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#102約束はおまじない。

これも昨年の秋に書いたエッセイです。子どもたちが小学生の間に離婚して、我が家は母子家庭になりました。世の中に母子家庭が増えているとはいえ、いざ、自分たちがそうなった時に体験したさまざまな経験は、人とは比べることのできない苦労が多々ありました。

「人は一人じゃ生きていけない。だれかと助け合わなければ」

それが肌身に沁みて感じられたのは、子どもたちに助けられたからでした。自分が子どもの頃、両親が守ってくれて当たり前だと感じていたのとはずいぶん違う「家族の原型」を経験させてしまったドラちゃんとミドリーが、この先それぞれの家族をもつ時に、よりよいつながりを作っていくことができますように。

今回でようやく没エッセイ作品の投稿はおしまいです(やれやれ)。この先もまたエッセイの投稿にチャレンジするかどうかは分かりません。またチャレンジして没作品が生まれた時には、こうしてnoteにアップさせていただこうと思っています。

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月日がたつのは、なんて早いのだろう。年末に久々に家族がそろうと、すっかり大人になった子どもたちの姿をみて、私の心はふとタイムスリップしてしまう。

今から十四年前、私は長くつづいた別居生活にピリオドを打ち、小学生だった二人の子どもたちと新たな生活をスタートさせた。役所の手続きや名前の変更だけでも心のエネルギーを吸いとられた。やりたい仕事の資格を取得してはいたものの正規雇用は少なく、非常勤をかけもちし月から土までフルに働くあわただしい毎日だった。そんな中、母の日に息子からもらったメッセージカードがある。

「かあちゃんへ 今年はきついですが、ふんばりどころとおもいます。あたらしいことをいろいろはじめる年です。ぼくも五年生なので、家の手伝いをしようと思います。かあちゃんはきつくて、少しよわいけど、ふんばる力があるのでだいじょうぶだと思うよ」

息子から見た私が、どれほど頼りなかったことかと申し訳ない気持ちになる一方で、一体、彼は何をみて「ふんばる力がある」と判断したのだろうかと笑ってしまう。それに実際は、手伝いなんか全く頭になく、サッカーの練習にあけくれ、泥だらけで帰宅するのが息子の日常だった。

絵を描くのが好きだった二年生の娘もよく手紙をくれた。

「いろいろあるけど、これからも三人でたすけあってがんばろうね」
「仕事がうまくいかなかった時。わたしも兄ちゃんもおうえんしているよ。あせらずに次のことをかんがえよう!しんこきゅう!!」
「三人のだれかがけんかしたりおこったりしても、おたがいさま」
「つかれた時。家で少しねよう。ねすぎに注意。仕事中は休み時間に外にでて、きぶんてんかんしよう」

その言葉はほぼ全て、私の受けうりだ。母親の言葉をすなおに信じようとしていたのだろうと思うと微笑ましい。手紙にはいつも三人の似顔絵が添えられていて、温かな気持ちになった。娘自身は髪の長い女の子、兄の顔は左頬に黒子付き、私は綺麗なお母さん(きっと娘の理想の母親)に仕上げてあった。

もう一つなつかしいのは、その年のお正月、帰省先からもどってきた我が家のポストに年賀状が数枚しか届いていなかった時のこと。

「何十枚も出したのに、たったのこれだけ…」

ガッカリしているわたしを見て、娘はいそいで子ども部屋にかけこみ、手書きの年賀状を作って持ってきてくれた。

「かんちゅうおみまい、申しあげます。今年もよろしくおねがいします。おそくなって申しわけありません。」(1とう:あしふみ、2とう:ふとんしき、3とう:せんたくものおてつだい:お年玉の景品まで考えていた)

疲れはてた日の夜は、自分がちゃんと母親としての役割を果たせているのだろうか、自信をもって「子育てしている」といってよいのかと疑心暗鬼になった。そんな時、もらった手紙を読み直しては「ま、これでいっか」と自分をなだめ、布団にもぐりこんだ。

振り返ると、子育てしているつもりで、私の方が子どもたちに人として育てられていた。嫌なこと・見たくないこと・なかったことにしたい辛い出来事と、苦笑いしながらも向き合い、それなりにこなしていく逞しさは、母親になる前の私にはなかった。子どもたちからの「母ちゃんとして、何とかふんばっておくれよ」という有形無形の圧力が、「大丈夫、なんとかやっていけるさ」と、私の頭の中でおまじないのような言葉に変換され、勇気がわいてきたのだろう。

親子って面白いつながりだ。この先はいよいよ、両親の介護が本格的に必要になりそうな気配が漂っている。今度は私が娘として、無理しすぎず、両親の暮らしをやさしくサポートしていけるだろうか?きっと大丈夫、そう自分におまじないを唱えよう。




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