低額ベーシックインカムのススメ(毎月10万は不要な件)
1.導入
ベーシックインカム(BI)は、「低額BI」として実施するべきであると提案します。たとえば、BIを月10万円くばるより、月1万円くばるほうがすぐれていると主張します。
BIは全ての国民に一定の金額を無条件で支給する制度です。この点は皆一致しますが、具体的な支給額について一致した意見はありません。一般的には、支給額は月額10万円などの「高額BI」が主張されることが多いです。
しかし、本記事では、「高額BI」を実施するべき根拠は実は希薄であり、その多くが「ベーシックインカム支持者の欲望に基づいているもの」ではないかという疑義を呈します。
そのうえで、BIの支給額は低額であるべきという「低額BI」のメリットについて述べていきます。
2.「高額BI」で生存権を満たす必要はない
まずは「高額BI」について見ていきます。
福祉を全廃しなければいけないという脅迫観念
「高額BI」を導入すべきだという意見は、主に「生活の完全保障」という視点に基づいています。福祉を全廃した状態で生存権を満たすためには「毎月10万配る必要がある」と考えています。
しかし、BIの役割は福祉を全廃することでもなければ、生存権のすべてを守ることでもありません。BIはあくまでの、「最低限の不労所得を保障する」制度であり、生存権を守る制度の一部を担うのみです。
次に、生活を完全保障するとして、どれくらいの金額を配布すればよいか明確な基準はありません。そんなものは人それぞれ違うのですから。明確な基準がないことは、人の欲望がBIで提示される金額に反映されやすいことを意味しています。
そもそも福祉の見直しは、少子高齢化で社会保障費用が膨らんでいる日本特有の社会的課題であり、厳密にはBIとは無関係と言えます。
ゆえに「BIは生活できる金額を配るべき」という批判は当たりません。生活できる基準とは、BIと福祉を含めた総合政策を前提として生存権を満たされているべきでです。生存権の一部を担うのみのBIには、生活を保障する義務はありません。
できるだけ多くの現金が欲しいという欲望
高額BIを望む人々の中には、「個人としての現金を増やしたい」という欲望が混在している場合が多いです。個々の経済的余裕を求める気持ちは理解できますが、それと社会全体の政策として適切なBIの金額を配分することを混同してしまっています。
欲望に基づいているかどうかは、BI支給額の算出を「自分が生活できるかどうか」を基準にしているかどうかで判別できます。
3.低額BIを導入すべき理由
新しい制度の運用は低い金額から始めるべき
新しい制度を導入する際には、実験的に低額からスタートし、システムの整備や運用の問題点を検証していくことが賢明です。初めから高額なBIを実施することは、リスクが大きく、社会や経済に急激な変化をもたらす恐れがあります。金融に急速な影響を与えるべきではない
高額なBIは、経済や金融市場に急激なインパクトを与えかねません。低額BIであれば、インフレなどのリスクを最小限に抑えながら、社会全体で制度に慣れ、より持続可能な仕組みを検討することが可能です。最低限の不労所得を保障がそんざいするだけで十分
BIの本来の目的は、最低限の不労所得を保障し、社会的な不安を軽減することです。低額であってもこの目的は達成でき、福祉制度の代替としてではなく、社会全体のセーフティネットとして機能します。福祉制度に関わるべきではない
BIの導入を議論する際、既存の福祉制度と対立させるべきではありません。福祉制度はその独自の役割を果たしており、BIの目的とは異なります。福祉制度の非効率性をBIで解消しようとする試みは、複雑すぎて現実的ではありません。少なくとも社会保障制度の膨らみすぎは、福祉制度の問題であって、BIが火の粉をかぶって解消する義理も義務もありません。システムの整備と運用テストが優先
支給する金額よりも、BIを実施するためのシステムを構築し、運用するための準備を進めることが重要です。実際にBIがどのように機能するのかを試し、その効果を検証するためには、まずは低額で始めるのが適切です。
4.まとめ
高額なベーシックインカムは、個々人の生活を完全に保障するという理想を掲げますが、その実現には財源や経済への大きな負担が伴います。BIのみで生存権を保障しようとする発想で「高額BI」が求められますが、それは具体的にあげられている金額の根拠が薄弱です。10万配るとして、その10万という額は提案者のフィーリングで決定されているでしょう。
一方で「低額BI」は、新しい制度の実現可能性を検証し、段階的に導入していくための現実的なステップとなります。財政や金融に与える影響を最小限にとどめることができます。しかもBIの役割である最低限の不労所得を保障することは、低額BIでも有用な効果を発揮することが見込まれています。低額BIの支給額は、低額であるがゆえに具体的根拠は必要ありません。月1万でも、2万でも、導入するという役割を果たせるのですから。
ゆえに「低額BI」は下記理由から有用だと考えます。
1.新しい制度の運用は低い金額から始めるべき
2.金融に急速な影響を与えるべきではない
3.最低限の不労所得を保障するだけで十分
4.福祉制度に関わるべきではない
5.システムの整備と運用テストが優先
最後に。「低額BI」のススメは、厳密には「高額BI」を完全に否定しているわけではありません。「高額BI」がありえたとしても、それは「低額BI」によって制度設計が行われ、経済状況によって支給額が柔軟に変更できるほど社会に浸透したうえで実施されるものだと推測します。
一朝一夕で高額なベーシックインカム支給ができると主張する人はパフォーマンスの側面が強いと疑っています。