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#3亀の言葉を通訳すると。

世の中に亀を飼育している人がこれほど多いことを、私はこれまで知りませんでした。うちにも三匹の亀がやってきて情報を目にするようになり、熱心なカメマニアの存在を知りました。

さまざまな種類の亀を紹介しているもの、飼っている亀の成長記録の報告、住み心地の良さそうな亀の水槽作りのコツを教えてくれるもの、動画から発せられる亀LOVEの熱量の大きさに、こちらがタジタジしてしまいます。愛情の深さに頭が下がります。

私自身はというと、子亀をもらいたった三ヶ月ほどで飼育の喜びは失われ、毎日水槽の水替え&そうじをする面倒臭さに、無表情な亀たちの顔を見つめることすら煩わしく感じるまでになってしまいました。

ですが本当に可哀想なのは亀の方です。こんな飼い主に飼われている三匹の亀たちは、幸せな一生を送っているとは言えないのではないでしょうか。
「亀たちは内心、うちにもらわれてきたことを嘆いているのでは?」
私の心に暗雲が広がりました。亀たちの本心はどうすれば分かるのでしょうか。

夏が過ぎた頃、私は娘ミドリーと、九州の実家に里帰りすることになりました。テル坊がその間、亀たちの面倒をみるのです。
「ちゃんと水換えやってね。」
「エサの量、どのくらいか分かってる?」
上から目線で細かな指示を与えつつも、亀たちの体調が気になります。テル坊の不手際によって亀たちが体調を崩すこともあるやもしれない。それはそれで致し方ないことだと覚悟を決めて出発しました。

一週間が過ぎ、私とミドリーは大きなキャリーバッグを押して息を切らせて自宅に戻りました。リビングでパタパタ音がします。亀たちが水槽の中で激しく泳いでいます。まるで、
「おばちゃん、おばちゃん、どこ行ってたん?」
「おばちゃん、おかえり」
と大喜びしている幼い子どものようです。
「ミドリー見てごらん。亀たちが喜んでる」
「お腹空いているだけじゃないの?」
ミドリーからは、とても現実的な答えが返ってきました。

ですが、私はひとつ大切な発見をしたのです。私にとって亀たちは、もうしっかりと家族の一員になっていたということ。普段一緒にいると自覚できなかった亀たちへの愛情が、離れてみてようやく実感できたというわけです。亀たちが本当は何を思っているかは謎のままですが、彼らの心はこちらが自分に都合のいいように通訳すれば良いのです。






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宮本松
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