チャイナドレスと希死念慮
チャイナドレスを買いに出かけた。霧雨が降っていたが、そこまで強くならないと思って傘は持っていかなかった。
そうしたら、雨がどんどん強くなるものだからコンビニに飛び込んで折りたたみ傘を買った。
1500円。私が天気予報を見ていれば払わなくて済んだのに。自分の生活能力の無さが、木の幹から離れた根っこの部分でも表れる。
そうだ、チャイナドレスを買うに至った経緯だ。
先日、彼女にコスプレをしてエッチをしてみたいと話した。そうすれば、自分の鬱的な症状も和らぐと付け加えて(最低)。
すると彼女が思いの外にノッてくれたので、私はチャイナドレスを探す旅に出たのだ。
なぜチャイナドレスか。
例えば、学生服はあまりにも性癖すぎるというか、学生服で私興奮するんですよ。と言ってるようなもので、それはプライドが許さない(興味がないとは言わない)。
ちなみにナースやメイドは彼女の要望で無しになったので買わない(興味が無いとは言わない)。
本来Amazonなんかで買うのが安上がりでいいだろうが、生憎ホテルに泊まっているので注文ができない。ただ、近くは横浜の伊勢佐木長者町。夜街を歩けば風俗店に囲まれる、そんなピンク色の街に数分で着くので調達には苦労しない。
そういえば、傘を忘れたことに加えてもう一つ間違えたことがある。
10時に家を出たことだ。
馬鹿たれ、朝の10時にアダルトショップが開くか!
外に出てから検索して絶望した。
なんとか1店舗見つけたが、コスプレグッズの品揃えが悪くてチャイナドレスが売ってない。
ドンキに寄るも、1着5000円。彼女に普段使いできる服をプレゼントした方が断然良い。それに、いくらで買ったの?なんて聞かれたら嘘をつくしかない。バレたら呆れられるに決まっている。
右往左往していると次第に雨が強くなった。靴がじんわり濡れていく。
落ち着いて調べると、12時にアダルトグッズの店が開くようだ。ありがたい。こんなバカのために昼の12時から店を開けてくれるなんて。
時計を確認すると、時刻は11時前だ。
近くのマックで時間を潰すことにした。
マックのクーポンを使ってコーヒーを150円で注文して、小腹も空いたので料金の安いマックチキンを注文した。
すると、店員さんが「チキンフィレオですね」と言うもので、言い方を間違えたかと思い「はい」と答えたら合計料金が500円を超えた。
うそだろ、私の計算なら400円いくかいかないかだぞ。
レシートを見つめて気がつく、どうやら店員さんが間違えたようだ。
だが仕方ない、私がきっとボソボソ声で注文したのだろう。
ここに来るまで、私は必要でない1500円の傘を買って、チャイナドレス欲しさに店を梯子して、挙句雨宿りするハメになったのだから、そりゃ気力もなくなる。
数分待つと、私の番号が呼ばれた。アイスコーヒーと食べるつもりのなかったチキンフィレオがトレーに乗せられている。
注文したものを受け取ると、トレーを持ってゆっくり階段を上がり、二階席の窓際に腰掛けた。
外でビニール傘を持った人たちが左右から現れては消える。
そういえばチキンフィレオを食べるのは初めてだった。ちょっとCMを意識してガブっと食べる。
単品410円は流石に美味しかった。
昔は安かったマックもすっかり贅沢品になってしまった。ぼーっと窓の外を眺めながらモシャモシャとバーガーを咀嚼する。
すると、ふわーっとチャイナドレス以外も欲しいなんて思うようになった。
どうせ死ぬんだ。どうせ今しか着れないんだ。
だったら欲望のままにコスプレグッズを買ってしまったらどうだろうか。
2点で10%オフくらいのサービスをしていないだろうか。この好奇心が、私の干からびた精神を潤してくれる。
腹が満たされてこんな欲が出てくるなら私は救いようのないすけべ野郎だ。
忘れていた、私は幸せ者じゃないか。
私の鬱蒼とした心を晴らすためなら、コスプレしてエッチをしようと優しく言ってくれる恋人がいるではないか。
いくら世の中に絶望を感じても、こんなことを考える力が残っているではないか。
砂でできた城が指先一つ触れただけで崩れたみたいに、あっという間で、滑稽で。
砂の山となったそれを見て、ふふっと笑ってしまうような、どうしようもなく馬鹿らしい気持ちになった。
ここ最近、ずっと希死念慮が消えなかった。
本当に私はダメな人間だなと思う。やはり死んでしまった方がいいような気さえする。
でもそれは、チャイナドレスを買ってからにしようと思う。どうせ生きようとするこのゴミ虫みたいな精神に潤いを与えてやりたい。
このクズは死んでくれない。
外の雨が少し弱まっている。
時刻は11時40分。
水溜まりに街の光が反射して輝いている。それをぼーっと眺めて、時間が経つのを待つ。
待ってろチャイナドレス。もしかしたら買うもう1着も。
そして彼女よ。こんな彼氏で本当に申し訳ないと思う。
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