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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#174]閑話9 お返し/ミリア(WD閑話)

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

閑話9 お返し/ミリア(WD閑話)

※作中の世界にバレンタイン&ホワイトデーはありませんが、作品内フィクションのお遊び閑話として読んでください。
※リリアンが王都に来る前のお話です。

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 今年もデニスさんは、バレンタインデーに沢山チョコを貰ったらしい。

 この王都シルディス西地区の冒険者ギルドで、デニスさんの名前を知らない人は居ない。居たとしたらそれは他所よそから来た者か、旅の冒険者だろう。
 実力のあるAランク冒険者。ギルドマスターの覚えがめでたく、後輩冒険者の面倒見も良い。優しくて、背も高くて、格好も良い。
 これでモテない訳が無いのよね。

 貰った本人は義理チョコ(だと思っている)を貰う事に、特別な感動を感じてはいないみたい。いつものお礼だろうと思っている。多分、そうじゃないのもいくつかは入っていると思うんだけど。
 もちろん私もデニスさんに渡したけれど、それももう毎年の事で家族チョコみたいな感じになっている。まあいいんだけどね。

 で、この時期になると、ホワイトデーのお返しを買いに付き合うのも毎年の恒例だ。
わりいな、ミリア。俺、こういうのイマイチわからないからさ。助かるよ」
 デニスさんはそう言うけれど、誘ったのは自分の方だ。だって、放っておくと当日まで「まだ用意してない」とか言い出すんだもの。
 男の人はチョコが美味しければそれでいいのかもしれないけど、女の子へのお返しはそうはいかない。しかもお返しに良い物は早いうちに売り切れてしまう。

「で、今年は何個貰ったんですか?」
 そう尋ねると、両手で指を折りはじめた。……今年は去年よりも多いみたいね。

 いつも自分が覗いている中央地区の雑貨屋で、ワンポイントの刺繍が入ったハンカチをいくつか選んだ。普段使いの小物なら貰って困る事もないだろう。
 相手によっては小物入れとか髪飾りとかでもいいと思うんだけどね。でも誰から貰ったのかと、相手を確認するつもりも、詮索するつもりもない。

 せっかく来たのだしと髪飾りの棚の前を通った時に、新作だろうか、チェリーブロッサムの花をあしらった髪留めが目に留まった。ピンクが基調なのも私の好みだ。
 今日はまだまだこの先も買い物で忙しい。また出直して買いに来ようと思い、デニスさんを急かして店を出た。

 もちろんホワイトデーのお返しはハンカチだけじゃ足りない。ちょっとしたお菓子も用意しないと。でもこれを選ぶのが予想外に大変だった。
 西地区の店のお菓子は、皆が普段から買っているだろうからお返しには向かない。
 でも中央地区の公園脇の店のお菓子は去年使ったし、別の人気の店はすでに予約分で埋まってしまっていた。
 それならばと東地区にまで足を伸ばしたら、すっかり時間が遅くなってしまった。

 今日はこのまま『樫の木亭』に行かないと、開店に間に合わない。デニスさんとはそこで別れて、真っすぐ西地区に向かう馬車に乗った。

 次の日にあの雑貨屋に行ったけれど、髪飾りを買う事は出来なかった。あれが最後の一品だったらしい。売り切れてしまったと、店員さんが申し訳なさそうに言った。
 あんなに可愛い髪飾りだもの。仕方ないわよね。
 自分の部屋のマジックボックスの中にも、髪飾りが溢れている。丸々一つ分が髪飾りやリボンで埋まりそうな程だ。これはもう増やすなという、何かの啓示なんだろう。

 * * *

 ホワイトデーの当日。
 『樫の木亭』の常連のお客さんから、沢山のお返しを頂いた。
 バレンタインの日に出した定食に、お店からだと言って一口サイズのチョコを添えていたのだけれど、それにまでお返しを用意してくれた人もいる。
 流石にそれは申し訳ない。でも店主のトムさんは「良いから貰っておけ」と言って、代わりにそのお客さんたちには大盛りをサービスしてくれた。

 珍しく、デニスさんがやってきたのは少し遅い時間になってからだった。
「デニスさん、お疲れさま。今日は遅かったですね」
 そう言って、エールをテーブルに置く。まずエールからなのは毎回の事で、言われなくても出す様になっている。
「ホワイトデーのお返しを渡して回るのに時間がかかっちまってな。冒険者の子が多くて」
 冒険者ならば日中は町の外に出ている事が多い。帰った頃に渡すのなら、夕方からの時間を狙うようになる。さらに、帰りが遅くなった子でもいたんだろう。

「ミリアにもこれを。ありがとうな」
 そう言って、見覚えのある菓子の包みと、やっぱり見覚えのある雑貨屋の包みを手渡された。
「ありがとう、デニスさん」
 笑顔で受け取った包みの手触りが硬くて、あれ?と思った。しかも、あのハンカチの包みならもっと薄いはずなのに、なんだか厚みもある。

 広げてみると、あの日に見たチェリーブロッサムの髪飾りだった。
「ミリア、こういうの好きだろう?」
 そう言って笑って見せる。

 そういえばと思い返せば、マジックボックスが溢れそうになっている原因の一つはデニスさんだった。
 小さい頃から、何かあるとこうして髪飾りやリボンをくれる。他の町に行く事があればお土産に買ってきてくれる。
 しばらく貰うような理由もなかったし、デニスさんも町を出る機会もなかったからお土産もなかったし。

 さっそく髪につけて見せると、「やっぱり似合うな」と言って頭を撫でてくれた。

 人間の多いこの国では、私みたいな獣人は珍しい。
 家族もなく一人で暮らしていても、全く寂しい思いもせずに居られるのは、『樫の木亭』のトムさんや奥さんのシェリーさん、常連のお客さん達、そしてこうしていつも私を可愛がってくれるデニスさんのお陰だ。

 「ありがとう、……」
 裏でこっそり、お礼と言えない言葉を呟いた。


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