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【創作大賞2024漫画原作部門】ダブルス!

作品タイトル : ダブルス!


作品概要

バドミントンを題材にした青春スポーツ漫画。
才能はあるが努力の苦手な少年と、運動音痴だが努力家の少女。主人公二人の成長や恋、ライバルたちとの戦いを描く。また、王道スポーツ漫画らしく、超能力的大技なども段階を経て登場する。
少年漫画の激しいアクションと少女漫画の繊細な恋愛模様を混ぜ合わせた作品という意味も込め、タイトルを『ダブルス!』とした。

作品のテーマ

本作主題は『才能や努力の限界も、組み合わせによって無限大の可能性を得る』
タイトルとも深い関連を示す主題だが、この主題を強調するため、本作中では『生まれ持ったものに対する苦しみと葛藤』が多く描かれる。

あらすじ(300字以内)

運動音痴だが人一倍努力家の緋波千晶、バドミントンしか取り柄のない怠け者の葵晴也、男女の垣根を超えた真の実力勝負を求めるバド部の絶対的エース鳳美空……運命のように出会った選手たちが、磨き上げた技をぶつけ合う青春スポーツ漫画。中総体やジェンダーレス大会が主な舞台となる。
どんなに強くても個人には限界や欠点があり、どんなに弱くても組み合わせ次第で可能性は無限大。男子×女子、才能×努力、恋愛×バトル、思考×直感、不良×優等生、派手×地味、運動部×文化部、先輩×後輩、情熱×冷静、スポ根×青春、少年漫画×少女漫画……最強の組み合わせ=ダブルスを探せ!

プロット(780文字)

盛岡市立上米内中学校に入学した二人の主人公。
バドミントンしか取り柄のない葵晴也は進学したらバド部に入ると決めていた。しかし、上米内中には女子バド部しかなく、男子である晴也は一度入部を断られる。だが男子部女子部と性別で大会を分けることに疑問を抱いていた3年の鳳美空と顧問教師のはからいで、晴也は男子でありながら10人目の新入部員として女子バド部への入部を果たした。
美空は全体の底上げを狙い、晴也と千晶をダブルスペアとして組ませる。
晴也は直向きに練習する千晶の姿に惹かれるが、千晶は努力のできない晴也の姿勢が不真面目に見えたことで苦手意識を持つようになる。しかし、歪な関係ながら、晴也は誰も気づかない千晶の才能を見出し、千晶もそれに応えることで、新入部員内で行われた新人戦代表選抜戦で優勝を勝ち取ることに成功する。千晶は晴也に信頼を寄せるようになり、晴也自身も惚れた千晶の為なら努力ができることを徐々に自覚していく。そして互いに弱点を補い合い、強みを伸ばし合える相手だと知った二人は、同じ目的を目指すペアとして認め合うようになる。
中総体の全国大会が終わり、全日本バドミントン協会主催によるジェンダーレス全国中学生バドミントン大会が開催されると、晴也と千晶ペアは同じコートに立てるようになる。最初は県大会止まりだが、そこから2年、3年と学年が上がる毎に地区ブロック制覇から県大会、地方大会、全国大会へと勝ち進んでいく。
全国レベルの選手はそれぞれ特徴的なプレイスタイルと超能力的な大技を披露する。個人の努力や才能だけでは叶わないライバルが多く現れるが、二人はそれぞれの成長と学び、ひらめきと訓練、友情が生み出す力によって乗り越えていく。
一方、バドミントン大会と同時に進行する晴也と千晶、それぞれの恋愛模様もさまざまな人物や出来事が何度も入り混じり、激しく流動していく。

登場人物


緋波千晶
(ヒナミ チアキ)
運動音痴だが、人一倍努力する努力家。曲がったことが嫌いな正直な性格のせいで損をすることが多い。その素直さから、攻撃を目的とした悪口ですらアドバイスとして受け止めてしまう。また、その素直さや正直さが人を傷つけてしまうこともある。
バドミントンを始めたきっかけは、荒んだ生活を送る元バドミントン部員の兄を立ち直らせたいと願ってのこと。

緋波燈吏(ヒナミ トウリ)
千晶の兄。燈吏は中学から高校とバドミントン部のキャプテンを務めるほど優秀で真面目な性格。高校全国大会の個人戦ダブルスでベスト8の実績を持ち、将来の日本代表として方々から期待された選手だった。だが、それを妬んだ部内の陰惨なイジメによって不登校となり、今では荒れた不良生活を送っている。
小さい頃から燈吏にバドミントンを教えてもらっていた妹の千晶は、真面目で優しかった兄を取り戻すため、兄と同じ全国ベスト8を目標として日々練習に励む。

葵晴也(アオイ ハルヤ)
唯一得意なバドミントンにすがり、その他の努力を怠っていたが、千晶に出会ったことで少しずつ成長を遂げていく。千晶の夢を叶えることを目標とするくらい千晶に一途な想いを寄せる。
晴也がバドミントンで発揮する力の正体は、寝坊から走って遅刻ギリギリ学校に間に合う瞬発力、たくさんのイジメを受けてきたため飛んでくる物に敏感になりすぎた反射神経、ゴミ捨ての面倒臭さから身につけた投擲能力、父が勤めていた高校のバドミントン部で遊んでくれた高校生、暁龍郎(アカツキタツロウ)から得たテクニック、田舎育ち特有の持久力である。

暁龍郎(アカツキ タツロウ)
晴也にバドミントンを教えた青年。晴也から「師匠」と呼ばれている。バド部顧問であった教師が、いじめで不登校になっていた当時小学生の晴也をバド部に連れてきたのが最初の出会い。それから晴也を弟のように可愛がり、バドミントンを教えるようになる。東京の大学に決まり、バドミントンのチームにも所属することになっていた。
旅立ちの日の前日、晴也に自身の得意技の一つ、「ドラゴンドライブ』を伝授する。

鳳美空(オオトリ ミソラ)
上米内中3年の絶対的エースである美空は、男子バド部にも負けない実力がありながら、女子バド部という枠組みの中で行われる大会に不満を持つ。女子バド部では全国大会3年連続優勝の実力者。稲妻の様な早さと威力を持つスマッシュ「イナズマショット」や激しく急降下するドロップ「シダレザクラ」といった大技を持つ。

その他、人物
各校、各チームまたは全国を代表する多くのライバルたちが登場する。中でも強力なライバルは、完璧な基礎と最後まで諦めない鋼鉄の精神を併せ持つ明日原夢芽(アスハラ ユメ)と、高度なテクニックと音速スマッシュ「スパロウ」を武器とする天条爽馬(テンジョウ ソウマ)のペア。

上米内中学校バドミントン部の名簿

第1話

三月の終わり。盛岡第七高等学校体育館に、心地よく響き渡るシャトルの音。
打ち合っているのは葵晴也と暁龍郎、二人きり。
明日、大学進学のため上京する龍郎は、四月から中学へ進学する晴也を喜ぶと共に、上京への期待と別れを惜しむ気持ちを伝える。晴也もまた、中学バド部入部への期待と、龍郎の旅立ちの喜び、そして龍郎との別れの寂しさを伝える。
「最後に」龍郎はバド部入部に期待を抱く晴也に向けて、二つのプレゼントを贈る。一つは龍郎が使ってきたラケット、そしてもう一つは……。

四月。龍郎から貰ったラケットを肩にさげ、意気揚々と体育館まで出向いた晴也は、バド部顧問の森尾先生に入部届けを出す。森尾は申し訳なさそうに断る。
「どうしてですか!?」
顔をあげた晴也が目にしたものは女子だけの光景。緋波千晶たち新入部員9人は先輩に連れられ、体育館の周りを声を出して走っている。
「バドの男子部は3年前に廃部して……今は女子部だけなんだ」と、森尾は手を合わせて謝る。
「ええーーっ!?」
だが、諦めきれない晴也は、
「なんとか一緒に出来ませんか?部員一名の男子部、僕一人でもいいので」と頼み込む。
「でも、女子しかいないし……もし入っても君が気まずいと思うんだけど」
「バドミントンができるなら、気まずくても平気です!お願いします!やらせてください!」
「君が平気でも、他の部員たちが……」
戸惑う森尾先生の背後から、
「男子か女子かではなく、実力があるかどうかで決めませんか?」
と提案する声。三年の鳳美空先輩だ。
「勝負して勝てば入部させてくれるんですか?」目を輝かせる晴也。
「美空先輩に勝つなんて絶対無理」「美空先輩は個人戦全国V2よ?知らないの?」と部員たちからざわめく声が上がる。森尾先生も諭すように無理だと晴也に伝える。
「私から一点でも取れたら入部させるというのはどうですか?」
美空の提案に困惑する森尾先生を置き去りに、晴也はその提案に乗る。
「それでお願いします!」
コートに立つ晴也と美空。12点ゲームで試合が開始される。美空の鋭い攻撃の連続に圧倒される晴也。それでも周囲は美空の打球を打ち返す晴也に驚く。美空の打球に対応できる部員はごく少数に限られている。
得点差が9も離れた頃、晴也は「もう少しなのに!」と焦りを見せる。しかし、美空は利き手とは違う手で、スマッシュとドライブ、プッシュを使わずに試合していることを明かす。途方もない力量の差を見せられながら晴也はついに11得点まで許してしまう。
(あと1点で負ける、1点も入れられずに負ける……)
晴也の脳裏に浮かぶのは暁龍郎との思い出。楽しかった時間、そして、龍郎の2つのプレゼント。龍郎の使ってきたラケットと、もう一つ……。
「龍郎くんが教えてくれた技だ!」
美空の打ち上げたロブに向かう。グリップを掌で転がし、逆手に構える。これがラケットと一緒に貰った龍郎のプレゼント、
ドラゴンショット!!
晴也の放ったドライブは、龍の鳴き声のような風切り音をあげ蛇行し、高速で美空をすり抜けた。後方ラインぎりぎりに落ちる。
《得点1-12》
大差で敗れたものの1点を獲得した晴也は念願のバドミントン部への入部が叶う。
大喜びの晴也を横目に、2年の次期部長、古川が怪訝な顔で美空に尋ねる。
「先輩、どうして打たなかったんですか!?」
「打ちたくなかったから」
美空は、今のバド部に晴也は必要な存在だと古川に説明する。
「美空先輩!私とも試合してください!」
声を上げたのは千晶だった。
「なにこの1年?」「さっきの試合見ていなかったの?」「美空先輩と試合?頭大丈夫?」
周囲のどよめきの中、美空は、
「1点でも取れる自信、ある?」
と千晶に尋ねる。
「ありません!でも、男子だけ実力がないと入部できないなんて、おかしいと思いました」
「正しさを主張するなら、1点取るくらいの覚悟で来なさい。もし点が取れないなら、せめて一度くらいはまともに打ち返すこと。よくて?」
「はい!」
美空は千晶の挑戦に応じる。

第1話終了


第2話

4年前。まだ小学2年生の千晶が、兄の燈吏と庭でバドミントンをしている。優しい笑顔を浮かべる燈吏と無邪気にシャトルを追いかける千晶。
「千晶、ラケットの握り方は……」
燈吏は千晶にラケットの握り方や構えを教える。燈吏は千晶のどんな下手な打球も受け止めてくれる。燈吏の上手さに感動する千晶。途中、強い風が吹いて大きく飛んで行ったシャトルを、燈吏が身軽なフットワークで追いつき、打ち返す。シャトルは回転しながら、ゆっくりと千晶のラケットに当たる。さらに千晶がラケットを振ると、シャトルは千晶の頭上に舞い上がり、高木の枝に挟まってしまう。
燈吏は笑いながら、千晶の頭を撫でる。
「すごいショットだ。羽をあんなに高く上げてしまうんだもの。まるで風が吹いたような技だ」
「風だよ?」
「いいや、千晶の実力さ!実力!実力!」
風の中に響く笑い声。屈託のない笑顔を浮かべる仲睦まじい兄妹。

三月(現在より一ヶ月前)。緋波邸の二階、子ども部屋で勉強している千晶。
一階から聞こえる兄の怒鳴り声。母親に向かって金を要求し、暴れている、皿が割れる音。母親の悲鳴。千晶は急いで階段を降りる。
「やめてお兄ちゃん!」
台所には髪色を染め、すっかり荒んだ姿の燈吏が立っている。煙草を咥え、親の財布からお札を抜き取り、家を出ていく。
「待ってお兄ちゃん!どこ行くの?」
「どこ?お前らがいない場所だよ」
「お金は置いて行って!それはお母さんがパートで必死に働いて貯めたお金だよ!」
「うるせぇな、また稼げばいいだろ」
外玄関の周りに幾つものバイクを鳴らす音。
兄の腕にしがみつき、必死に止めようとする千晶を強引に振り払い、燈吏は家を出る。
部屋に戻り、兄の使っていたラケットを見つめる。千晶は優しかった兄を思い出す。今ではガットが切られてボロボロのラケット。千晶はラケットを持って兄を追う。
(すっかり変わってしまったお兄ちゃん、優しかったお兄ちゃんはどこに行ってしまったの?)
河川敷、高架橋の下。集団でたむろしている燈吏の前にラケットを持った千晶が近づく。
「お兄ちゃん、帰ってきてよ!また私にバドミントン教えて!東京のチームにスカウトされたんでしょ?もうすぐプロだって言ってたじゃない、どうして諦めちゃうの?プロになるの、夢だったんじゃないの?」
燈吏は千晶からラケットを受け取ると、ラケットをへし折り、踏みつける。
「うるせぇよ!黙れ!帰れ!こんなもん持ってくんなよ!こんなもの、もうニ度と俺に見せんな!プロなんか夢でもなんでもねぇよ!いらねぇよ!全部要らねぇ!帰れ!」
燈吏は千晶に折れたラケットを投げつける。千晶はラケットを拾い、泣きながらその場を去る。

帰る途中、小学校で同じクラスだった男子、小野寺健斗(オノデラ ケント)に鉢合わせる。健斗は折れたラケットと泣いている千晶を放っておけず、兄が働いているスポーツ専門店に連れて行く。
「兄ちゃんなら直してくれるぜ、きっと」
健斗の兄、修斗(シュウト)は折れたラケットを見て、難しい顔をする。
「これは、買った方が早いんじゃないかな?」
千晶は折れたラケットと、兄燈吏について語る。高校バド部で期待されていた燈吏が、部内で陰惨ないじめを受け、退学したこと。それからの燈吏の荒んだ生活。千晶は、昔の優しい兄を取り戻したい、という想いを健斗と修斗に伝える。
「よし、直してみるか」
「さっすが兄ちゃん!」
「ただし、一週間はかかるぞ?」
「はい、ありがとうございます!」
「それと、修理ラケットは公式戦には使えないから、もう一本用意しておくことをお勧めするよ」

四月(現在)。兄、燈吏のラケットを握る千晶。しかし8失点目。美空の力強いクリアを打ち返すのも至難の技だ。どんなに力強く打ち返しても相手コートまで届かない。さらに千晶の運動音痴によって、何もないところで転倒する。嘲笑する声。森尾先生と晴也は、倒れても前向きに起き上がる千晶の姿を見て、胸が熱くなり、声を上げて応援する。
千晶は思い出す、風の日、燈吏と遊んだ記憶。
あの日の、兄のステップ。風の流れに乗って横に跳び、ターンして放つオーバーヘッドストローク。ラケットの修理した部分に当たり、カツンと音がする。それがふわりと不思議な軌道を描き、コートの右隅、ネット前に落ちる。予測外の動きに、美空は足がもつれて片膝をつく。シャトルはインの状態で美空のコートに着地した。
(なんか、風が吹いた、気がした)
閉ざされた体育館の中で、晴也は不思議と爽やかな風を感じた。
「あんなのただのまぐれ」と千晶を蔑む部員たちの中で、美空は千晶に言う、
「気にしないで。運もあなたの実力よ」
千晶の目の前には、あの頃の兄が微笑んでいた。

第2話終了


第3話

10人のバド部新入部員たちは、次期部長候補の二年、古川鮎奈(フルカワ アユナ)主導の体力作りと基礎練習に励んでいる。男子ならではの体力を期待されていた晴也が思いのほか貧弱だったことや千晶の運動音痴が悪目立ちする中、同じ一年の百園桜子(モモゾノ サクラコ)と若宮光(ワカミヤ ヒカル)の基礎体力と運動神経の良さが際立つ。ラケットを握れば、小学生の頃から練習を重ねてきた伊藤舞(イトウ マイ)と川原翔子(カワハラ ショウコ)が頭ひとつ抜きん出ている。
何もないところで躓いたり、転んだり、筋力も体力もない千晶を見る桜子の目は冷たい。
「ねえヒカル、あれ見て。あの緋波千晶ってやつ。あいつ、ヤバすぎでしょ、あの動き。運動部向いてないんじゃないの?」
さらにシャトルランで快調な桜子の前でふらつく千晶が邪魔になると、手で押しのけ、
「邪魔。向いてないなら早く辞めたら? 」
と、千晶に冷たく言い放つ。
「うちさ、運動が苦手な人を見ると、苛々するんだよね」
と、桜子は友人の若宮光に愚痴る。

運動の苦手な千晶と晴也を見ていた2年の邪馬田仁子(ヤマダ キミコ)は、2人の体力&筋力増強を最優先と考える。
「千晶ちゃんと葵くんはヘル道5周!」
「はい!」元気に返事をする千晶。
「えええーーっ!」と嫌がる晴也。
ヘル道(みち)と呼称されているのは、上米内中学校の近くにある1周約800mの緩急激しい山道のこと。地獄(Hell)の意味。運動部は基本的に最低でもこの山道を1周走ってから始める。
「どうせ誰も見てないし、ゆっくり行こうぜ」
とやる気のない晴也に、
「嫌です。誰も見ていないからこそ、本気を出さないと」
と、意気揚々と走り出す千晶。
「真面目だなあ」
途中疲れてダラダラと歩く晴也の横を全力で走る千晶。息があがって速度は遅いが、ふらつく足で懸命に走っている。途中、転ぶ千晶。
(あっ、また転んだ)
近づいて手を差し伸べる晴也。しかし千晶はその手に目もくれず自力で起き上がり、また走り出す。その姿に晴也の胸が熱くなる。
(なんだよ、胸がザワつく……なんなんだよ)
走る千晶の後ろ姿を見つめてしまう晴也。
次は筋トレメニュー……だが、晴也は疲れてずっと休憩している。
「おいサボってんじゃねえよ!男子だろ?もっと真面目に練習しろよ」
と、晴也に声をかけてきたのは、桜子だ。
晴也は、
「サボってんじゃなく、休憩してんの。だいたい俺は筋トレするためにバド部に入ったんじゃないから」
「はあ? じゃあ何しに入ったんだよ? まさか女子目当てとか? キッモ!」
「何しに?って、バドやる以外にないだろ。あんたは筋トレするために入ったのか?」
「走れないやつは文化部行けよ。邪魔だから」
「ふうん。でも俺、あんたよりバド上手いから。あんたこそ俺の邪魔しないでよ」
「クソが。どっちが邪魔かやってやるよ」
桜子は舌打ちをして晴也に勝負を挑む。
部活時間内に1年がコートに入ることは許されていない。だが、部活後、3年と2年は1年に掃除を任せて先に帰る。1年がコートに立てるのはこの時間だけだ。
1年8人が見守る中、晴也と桜子はシングルで試合を行う。21点ゲーム。審判はバド経験者の伊藤と川原。サーブは桜子から。
試合開始。
桜子の甘いサーブを晴也は容赦ないプッシュで押し込み、1点を奪う。サーブ権が晴也に渡る。
「えっと百園さんだっけ? 今ので大体わかったよ。悪いけどこの試合、俺が勝つよ。間違いなく。それでも続ける?」
「その話し方が気持ち悪りぃんだよ、ザコ男子」
「はいはい、じゃあどうぞ」
それからというもの、晴也はサーブだけで得点する。相手のバックハンド側ラインギリギリに狙うサーブ。20-0。マッチポイント。
「この辺で辞めといた方がいいんじゃない?ザコ男子に負ける前に」
「……うるせぇ。さっさと打てよ、その汚ねぇ、インチキサーブ!」
「インチキサーブ? やめてよね、そんな変な名前つけるの。もしこれに名前をつけるなら……」
晴也は構えて、シャトルを摘む手を放す。
スパイクサーブだ!」
結果は21-0で晴也の圧勝。桜子はラケットを投げ捨てる。そして荷物をまとめて去ろうとする桜子に向かって、晴也は、
「掃除、途中だけど? 女子はサボっていいってこと?」
と、挑発した。
「黙れよ。美空先輩から1点しか取れなかったくせに」
と、小さい声で桜子が呟く。
「その俺から1点も取れなかったよね? 偉そうなこと言うのは、先ず俺に勝てるようになってからにしてもらえる?」
晴也は大声で渾身の嫌味を、去り行く桜子の背に吐き捨てた。桜子は涙を目に浮かべて出ていく。すぐに桜子を追いかける若宮。
千晶は晴也に駆け寄る。そして、
「あなたは最低です!強ければいいなんて間違っています!私、あなたが嫌いです!大嫌いです!」
と告げる。戸惑いながらも何も言えない晴也。
翌日から、桜子の態度は変わった。真面目にやるのなんて馬鹿らしいと言わんばかりに、練習の手を抜くようになっていった。代わりに髪を派手に染め、ピアスやネイルをつけ、イケメンの話しかしなくなった。掃除をせず帰るのも常態化した。そして、晴也と千晶を見る目は、冷たさを通り越して恨み、睨みつけるように変わっていった。

4月末。早くも5月に始まる市大会と新人戦の話が三年、現部長志島渚(シジマ ナギサ)から聞かされる。市大会も新人戦も、今後行われる中総体の大会予選を兼ねているという。
規約上、団体戦と個人戦の兼任は認められていないため、団体戦チームは男子である晴也を除いた新入部員9名の中から5名選抜される。個人戦はシングルス枠から2名選抜され、晴也は半自動的に男子大会のシングルス個人戦で出場となる。つまり今回、一年の女子部員2名は参加できない。
選抜を決める顧問の森尾先生は、模擬戦以外にも普段の練習の様子から選手を決めると説明する。そして美空から練習のための大胆な発案がある。今後すべての練習をペア制で行うというものだ。そのペアは互いに競い合い、時に協力し合うペアであるという。さらに、美空の大胆な発案は晴也と千晶を驚かせる。
「一年は全員で10人、ちょうど5組のペアができます。そしてそのペアは、既にこちらで決めさせて貰いました。今からそのペアを発表します」
①《川原、伊藤》ペア
②《若宮、大宮寺》ペア
③《須刀、今野》ペア
④《百園、堤》ペア
⑤《緋波、葵》ペア
桜子は若宮とペアじゃないことに文句を言う。若宮は、大宮寺と組むのも悪くない、と感じる。
そして晴也と千晶は、気まずさから目も合わせられない状態に……。

3話終了

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