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「招かれざる獣たち」閑話S2 内緒の雨宿り(前編)
【『招かれざる獣たち』完結記念企画】
カクヨム他に掲載の『白黒エンカウント』(倉谷みこと先生)から、主人公一行のユキトさん、アリスさん、ジェイクさんにゲスト出演していただきました。
※ゲストさんの作品世界とケモモフの作品世界が交差している設定の作品内フィクションです。ご了承下さい。時系列はラウルがアリアたちと旅をすることになったばかりの、最初の頃になります。
薬草採集の途中、突然の雨に洞を見つけて駆け込んだ。
町を出る時に見上げた空は、雨を降らせるような素振りをまったく見せていなかったのに。どうやら僕らは騙されたらしい。
僕が無理やりに手を引いた所為か、アリアちゃんもハアハアと肩で息をしている。彼女の肩が上下に動くのに合わせて、彼女の二つに束ねた金の髪と、黒い兎の垂れ耳も揺れている。
と、彼女は僕の顔を見上げてニコッと笑った。
「あーあ、降られちゃったねぇ。ラウルおにいちゃん」
困ったような事を言っているわりに、アリアちゃんに不満そうな様子はない。むしろこの状況を楽しんでいるかのようにころころと笑う。
その、全く気にもしていない様子に、ほっと安心を覚えた。
表から見るよりも、洞の中はずっと広かった。人が10人ほど入っても落ち着けるくらいの広さはある。
おそらく、僕らの前にも旅人や冒険者たちが雨宿りに使っていたのだろう。入り口から洞の奥まで、地面は綺麗に踏み固められており、古い焚火の跡もある。暖を取るのに使ったらしく、少しだけれど使い残しの薪も積んである。
ひとまずアリアちゃんの髪を拭いてあげないと。間違って風邪でもひかせてしまったら、彼女の保護者たちに申し訳がたたない。何より、こんな幼い女の子が風邪で苦しむ姿は、僕だって見たくない。
「髪を拭こう。それから濡れた服を乾かさないと」
そう言ってバッグの中から小さなタオルを取り出して、アリアちゃんに差し出した。
「うん?」
不思議そうな顔で僕を見るアリアちゃんの頭には、すでにふかふかの柔らかそうなタオルが載っている。
「あ、ああ。アリアちゃんも持っていたんだね。じゃあ、僕は火を起こすね」
そう言いながら、小さいタオルで自分の黒髪の雫を拭った。
彼女も自分で小さいポーチを持っている。でも、あの大きさのタオルが入っていたとは思えない小ささだ。一体、どうやって入れていたんだろう?
首を傾げながら、薪を組んで魔法で火をつけた。
* * *
「ひゃーー」
不意に誰かの声と共に、バタバタと慌しい足音とびちゃびちゃと泥水の跳ねる音が聞こえ、洞の入口の方を見た。
ちょうど旅人らしき三人組が洞に駆け込んで来たところだった。咄嗟にアリアちゃんを後ろに庇う。
三人組は少年と少女、あと大人の女性が一人。少年と少女は10代半ばくらいに見える。多分僕と同じくらいだろう。
警戒する僕らにすぐに気付いて、大人の女性が口を開いた。
「悪いね。あたしたちも雨宿りをさせてもらえないかい?」
「……旅の方、ですか?」
僕の言葉に、少女が優しく微笑む。
「ごめんね。この先の町まで天気が持てばよかったんだけど、急に雨が降ってきて」
「わたしたちも雨宿りしてるのー」
僕が応える前に、僕の肩越しにアリアちゃんが声を発した。
「濡れたままだと風邪ひいちゃうよねぇ」
続く言葉は僕に向けた物だ。
アリアちゃんは、彼らを警戒が必要な相手ではないと判断したんだろう。それを聞いて、張っていた肩の力がふっと抜けた。
ずっと火の側に居た僕らの服はもうすっかり乾いている。反対に、彼らの服は湿り、髪からは水が滴り落ちている。
「そうですね。早く服を乾かした方がいいですよ。こちらにどうぞ」
彼らに、火の前の席を譲る。
「ありがとう!」
少年が一番最初に応えると、そそくさと焚火の前に座る。続くように少女ともう一人の女性も座った。
「はい、どうぞー」
アリアちゃんがニコニコと愛想をふりまきながら、彼らに一枚ずつタオルを手渡している。
って、あのタオルはどこから持ってきたんだ??
「あ、ありがとう」
少年と少女は戸惑いながらも礼を言ってタオルを受け取る。
アリアちゃんは最後の大人の女性の前に行くと、自分の小さいポーチに手を差し込んだ。
その手を引き出すと、そこには新しいタオルが握られている。明らかにポーチより大きいタオルを、そのままずるずると引っ張り出した。
「ええっ!?」
「はい、どうぞー」
その女性と僕、それから少年少女が驚く前で、当たり前のように取り出したタオルを、アリアちゃんは女性に押し付けた。
「そ、そのバッグはいったい……?」
「ア、アリアちゃん。それってもしかして、マジックバッグ……?」
マジックバッグは、見た目の容量より多く荷物が入れられたり、重量が軽減されたり、つまりは実際の大きさより多くの物を運べる効果があるバッグだ。どこにでもあるわけではないし、とてもとても高価なものだ。
「あっ」
アリアちゃんはようやく気付いたように、はっと口に手を当てる。
それから、悪戯がバレたかのように、えへへと笑った。
「これは秘密なの。ないしょだよおー」
どうやら、さっきのタオルもあそこから出してきたらしい。この小ささであれだけ入れられるとは、かなり性能の良い物だろう。
こんな幼い女の子が気楽に持ち歩くようなバッグではないだろう。もし知られた先が悪党だったら、彼女自身が危険に晒されるところだ。
「……わかった。助けてもらっている身だしね。深くは聞かないよ」
アリアちゃんの顔を見て、大人の女性は薄くため息を吐きながら言った。
「あんたたちは旅人…… じゃあないようだね」
女性が、受け取ったタオルで髪の雫を拭いながら言う。
「冒険者です。この近くの町で依頼を受けて、薬草採集をしていたところで」
「え? こんな小さな女の子も?」
少女が驚いた様子でアリアちゃんに視線を向けた。
「アリアはラウルおにいちゃんのお手伝いしてるのー」
えっへんと、アリアちゃんが胸を張りながら自慢げに応えた。
僕らの名前が出たところで、思い出したように自己紹介をすると、3人も僕らに名を告げた。大人の女性がジェイクさん、少年と少女はユキトさんとアリスさんと言うそうだ。
見た感じ女性二人は人間で、揃えたように二人とも髪を高く結っている。ポニーテールというヤツだ。でも二人の髪色は違うし、雰囲気もだいぶ違う。二人の様子を見る限り、姉妹という訳でもないらしい。
もう一人、男性のユキトくんの頭上にはピンと立った白兎の耳がある。彼は兎の獣人だそうだ。
アリアちゃんは、自分と同じ兎の耳を持つユキトくんに興味津々のようだ。
「実は僕らも普段は旅をしていて、つい先日近くの町に来たばかりなんですよ」
僕の言葉に、ユキトくんがハッとした様子でこちらに顔を向けた。
「あちこちを旅してきたのなら、どこかでクーレル・アルハイドという男に会わなかったか?」
急に視線を向けられ、少しだけ驚いた。
「探し人…… ですか? 覚えはないですが…… 何かあったんでしょうか?」
「ああ、実は俺たちの国の――」
「ユキト!」
ユキトくんの言葉を、アリスさんが遮った。
「何だよ、アリス」
「あんた今、何を言おうとしたの? あの事は部外者に話しちゃダメでしょう!?」
「そうだけどさ。ラウルくんたちだって、俺たちに秘密を話してくれたじゃないか」
そう言うユキトくんを、アリスさんは強い視線で睨みつける。
これはいけない。僕の所為で二人にケンカをさせてしまいそうだ。
「二人とも、その辺にしておきな。ラウルたちが困っているじゃないか」
僕が何かを言う前に、ジェイクさんが二人を制してくれた。その言葉に僕も続ける。
「はい。秘密でしたら、無理に聞き出したりしませんから」
それを聞いて、二人は少しだけ顔を見合わせた。それから、再び僕らの方を向く。
「本当は極秘なんだけどね」
そんな前置きで話始めたのはアリスさんのほうだった。結局二人は、僕らにその『極秘任務』の話をしてくれるらしい。
【後編へ続く】
本編もよろしくお願いいたします!
「招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~」
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殺された家族の敵を討つ為に、ラウル少年が雇った凄腕冒険者たちの正体は、人ならざる獣の力を持つ者たちだった。
彼らと旅をすることになったラウル。
彼らの正体は?そして、彼らの目的はいったい?
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「白黒エンカウント」(倉谷みこと先生)
人間、獣人、龍人が住む世界、エバーフィールド。女王の聖なる力によって秩序が保たれていたこの世界は、クーレル・アルハイドら三人の手により危機を迎えていた。
クーレルら三人によって氷漬けにされた女王エルザ。彼女を救う為、そしてクーレル・アルハイドを探す為に、うさぎの獣人ユキトは幼馴染の少女アリスと共に旅にでる。
彼らは敵を見つけることができるのか、そして世界は秩序を取り戻すことができるのか……
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