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#139カラスのいる風景。(北海道旅行編③)

北海道旅行の最終回は、北海道大学を散策した思い出です。札幌駅から徒歩で行けるため「せっかく北海道に来たんだから歩いてみよう」と夕食のカレースープを食べに行く前に、出かけました。入り口は普通の大学、なのに校内は、広い、広い、広〜い!北海道って何でもスケールが大きいです(笑)。

7月末だったので、校内は緑色の芝生が一面に広がり、水の流れる小さな川や池のほとりにベンチも設置してあって、学生以外の一般の人たちも夕涼みに来られていました。そこでわたしたちの目をひいたのが、カラスです。黒いカラスがあっちにもこっちにも。

スキップするように歩いている子(カラス)も入れば、水の周りで遊んでいる子、穴を掘っている子など思い思いの夕暮れ時間をのんびりと過ごしている彼らは、本当に安心しているようで、歩行者が近づいても逃げることもありません。反対に、大学のカラスの多さとイタズラ・トラブルは有名らしく、屋外で弁当を食べているとカラスに狙われることもあるそうです。

彼らの迷惑をこうむっていない、ただの観光客であるわたしには、緑色の芝生の上に点々と広がっている艶のある黒いカラスたちの姿は、ちょっとした絵画のようにすら見えました。

よく知られているようにカラスは賢く、鳴き声の数によっても仲間と意思疎通をしているそうです。
1回 仲間とのあいさつ
2回 注意喚起・空腹
3回 位置を知らせる・安全・威嚇
4回 警戒・危険・威嚇
5回 警戒、危険・逃げろ
6回 敵がいる
7回 リーダーが発する合図
8回 集合・集団行動の合図

時々、カラスの鳴き声を数えてみることもありますが「ほんとにカウントしながら鳴いているのかなあ」と半信半疑な気持ちです。

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さすがは北国の大学だと思ったのは、校舎前の道の脇にスノーポールが立ててあったこと。雪が降り積もった時に「ここに道がある」ということを示すための標識柱で、赤と白の縞模様の棒です。高さは1〜3メートルと場所によってちがうそうですが、かなり高かったと記憶しています。真っ白い雪に埋もれた街の様子を、一度は自分の目で見てみたい、でも九州生まれの自分が、その寒さに耐えられるだろうかと思ってみたり…。

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北海道大学は1876年(明治9年)に札幌農学校として開学され、当時建てられた建造物が今でも歴史的資産として残っています。かなりの年月が経っていますが(恐らく何度も修復されながら)今も使用されているようです。洋風建築の雰囲気がすごくステキで、しばらくは建物の前に佇んでながめていたくらいです。

登録有形文化財に指定されている古河講堂(1909年築)、旧農学部図書館(1902年築)、旧昆虫及養蚕学教室(1901年築)などもありますが、わたしが気に入ったのは、木造平屋建の博物館事務所(1901年築)と木造二階建ての博物館本館(1882年築)でした。子どもの頃に漫画で読んだ『はいからさんが通る』のイメージにピッタリだったのです(『はいからさんが通る』は大正時代(1912−1926年)を舞台にしたラブコメ漫画で、登場人物が袴姿です。舞台は北海道ではないのですが…)。

大正時代は、明治時代に日本の西欧化が進んだことを受けて、生活様式も変化していった時代です。都市部に百貨店が建ち、衣食住は洋風化が進み、洋服・洋食が普及しました。その前に建てられた北海道大学の建造物は、まさに当時の洋風建築の見本で、そんな建物が現代と調和して存在している雰囲気が、人の心の和ませてくれるのでしょう。

わたしたちは、一体何を基準にして「これは美しい建物だ」と認識しているのでしょう。理由は全く分かりませんが、ただそれが美しいことだけは分かります。絵画でも音楽でも、何かしら美しいものに向かうと、心の中の「美を感じる部分」が動き出すのが分かるし、それらと対峙している間に、自分の内部空間の風通しがよくなっていくような気持ちになります。

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クラーク会館と呼ばれる建物の前までくると、数人の男女(学生さん)が小さな円をつくって集まっていました。何をしているんだろう?歩き疲れたわたしたちが、すぐ傍の石垣に座って休憩していると、彼らがおもむろに歌い始めるではありませんか。

(わー、アカペラじゃないの!)

彼らはわたしたちの存在なんてちっとも気にせず、ハモりの練習をしています。が、こちらはなんだかちょっとドキドキして、つい耳を澄ませてしまいます。と、今度は反対側の大きな木の下に立っていた男の子が独唱を始めました。わあ、なんだ、なんだんだ!

こんなに近距離で歌声が響き始めたこの状況に動揺しつつも「ああ、ここは大学で、学生さんたちは自由に歌っているのねえ」という、当たり前といえば当たり前のことを感じたのでした。

大学構内というのは不思議な空間です。学生さん、先生、大学関連の仕事をしている人、本当にさまざまな職種、年齢の人たちが集まっているけれど、一般社会とは異なる、自由な空気が感じられる場所です。居心地のよい場所でしばしの間、過ごせたことに感謝したいと思います。





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