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甲子園口駅

 若い女の傲慢さで、感情の赴くまま振る舞っても許されると勘違いしていた頃。この駅近くに住む彼の所に、1年ちょっとの間、だいたい月いちペースで通っていた。東京から。

 甲子園口駅の改札は北口と南口の二つ。当時はどちらの出口も小さな駅舎のさびれた雰囲気だった。快速通過駅だし、まだ阪神・淡路大震災から4年も経ってない頃だったというのもあるかもしれない。このあたりも震災の被害は大きく、北口の7階建てのマンションは倒壊し、たくさんの人が亡くなり、駅の北側の住宅街にあった彼の家も半壊で建て直したのだときいた。寝てるところに倒れてきたタンスが机に引っかかったおかげで死なずにすんだと言ってたっけ。


 今はもう無いが、当時、駅のロータリーのすぐ西側に小さな居酒屋が店を構えていた。古民家風の店前に提灯と、のれんの上に造り酒屋にあるような杉玉がぶら下がっていたように記憶している。地酒が売りの和風の雰囲気。坊主頭の大将らしき人とあと元気な店員さんが数人いたんじゃなかったか。店内は、手前がカウンター、その奥だったか2階だったか忘れたが座敷スペースもあって、人数がいるときはそっちで飲んだりもした。

 何がきっかけでこのお店に連れて行ってもらったのだろう。正直、こんな何を食べても美味しい居酒屋は初めてだと思った。まあまだ20代前半の小娘は大して舌が肥えてないからだとは言え、それまであまり好きじゃなかったおでんの大根が、このお店の大根でとんでもなく美味しいと思うようになったし、それまでも好きだったつくねは、このお店の細長い小判型のふわふわつくねでさらに好物になった。つくねは行くたびに必ず二皿注文してた。

 彼には地元だけれど、私には遠く頻繁に訪れることができないこの店。私が行くことができない時に他の人達と一緒に行かれるのが嫌だった。それは、多分、彼を独り占めできないからではなくて、おでんやつくねの他にも、ほっけ、揚げ出し豆腐、手羽先…といった、美味し良い食べ物を出すこのお店が好きすぎて、自分だけずるいと、とても悔しかったからだ。ものすごい理不尽な話だ。

 せやなぁと言う優しい彼に、そんな傍若無人なわがままをぶちまけてた地。甲子園口。たぶん二度と訪れることはないと思うけれど、思い出深い駅です。


JR神戸線 甲子園口駅

南口は駅ビルもでき、北口も南口もだいぶ当時とかわっているようです。甲子園口、という駅名ながら甲子園球場までは歩いたら30分以上かかる。駅前からバスが出ています。

やんさん#駅にまつわるエトセトラ 企画。とてもユニークで面白いお題でしたので、参加させていただきました。やんさんnote1周年&初企画おめでとうございます。そして、ありがとうございます。



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