㎞のスピードが維持できるそうです。胴体の羽根はオスが黒色で、メスが灰褐色。鳥類の中でも特に視力が良く、野生下では50〜60年生きる長寿の鳥です。

そんな駝鳥の卵は直径15㎝、重さ1〜1.5㎏、殻の厚さ2㎜で、ニワトリの卵20〜30個分の大きさで、80㎏の衝撃にも耐えられるそうです。

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駝鳥に癒されて、他の獣舎をテクテク歩いていると、小学生とお母さんたちのグループが立ち止まっているのが見えました。ここにはハイエナ(ブチハイエナ)が一頭だけいました。ポツンと一頭。目の前の人間たちには全く興味なし、といった風情で佇んでいます。

「わあ、ハイエナだって。『ライオンキング』に出てくる脇役のイメージだわあ」
あるお母さんの大きな声に、心の中でムカッとするわたし。

(ハイエナだってねえ!あの子だって主役なんだよ。ライオンの脇役として生きてるわけじゃないんだよ!)

とはいえ、わたしたち人間は自分が見たり聞いたりした情報を鵜呑みにして、勝手なイメージを作って物事を判断する、浅はかな一面もあります。わたしだって同じようなもの…と心の中で静かに反省。

それから数分後。スタスタスタ。わたしたちの後ろを、青い制服に身を包んだ飼育員さんが、バケツをもって通り過ぎました。ハイエナはそれを追うかのように自分の小屋へと歩き去っていきました。

ああ、そうか。あの子には遠くから近づいて来る飼育員さんの足音が聴こえていたんだ。わたしたち人間が気づくうんと前から、飼育員さんが来るのを待っていたのか。野生を生き抜くために身につけた、様々な能力を持ち続けながら、動物園の中で暮らしているのかと思うと、やっぱり切ないような申し訳ないような気持ちになりました。

ブチハイエナは主にアフリカ大陸に生息しており、オスよりもメスのほうが大型です。イヌに似ていますが、腰の落ちた独特の体型をしており夜行性です。単独やつがいで行動する場合もあれば、メスを中心としたクランと呼ばれる数十頭からなる群れを形成することもあります。歯と顎が頑丈で、獲物の骨までも噛み砕きます。俊足と並外れた体力を併せ持つ優秀なハンターで、集団で狩りをする場合の成功率はライオンよりも高いそうです。野生下での寿命は25年ほどだそうです。





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