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住民管理の3段階(手書き、印刷書類、電子認証)ーマイナンバー制度は夫婦別姓・同性婚の問題を解決するのかー
はじめに
夫婦別姓や同性婚は、伝統的な家族観と新たな人権概念の対立であるとみなされています。しかし私は違うと思います。これらの問題は、住民管理システムの技術的制約と、それに伴う制度の更新の問題だと考えます。
住民管理システムは「手書き」の記録から「電子認証」まで変化してきました。現在は、住民の管理方法が明治に制定された「印刷書類」から「電子認証」への移行期間に当たると思います。この移行期間において夫婦別姓や同性婚が社会問題として生まれたのは偶然ではないと考えています。これらの問題が「電子認証」の時代の直前に盛んになったのは必然であるとみなしています。
その理由は、「印刷書類」の段階では実現が難しかったいくつかの問題が、「電子認証」の時代だと現実的に可能になったからです。
本記事では、住民管理システムが「手書き」「印刷書類」「電子認証」の3段階として発展してきたこと、その3段階の特徴をまとめます。その特徴の中で、テクノロジー的な限界に基づく、それぞれの住民管理の特性から生まれたイデオロギーについても考察します。
住民管理の3段階発展説
住民管理の歴史を通して、社会はテクノロジーの発展に応じた管理体制を採用してきました。これには、「手書き」、「印刷書類」、「電子認証」という3つの主要な段階が存在します。それぞれの段階で、個人や家族を管理する方法が大きく異なり、それが現代の家族観や法的問題にまで影響を与えています。
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1. 手書きによる地域単位の住民管理
時代背景
律令制時代の日本では、寺社や村が地域ごとの住民を手書きで管理していました。これは8世紀ごろから始まり、中央集権的な制度の一環として機能し、寺社が戸籍管理の主体となっている場合も多くありました。住民の多くは移動の自由を持たない農民であるという前提があり、冠婚葬祭を司る宗教勢力が管理することには合理的意義がありました。個人識別の特徴
この時代、個人の識別は基本的に「地名」や「家名」に基づいて行われていました。例えば、「○○村の△△家の誰々」という形で、人々は所属する地や家によって認識されていました。村単位、氏族単位での識別が中心であり、個人よりも共同体全体での把握が優先されました。技術的な制約
手書きによる記録は時間がかかり、正確性も問題視されました。また、住民の移動や新しい家族構成の変化などの更新が大変で、最新情報を迅速に反映することが難しかったのです。そのため、記録はあくまでも記憶の補助としての側面がありました。
管理する上でのタブー
住民の移動や別の地域への勝手な移住は、管理者にとって大きな負担でした。特に、記録が分散し、移動先で適切に登録されないと、行政管理が機能しなくなるため、移住はほとんどの場合、事前の許可が必要でした。また、村外への無許可の移動は、村社会全体の混乱を招き、特に徴税や治安維持において問題視されました。
2. 印刷技術と家族単位の住民管理
時代背景
明治時代に入ると、日本は近代化を進める中で、全国的な住民管理を効率化するために戸籍制度を整備しました。1871年に発布された「戸籍法」により、家族を基本単位とした住民管理が始まりました。印刷技術の発展により、記録は手書きから印刷へと移行し、全国的に統一された形式で管理が行われるようになりました。個人識別の特徴
地方自治体が管理の主体となり、個人の識別は氏名、性別、年齢、住所といった基本的な情報に依存するようになりました。また、戸籍は家族全体をひとつの「戸」として登録し、家長(戸主)を中心とした家制度に基づいて管理されました。これにより、個人は家族の中での位置付け(例えば長男、次女など)で識別されることが一般的でした。技術的な制約
印刷技術を基にした住民管理は、手書きに比べて効率的でしたが、家族構成の変更や性別変更、改名などの複雑な手続きには対応が難しいです。情報の更新が遅れたり、複雑化する家族構成にシステムが追いつけなかったことが課題でした。
管理する上でのタブー
家族単位で管理される戸籍制度において、家族の構成が複雑化することは管理上の大きな課題でした。特に、性別変更や改名、家族内の構成変化は、印刷された戸籍の更新を必要とし、システムが対応しづらいものでした。これらの変更は戸籍の一貫性を損ないかねないため、管理側は国民に対して、戸籍に基づく振る舞いを要求するようになります。つまりは、住民には戸籍に登録された性別らしい振る舞い、年齢らしい振る舞いをしてもらわないと、個人が特定できないのです。
3.電子認証と個人単位の住民管理
時代背景
現代においては、日本は電子技術の発展に伴い、マイナンバー制度を導入しました。この制度は2016年から本格運用され、個人ごとに固有の番号を付与することで、国全体で住民管理の効率化が進められました。従来の紙ベースの戸籍管理に加え、電子データとしての住民情報が重視されるようになりました。個人識別の特徴
国家が主導して、個人は氏名や性別といった従来の情報に加え、マイナンバーや生体認証技術を使って一意に識別されるようになりました。これにより、家族単位ではなく、個人単位での管理が可能となり、各種手続きもオンラインで簡単に行えるようになりました。技術的な制約
地域や家族を介さず、国家が直接個人を管理するシステムであるため、個人を束縛する制約は原理的にありません。ただし、管理システムをIT会社が構築する前提であるため、IT会社の技術的能力に依存する場面はあるでしょう。
管理する上でのタブー
電子認証時代において、従来のような「タブー」とされる事柄はほぼ解消されました。性別の変更や家族構成の変化、さらには住所などは、以前のシステムでは個人を特定するための補助要素として必須でしたが、個人番号が存在する状態では、個人番号で認証できるために参照する必要がなくなりました。また、複雑な更新手続きも迅速に処理できるようになりました。
保守的価値観:「印刷書類」⇒「電子認証」
現代の保守的な価値観は、技術的な制約から生じた「伝統」であるという考えがあります。特に、印刷技術によって発展した近代的な住民管理システムによって一元的に保守的価値観を説明する方法が存在します。
近代の個人認証は住民基本4情報(氏名、性別、生年月日、住所)に基づいていますが、これはマイナンバー制度の個人番号に比べて検索能力に劣っており、国民側に頻繁に更新しないよう協力を求める必要があります。
その協力の要請こそ、保守的価値観の提示する「伝統的な道徳」であるという意見です。個人を特定するためには、家族の名前は統一している方が楽だし、性別と年齢は見た目通りの方が良いし、住所不定は困る。
このように、現代の保守的な家族観は、技術的制約に依存した管理体制を背景にしており、それが社会の中で「伝統」として受け入れられてきた可能性があります。この体制が維持される限り、夫婦別姓や同性婚に対する抵抗が続くのは自然なことです。しかし、これらは技術的進歩に対応できていない管理基盤の問題に過ぎないかもしれません。
電子認証システムやマイナンバー制度の普及により、私たちは家族単位ではなく、個人単位での住民管理が現実のものとなっています。このような管理システムは、性別や家族構造の変化に対して柔軟に対応できるため、夫婦別姓や同性婚といった問題も技術的には解決済みと言えます。
保守的な家族観が、住民管理のシステムに依存しているとすれば、現在の保守的価値観は戸籍に依存しない理屈を用意する必要があるのかもしれませんし、「電子認証」の時代は新しい保守的価値観を生み出すのかもしれません。
むすびに
住民管理システムの技術的進化は、単なる行政手続きの効率化にとどまらず、私たちの社会構造や価値観に深い影響を与えてきました。「手書き」から「印刷書類」、そして「電子認証」へと移行する過程で、個人の識別方法や家族の定義、さらには社会規範までもが変容してきたことが分かります。
特に注目すべきは、現代の論争となっている夫婦別姓や同性婚といった問題が、単に人権や伝統の対立ではなく、住民管理システムの技術的制約と密接に関連している可能性です。「印刷書類」時代の制約が生み出した「伝統的」価値観は、「電子認証」時代を迎えた今、再考の時期に来ているのかもしれません。
マイナンバー制度に代表される電子認証システムの普及により、個人単位での柔軟な管理が可能となった現在、これまでの固定的な家族観や性別観にとらわれない新たな社会システムの構築が技術的には可能になっています。しかし、技術的可能性が直ちに社会変革をもたらすわけではありません。
今後は、技術の進歩と社会規範の間にある緊張関係をいかに調整していくかが重要な課題となるでしょう。「電子認証」時代における新たな保守的価値観の形成や、個人の権利と社会の秩序のバランスなど、私たちは多くの問題に直面することになります。
最後に、この考察は技術決定論に偏重しているという批判もあり得るでしょう。確かに、技術は社会を形作る重要な要因ですが、逆に社会が技術の在り方を規定する側面も無視できません。今後は、技術と社会の相互作用をより多角的に分析し、歴史的事例や国際比較なども取り入れながら、この理論をさらに発展させていく必要があります。