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虹色銀河伝説 地の章①

約6000文字(10分)

こんにちは、自称小説家の月原深夜子です。
今回は私が長年構想してきた長編をご紹介させて頂きます。エピソード1『地の章』は私の好きな少しダークなヒーローもの?です。
7つの壮大な世界の物語を是非ご覧ください^ ^

プロローグ

 好きなヒーローは?
 と、聞かれたら、なんて答えよう? 
 僕にはたくさん好きなヒーローがいる。
 どんな命にも優しい『アンパンマン』や勇気をくれる『青いブリンク』、「1人はみんなのために、みんなは一人のために!」の三銃士とダルタニアンも好きだ。
 巨悪に立ち向かう孤高の戦士『仮面ライダー』も、悲しみを背負いながら明るく地球に親を探しに現れた『超新星フラッシュマン』も、何が起きてもヘッチャラな『孫悟空』も、みんな好きだ。
 でも、一番を決めるなら……

 やっぱり《タイタンマン》しかいない。

 だって僕らの平和は《タイタンマン》が守ってくれているのだから。

1.怪獣のこと

 怪獣は東京にしか現れない。
 たまに横浜や北海道あたりに出るけど、岩手には出ない。岩手に出没するのは熊くらいだ。
 だから僕は、怪獣をテレビでしか観たことがない。タイタンマンもテレビでしか観たことがない。タイタンマンは強い。カッコイイ。
 正体は分からない。
 宇宙人なのか、誰かの秘密兵器なのか。

2.僕が通う小学校のこと

 僕が通う小学校『笠良木(カサラギ)小学校』には、東京から疎開してくる子どもが多い。
 怪獣の被災者たちがたくさん転校してくる。
 岩手には怪獣が出ないのだから、安心だろう。
 だけど……。
 怪獣は出ないけど、僕の小学校の同級生たちは、東京から来る転校生たちに冷たい。
 近所の人達も『外者(ソトモノ)』と言って、仲間外れにしている。いつも悪い噂を話して「嫌だね」「嫌だね」「これだから東京から来た人は」と冷たい目を向ける。疎開してきた家族は、怪獣に家を壊されて、辛い想いをしているはずなのに、どうしてそんなに冷たくできるんだろうか。僕には分からない。

3.引っ越してきた家族のこと

 小学校2年生の冬。3月。
 その頃、僕の家の迎えに東京からある一家が疎開してきた。建売の一軒家に引っ越してきた一家は、我が家にも挨拶にきた。
 「『鉄河』と申します。東京から疎開して参りました。どうぞよろしくお願いします」
 その家族はみんな優しそうな顔をして、行儀良く挨拶をした。その中に、僕と同じくらいの年齢の子どもがいた。一家は小さく上品な紙袋を僕のお母さんに手渡すと、もう一度お辞儀をした。
 「テツカワさん、ですね。木田、と申します。こちらこそ、よろしくお願いします」
 家族は最後まで丁寧にお辞儀をして去っていった。とても良い一家だと思った。
 だけど僕のお母さんは、家族が去って玄関の戸が閉まると、ため息をついて「困るわね」と静かに呟いた。
 その時、僕にはどうしてお母さんが「困る」と言ったのか、まるで分からなかった。

4.大きなアンテナ

 ある日、鉄河さん一家は、自宅の庭に大きなタワー型のアンテナを建てた。その大きなアンテナは、近所でとても目立った。
 そのことは、なんか良くないことのように思えた。なにより鉄河さんの家に、悪いことが起こらないか心配になった。
 僕たちの世間では、目立つことはよくないことだからだ。

 悪い予感は的中した。
 鉄河さん一家に対する悪い噂はすぐに広まった。大きなアンテナから発せられる電波は有害で子ども達にも危険だ、そんな話を近所の人達は真剣に話し合っていた。
 鉄河さん一家の誰かが近所の人に挨拶しても、誰も挨拶を返さなかった。声をかけられても返事をしなかった。近所の人達はただ、鉄河さん一家に冷たい目を向け、顔を背けるだけだった。

 あの一家が何をしたというのだろう?

 夕日にそびえる真っ赤な鉄塔。
 鉄河さんの庭のタワー・アンテナは、近所の人達の、憎しみの対象になっていった。

5.新学期の始まり、1993年

 4月。僕は小学校で3年生になった。3年1組。
 クラス替えで誰がいるか分からない教室に、緊張気味に入っていくと、不幸にも最も避けたかった女子がいた。
 鬼島ヒリコちゃんだ。
 ヒリコちゃんは自分の好きな人には優しいけど、嫌いな人にはとても冷たい。ヒリコちゃんは怒るととても怖いから、みんなヒリコちゃんを怒らせないように言うことをきく。
 僕はヒリコちゃんが怖い。

6.転校生

 新学期が始まり、新しい転校生が紹介された。
 僕の向かいの家に引っ越してきた、あの一家、鉄河さんの家の子どもだった。
 テツカワ アテルという名前だった。僕の名前に似ている。
 「鉄河アテルです。よろしくお願いします」
 アテル君は僕の家に来た時と同じように、丁寧にお辞儀をした。
 同級生達はみんな眉をしかめた。どの家でも親たちは「鉄河さんの家」の悪口を言っているからだ。アテル君が自己紹介をして挨拶しても、みんな冷たかった。戸惑っている人もいた。
 アテル君の隣りの席になったスズちゃんは、「アテル君の隣りは嫌だ」と泣いた。
 先生は困ったが、誰も代わりになろうとはしなかった。僕も黙っていた。この場で目立つとまずいことになると思ったからだ。

 その時、ヒリコちゃんが立ち上がった。
「先生はひどいと思います。スズちゃんが泣いているのに無理矢理、東京から来た変な転校生を隣りに座らせようとするなんて、スズちゃんが可哀想だと思います。先生として失格だと思います」
 ヒリコちゃんは、ツンと強い口調で先生に訴えて再び席に座った。先生は強く言い返さなかった。先生もヒリコちゃんが怖いからだ。
 ヒリコちゃんを怒らせると、ヒリコちゃんの家の怖い両親が学校まで怒鳴りにやって来るから、学校の先生たちもヒリコちゃんに気を遣っていた。
 アテル君の言葉にもならない苦渋の表情を見ると、胸が痛かった。
 スズちゃんも怖かったかもしれない。でも、アテル君はどんなに傷ついただろう。

7.教室の支配者

 ヒリコちゃんの周りには、同じような怖い女子が何人かいて、ヒリコちゃんが一言「あの子が嫌い」と言えば、みんなその子を嫌いにならないといけない。じゃないと、ヒリコちゃんに嫌われるから。
 僕は女子が怖かった。特にヒリコちゃんと、そのグループの人達が苦手だ。いつもヒリコちゃんグループを怒らせないように気をつけていた。

 鉄河アテル君はクラス中から無視されていた。誰も近寄ることさえしなかった。僕も近づかないようにしていた。アテル君が嫌いだからじゃない。みんなと同じ、ヒリコちゃんの目を気にしていた。アテル君に優しくしたら、ヒリコちゃんに嫌われるかもしれない。ヒリコちゃんに嫌われるということは、クラス全員から嫌われるということだし、クラス全員から嫌われるということは、学校から嫌われるということだし、学校から嫌われるということは、近所から嫌われる、ということ。そうなれば大変なのは僕だけじゃない。僕のお母さんもお父さんも、みんな辛い思いをする。そんなのは嫌だ。
 だから僕も、アテル君を無視した。

8.ある日の休み時間

 僕はノートに《タイタンマン》の絵を描いていた。金色に輝く大きな身体に、太陽のような顔、スラリと長い手足で、怪獣をやっつける姿だ。
「これ、タイタンマン? 絵上手いね」
 突然、アテル君が話しかけてきた。
 僕は、動揺した。
 だけど不思議じゃない。アテル君は家が近所だし、僕の家に挨拶しに来たこともある。
「このタイタンマンは、どんな怪獣と戦ってるの?」
 思わず話したくなった。だけど、鋭い視線を感じて口を閉じた。ヒリコちゃんグループの視線だ。僕の反応を厳しくチェックしている。少しでも僕がアテル君と話したら、ヒリコちゃんたちに嫌われる……。
「ぼく、タイタンマンに会ったことがあるんだ」
「えっ!本当!?」
(しまった!?)
 僕はヒリコちゃんの目を確認した。
 ヒリコちゃんは鬼の形相で僕を睨んでいる。僕は慌てて両手で耳を塞いだ。
「どうしたの?」
 ごめん。ごめん。ごめん。でも、でも……ヒリコちゃんグループに嫌われたくないんだ……。
 アテル君は悲しい顔をして自分の席に戻った。

9.悪夢の放課後

 その日の掃除時間。
 教室の隅っこで雑巾を洗っていると、ヒリコちゃんとダイチたち男子グループの会話している声が聞こえてきた。
 それは帰りにアテル君を捕まえてリンチする、そんな内容だった。

「先に学校を出て待ち伏せして、みんなでこらしめてやろうぜ」とダイチくんの声。

「ダイチくん頼りになるう。アイツみんなの敵だから、早くやっつけちゃってよ」とヒリコちゃんの声。

 本当なのかは分からないけど、絶対に関わりたくない。よりによって僕の家の方面じゃないか。

 放課後。僕は走って家に帰った。
 家の前でアテル君のお母さんに会った。
「シンイチ君、こんにちは」
 僕に優しく笑顔で挨拶してくれたアテル君のお母さん。なのに僕は無視して家の玄関の戸を開けた。
 これから、もし、アテル君がボロボロになって帰ってきたら、アテル君のお母さんはどんなに悲しむだろう。どんなに傷つくだろう。

10.恐竜怪獣、東京に現る!

 どうしてアテル君を無視しなきゃいけないんだ。どうしてアテル君の家族が傷つかなきゃいけないんだ。東京で家を壊されて、辛い思いをしてここまで逃げてきたのに。

 苦しい……胸が張り裂けそうだ……。
 僕はどうしたらいい?

 一階からテレビの音が聞こえてきた。
 さきほど帰ってきたお父さんが、急いでテレビをつけたんだ。
「また東京に出たらしいぞ」と、お父さんの声。
「怪獣?」と、お母さんの声。
「ああ。今度は、恐竜のような怪獣らしい」
 僕は急いで階段を降りて、テレビのある居間へと走った。
 テレビではTレックスのような怪獣が火を吹き散らしながら暴れている。
 アナウンサーは司令部がこの怪獣を『恐竜怪獣ダイナス』と呼称していると告げた。

11.正義の巨人ヒーロー、登場

 恐竜怪獣ダイナスはギザギザの背中を揺らしながら、新宿のビルや山手線の車両を大きな顎で噛み砕いた。そして口から火を吹いて火災を起こし、尻尾を振り回して住宅街を蹴散らした。
 恐竜怪獣ダイナスは東京タワーを目前にして、ギラリと目を光らせた。自分より背の高い建物は全部壊してしまいたいというように。
 だが、その時ーー。
 ついに、ついにやって来た我らがヒーロー、閃光と共に現れる正義の巨人《タイタンマン》だ。  
 中継のアナウンサーも、お父さんもお母さんも安心したように、タイタンマンの登場を喜んだ。

 タイタンマンは怪獣に噛みつかれても、痛みを堪えて怪獣を持ち上げた。そして大きく投げ飛ばした。まだまだ戦いは終わらない。怪獣の尾を持ち上げると、ぶんぶんと振り回すタイタンマン。

 恐竜怪獣は強力な尻尾でタイタンマンを払いのけると、再びタイタンマンの肩に噛みついた。そしてタイタンマンを突き飛ばし、倒れたタイタンマンを踏みつける。叩く。火を吹きつける。
 タイタンマンは地面を転がり態勢を整えると、再び立ち上がって、ファイティングポーズをとった。
 恐竜怪獣ダイナスと正義の巨人タイタンマンの激しい戦いを誰もが息を呑んで見守っている。

12.ちっぽけな僕の勇気

 タイタンマンは何度突き飛ばされ、何度噛みつかれても、また立ち上がった。倒れるたびに何度も起き上がりファイティングポーズを取る。

 タイタンマンはどうして戦うんだろう?
 諦めることだって逃げることだってできるのに、どうしてまた立ち向かうんだろう?

 僕は自分のすべきことが分かった気がした。テレビを見ている場合じゃない。
 僕はすぐに家を出て、学校に行く道を走った。
 雨が降ってきたってアテル君を放っておいてはいけない。
 助けなきゃ、助けなきゃ。
 僕に少しでもタイタンマンを倣う心があるのなら。僕に少しでも勇気があるのなら……。
(アテル君を助けるんだ!タイタンマンのように立ち上がれ!勇気を出すんだ!)

13.雨の中を

 通学路、山道の脇道。
 アテル君は傷だらけで倒れていた。遠くにアテル君のランドセルとその中身があちらこちら散らかっている。ひどい目にあったんだ。
「アテル君!」
 僕はアテル君を抱き起こすと、アテル君は泣いていた。
「アテル君、ごめんね。僕が弱かったよ。ヒリコちゃんが怖くて、ずっと君を無視してしまったんだ。僕が嫌われて傷つくのが怖いから、見て見ぬふりをしてたんだ。こんな弱い自分が情けないよ。僕の夢はタイタンマンみたいなヒーローになることなのに。タイタンマンみたいになりたいのに、僕は傷つくことから逃げていたんだ。君が傷ついていたのを知っていたのに。だけど、もう逃げないからね。僕は戦うよ、タイタンマンみたいに……」
 すると、アテル君は僕を見て悲しく笑った。
「大丈夫だよ、シンイチ君。強くなくたっていいんだよ。弱くたっていいんだ。タイタンマンはそのために……いるんだから……」
 アテル君の言葉は、僕にはよく聞こえなかった。だけど、何かを語ろうとしてくれたことが嬉しくて僕は頷いた。
「一緒に帰ろう。僕たち、家が近いからね」
「もういいよ、ここで大丈夫だよ」
「ダメだよ。傷だらけじゃないか。家まで、送るからね」
 泥水でぐちゃぐちゃになった教科書を全部拾い集めてランドセルに入れ、肩にかけた。
 雨は段々と強くなり、僕たちはずぶ濡れになりながら、家まで歩いた。
「ありがとう、シンイチ君」
「ううん。ごめんね、アテル君」
 これからは学校でもアテル君を無視したりしない。ヒリコちゃんに睨まれたってもう知るもんか。怖くても負けない。怖いけど、怖いけど……タイタンマンの勇気で戦うんだ。

14.サイレントディナータイム

 家に帰ると、お父さんもお母さんも、暗い顔をしていた。いつもはにぎやかな食卓が、とても静かだった。
 僕はハッとした。
 僕がアテル君を助けたから、それを見ていた近所の人から嫌がらせを受けたのかもしれない。
「……ねえ、何かあったの?」
 恐る恐る尋ねると、お母さんとお父さんは暗い顔を僕に向け、息を呑むように静かに答えた。

「……タイタンマンが、負けたのよ」

 《負けた》その意味がよくわからなかった。

「どういうこと?」

 タイタンマンが逃げた、ってこと? 
 それとも、怪獣に逃げられた、ってこと?

「食べられてね。恐竜の怪獣にバラバラにされて跡形もなく……」

 負けた、って《死んだ》ってこと?
 タイタンマンが、死んだ……!?

「今頃、東京は壊滅してるだろう。日本も時間の問題だ。ここだって危ないぞ」

 タイタンマンが負けるなんてウソだ。ウソだ。そんなことあるわけがない。そんなはずない。

 真偽を確認するため、僕はテレビをつけた。
 テレビ画面には、熱で折れ曲がった東京タワーと火の海となった被災地東京が、生々しく映し出された。今も何かを伝えようとするレポーターの絶叫と逃げ惑う人々の悲鳴が入り混じった音声だけが聞こえてくる。

「助けてくれーーーっ」人々の呻き声と叫び声。

 映像の、あまりの怖さに耐えきれず、すぐにテレビを消してしまった。夢に出てきそうなほど怖かった。怖い映像。怖い音。ヒーローの死。

 絶望の中、突如として電話の音が鳴り響いた。
 それは、僕が恐れていた、ヒリコちゃんからの電話だった……。


地の章②へ 続く

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