【ピーターラビット™展@世田谷美術館】家のうさぎの思い出も
初めての海外旅行はイギリス。ピーターラビットの作者、ビアトリクス・ポターが愛し半生を過ごした、湖水地方に行ってみたかったのだ。
古い思い出。昔の写真を引っ張り出して日付を確認すると、1995年の晩夏だった。ロンドンからコッツウォルズやストラトフォード・アポン・エイボン、コヴェントリー、湖水地方を経て、エディンバラに向かったはず。
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うんと小さな頃は『ピーターラビットのおはなし』があまり好みではなかった。ビアトリクス・ポターの描いた絵は緻密で淡い彩色、ふわふわとしたうさぎをはじめとする動物たちが愛らしく、とても好きだったから、図書館で目にするたび、惹かれて何度もシリーズ絵本を借りるのだけれど、お話はどうしてもじっくりと読めずにいた。
だいたい、初っ端の
に、ぎょっとする。
これ、愛らしい姿のピーターは、母親にやめろと言われているのに他所様の畑に侵入し盗みを働く、人間からすれば迷惑千万なやつで、自分の畑を守るため鍬を振り上げ追いかけ回す人間のおっさんから危機一髪で逃げおおせるお話なのだ。見方を変えればクライム・サスペンス……?
その他にも、シリーズ絵本のあちこちに、なかなかに猟奇的なエピソードがあり、絵だけを眺め、文を読むのには少々腰が引けていた。
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イギリス旅行の数年前、私が高校を卒業する頃だったろうか、家でうさぎを飼いはじめた。
母が親しい友人と一緒にペットショップに行き、連れて帰ってきた小さな灰色の仔うさぎの名前はピータではなくビッケ、母が名付けた。アニメ『小さなバイキングビッケ』の賢くかわいいバイキングの子が由来だ。「ひらめいた!」ってね。
私は生き物が苦手で、特に小さいものはうっかり壊してしまいそうで怖かったし、言葉で理解しあえないから行動や心がわからず不気味だとすら思っていた。
けれど、母が連れてきた手のひらサイズの仔うさぎはおとなしく、柔らかな毛におおわれあたたかい。その無垢さにいつまでも触れ、そして、守りたくなった。家に迎えたはじめての夜、私はケージの中に右手を突っ込み、ぽわぽわとしたビッケを撫でているまま寝てしまい、気がついたら夜が明けていた。
朝まで私の手に体を預けていてくれたビッケ。手のひらに残ったその感触のおかげで、この小さな生き物が一気に生々しく愛すべき家族になった。
うさぎって、安心していると寝るときに横になるのだけれど、突然、バタン!って結構大きな音をたてて転がる。そんなことも、ビッケのおかげで初めて知った。
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ピーターラビット™展の第一章は「ピーターラビット誕生以前」
鉛筆で丁寧に細かく描かれたうさぎのスケッチや習作をいくつも見ることができる。それほど大きくない紙の中に生き生きとしたうさぎたちが写し取られていて見入ってしまった。
中でも「ピーターが見ている夢」と題された習作は、ビアトリクス・ポターが飼っていたピーター・パイパーといううさぎがモデルになっているそうだが、真ん中の居心地の良さそうなベッドで眠っている擬人化されたピーター・パイパーとそのまわりにリアルな描写で描かれた13匹の眠るうさぎたちが、現実と空想が一緒になった、それこそ夢のように美しい絵だと思ってしまい、すこし目がうるっとした。
第二章では『ピーターラビットのおはなし』の原点となったノエル・ムーア宛の絵手紙や、絵本の彩色画が全点展示されていた。日本語版の絵本では掲載されなかったという挿絵の原画もあって、可愛いので二周して眺めた。
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家を捜索したら、27年前におそらくヒルトップで購入したのであろうポストカード集と日記帳が出てきた。ほかに英語版の絵本と6枚セットのコースターがあったと記憶しているが行方不明。そのかわり私の母が孫のために買ってくれたWEDGWOODの食器と日本語の絵本が増えていた。
どのピーターラビットたちも、生き生きとしたまま、まったく色褪せていない。
ピーターラビットたちが世に出てから120年。世界一有名で愛されているうさぎは、きっとこの先120年後も元気に世界中を駆け回っているんだろうな。
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