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カルロさんの味噌汁
去年の9月、娘が遠くの大学に入学して一人暮らしを始めたので、私も平日は、ほぼお一人様の夕ご飯だ。原稿書きやグレースの散歩で結構忙しいので、自分の好きなものをたっぷり作って、毎日同じモノを食べ続けるのは、全然嫌じゃない。娘がいたらさぞ文句を言われるだろうな、と思いながら、3日も4日も温め直して同じものを食べている。
だから温め直してどんどん美味しくなる料理がいい。おでんとかカレーとか野菜の煮物とか。イタリアだからミネストローネとか。
ミネストローネといってもレシピは特に決まりはなくて、冷蔵庫を開けて、野菜室にいるヒトたちを総動員して、刻んで、鍋に放り込み、煮込むだけ。玉ねぎ、人参、セロリ、ズッキーニ、なす、カラーピーマン(日本では最近パプリカと呼ぶようですね)、ジャガイモなどなど。私はニンニクも1つか2つ、刻んで入れる。
忘れちゃならないのはトマト。トマトがあるなしで味が全然違います。トマトにはコンブと同じ旨み成分のグルタミン酸が含まれているから、入れると格段においしくなる。夏の、熟れ熟れの真っ赤なやつがないときは、水煮を使った方が味がいい。
ブイヨンやコンソメキューブは、インスタント的な味がしてしまうので絶対入れたくない。その代わり、チキンのモモ肉を買った時に、外した骨を冷凍しておいたものを1つか2つポンと放り込んで、グツグツ一緒に煮込む。いい味が出るのだ。
そしておいしさの決め手は、おろし生姜。結構たっぷり入れる。これ、実は去年の3月、最初のロックダウンの時に、イタリアのトップシェフ、マッシモ・ボットゥーラが、インスタライブで料理番組を配信していた、その時に見た彼の生姜入り野菜たっぷりスープのレシピを参考にしたもの。甘い野菜とトマトのコク、そこにキリッとした生姜の味がとてもいい感じなのだ。
↓インスタでは見られなくなっているけど、いくつかのレシピがYouTubeにアップされている。残念ながら野菜スープ動画はなくなっているけど。
さて、たっぷり作った生姜入り特製ミネストローネを2−3回食べたら、今度はクミンパウダーやカレーパウダーを足して味にバリエーションをつけたり、時にはカレールーを入れて、カレーに仕立てたり。でも最近のお気に入りは、熱々に温め直したらスープボウルに注ぎ、そこにカルロ・ネスレーさんのお味噌を入れて、味噌汁仕立てにするバージョン。
カルロ・ネスレーさんというのは、イタリアにおける発酵の第一人者で、ローマ郊外に発酵ラボ「CibOfficina」を持ち、味噌や醤油、塩麹やコンブチャなどの発酵食品を生産しながら、イタリア全国で発酵教室も開催して、発酵の普及に努めている人。発酵のスペシャリストとして世界の高級レストランのシェフたちとのコラボや、アメリカの発酵カルチャーのリーダー、サンダー・キャッツという人の著作の、イタリア語版翻訳者としても活躍している、そんな人。最近はJINOWA(ジノワ)という国際コンソーシアムに参画して、「すべての国の産業が土をよくする社会へ転換し、人も地球も、生態系全てによりよい未来を」という活動もしている。
彼は味噌を作り始めて少しした頃、大豆じゃないとダメかな?という疑問にぶち当たったという。彼が工房を持つ中部イタリアあたりは雨が少なくて、たっぷりの水を必要とする大豆の栽培に適していない。それでいろいろ実験してみたところ、地元のレンズ豆やひよこ豆、スペルト小麦などを材料にしておいしい味噌や醤油も作れるようになったんだそうだ。
彼が地元産の豆で「MISO」や「Salsa Ariete(彼は醤油にこんな素敵な名前をつけた)」という不思議なものを作ることで、地元の、変哲のない豆たちとその生産者にも光が当たって、地元経済と地元の食文化に貢献する、そんないいこともある。
麹菌が生き生きしている彼の味噌は、ふたを開けると、フワーッと花のような香りがして、初めて食べた時は本当にびっくりした。今はあの香りを嗅ぎたくて、味噌汁を作るといってもあながち嘘じゃないほどだ。だから火にかかった鍋の中に味噌を入れるんじゃなくて、熱々のスープを器に注いだ後で味噌を溶かし入れる。
今夜はヘーゼルナッツの味噌をスプーンに1杯、スープに溶かした。スープの熱で華やかな香りが立ち上がる。
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