note創作大賞漫画原作部門 応募作品【ダブルス!】4〜6話
これまでのあらすじ(1〜3話)
第1話『バドミントンがしたい!』
舞台は岩手県の田舎街。
努力が苦手でバドミントンしか得意なことがない少年、葵晴也は中学校に進学したら、バド部に入部しようと意気込んでいた。しかし、上米内中のバド部は、女子部しかなかった。
諦めない晴也は、最初は反対されるものの、二度も全国大会で優勝している絶対的エース鳳美空の提案により、入部が叶う。
第2話『思い出は風の中に』
もう一人の主人公、緋波千晶は優しい兄、燈吏が、高校でのいじめが原因でバド部を辞め、目的もなく荒んだ生活を送っていることに胸を痛めていた。千晶は自分が昔の真面目だった兄を取り戻すため、上米内中のバド部に入部する。
第3話『運動が苦手な運動部員』
晴也は期待されていた男子とは違い、筋力も体力も持久力も低かった。千晶の運動音痴も悪目立ちし、運動が得意な部員たちから顰蹙を買う。
2人には基礎体力や運動能力向上を求められ、厳しい練習が課せられる。しかし、努力のできない晴也と、人一倍努力する千晶では、練習時に見せる姿勢、態度は真逆のもの。
千晶は楽をしようとする晴也を軽蔑し、晴也は直向きな千晶に心惹かれていく。
そんな時、二人は、運動が得意な女子部員、桜子から「運動部に向いていないから文化部へ行け」と挑発を受ける。晴也は挑発を受け、部活後、全一年部員が見守る中で模擬試合を行い、桜子を圧倒する。
その後、現部長から市の新人戦参加が告げられる。もう一つ、練習を効率化するためパートナー制を導入すること、そして各ペアが発表された。
千晶と晴也は険悪な関係のままペアを組むことに……。
詳しくはこちら……【漫画大賞漫画原作部門 ダブルス!】
第4話『女子部の中に男子が一人』
《 ペアでラリーを100回続ける 》
という課題が各ペアに明示されてから一週間、他のペアが次々と達成していく中、千晶&晴也ペアは未だ30回も続かない。二人の関係はぎこちなく、気まずいまま。
そんな中、女子部に入ったことで晴也は連日、クラスの男子グループにからかわれていた。
「男子で女子部に入るってどういう神経してるの? 普通にヤバいだろ」
「バド部の顧問はよく許可したよな」
「百園が言ってたよ。コイツ部活中、ずっとエロい目で女子のこと見てんだって」
「キッショ。変態野郎だな」
「ムッツリスケベ」
百園桜子が、晴也の悪い噂を流すようになったことで状況は一層悪化していた。その桜子が美人でモテることもあり、一定数男子ファンがいることも晴也には不利な要因となっていた。
休み時間中、机にうつ伏せたまま両耳を塞いで時間が過ぎるのを待つ晴也。
「コイツ、ずっと寝てんだけど」
「どうせイヤラシイ妄想でもしてんだろ」
晴也はただ黙って机に顔を埋めたまま。
「バド部の女子のこと考えてるんだぜ」
「うわー、やべーコイツ」
「変態!変態!変態!変態!」
晴也をひやかす声は廊下まで響く。
その会話を聞いた千晶は思わず教室に入る。
「変な話をするのはやめてください!葵さんは真面目に練習しない人ですが、女子を変な目で見ているなんてしてません。みんなで悪口言うなんて卑怯です。もう、やめてください!」
千晶に対して怪訝な目を向ける男子達。
「誰コイツ? どこのクラス?」
晴也は慌てて上体を起こす。
「関係ないだろ!余計なことをするな!」
怒鳴る晴也に兄の姿が重なる千晶。
「関係なくても、ありもしないことを言われているのを黙って聞いていられません!どうして何も言い返さないんですか!?」
「いい加減にしろよ!」
晴也は居た堪れず席を立って教室を離れた。
男子グループはそれを見て大笑い。
部活時間。
大宮寺&若宮ペアがラリー100回を達成し、未達成ペアはいよいよ千晶と晴也だけとなった。
晴也は隅で一人、シャトルリフティングをしている。千晶は晴也に近づくが、晴也は振り向くこともできない。隙間を埋める言葉を探すようにお互い無言になる。
そんな時、桜子の噂を聞いたバスケ部の一年生男子部員達が、茶化しにやってくる。
「あ、すみませーん、変態晴也くんはこちらですかー?」
桜子が晴也を指差すと、男子バスケ部の一年生たちは、ギャハハハハと笑って冷かす。
「どうして、何も言い返さないんですか?」
晴也は逃げ出すように体育館を出ていく。
晴也のあとを追う千晶。
ヘル道にて。晴也に駆け寄る千晶。
「私のこと嫌いなの分かりますけど、逃げないでください!」
晴也は口を歪め、真っ直ぐ千晶を見つめる。
「……巻き添え食うから……おれの近くにいると、緋波まで悪い噂流されるから……」
「私のため? 意味が分かりません」
「意味が分からないのはこっちだよ!なんで関係ないのに突然教室に入ってくんだよ、あんたまで変人扱いされるぞ。おれのこと嫌いなんだろ?」
「あなたは嫌いです。でも、集団で一人をからかうようないじめはもっと嫌いです!」
千晶は自分の兄が同じように高校でいじめを受けていたことを話す。そして、今は部活も辞め、荒んだ生活を送っていることも。
晴也も応えるように、小学生の頃、自分が同じようにいじめを受けていたことを告白する。
「……言い返さないのは、あいつらがそれを期待しているからだ。おれが怒ったり、何か反応したりするのが見たくて、ああやってるんだ。分かるんだよ、そういうの。何年もいじめられんの経験してるから……言葉にできる限りの悪口は全部言われたな。無視されるなんて、もうイジメとも思わない。何もしてこないなんて有難いくらいだ」
「葵くん……」
「避けたの、緋波のことが嫌いだからじゃない……むしろおれは、緋波が……」
晴也の顔が赤くなる。思わず、好きだ、って言いたくなる衝動と必死に戦っている。自分の中の、溢れ出そうになる気持ちを、必死で食い止めている。本当は味方してくれたのが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
「戻ってラリー100回、終わらせるか」
「はい」
二人は体育館に戻り、コート脇でラリーを開始する。
2回、7回、16回、29回……やはり続かない。どうしても千晶が打ちこぼす。
「どうしたら、上手く打てますか?」
と、尋ねる千晶。
晴也は少しの間、千晶を見つめて深呼吸する。
「上手く打たなくていいよ。100回も数えなくていいから。シャトルだけを見て、頭を空っぽにして。それから、楽しんで打つ。思いっきり楽しんで打つんだ。回数はこっちで数えるから」
「楽しむ」という言葉にハッとする千晶。
(そうだ、毎日のことですっかり忘れてた、バドミントンが楽しいという気持ち)
「わかりました、やってみます!」
「よし、遠慮なく思いっきり打ち返して!」
晴也のサーブ。千晶の頭上に飛んでいく。
千晶は深呼吸して、目の前のシャトルに集中する。数えるのを止め、気持ちを切り替えると、ひとつ、ふたつと打つごとに、楽しくなってくる。
フロー状態の千晶は、シャトルと遊ぶように、心を無にしてひたすら打つのを楽しんだ。
18時46分部活終了時間間際。二人は奇跡的にラリー100回達成に成功した。
「葵さん、やりましたね!」
千晶の可愛い笑顔に再び顔を赤らめる晴也。
「名前でいいよ。晴也って呼んでよ」
「いやです」
第5話に続く
第5話『目指せ!新人大会出場』
新人戦出場をかけた総当たり戦が始まる。
先ずはシングルス。3コート同時に行われる。
いきなり晴也と千晶の試合。
「頑張れよ、緋波!」
「はい!」
晴也は試合中、千晶に何度もアドバイスし、ヒントを与えながら打ち合った。そして晴也のアドバイスを受けての千晶の得点。1-0。
「葵くん、これは試合だから本気でやって。こちらもちゃんと実力を確かめたいから」
志島部長からキツく注意を受けても晴也は千晶とラリーを楽しむように打ち合った。
結果は12-8で晴也の勝ち。この結果に桜子は舌打ちをする。
そして次の試合は、千晶と桜子。
桜子は憎しみをぶつけるように強力なドライブを千晶の顔めがけて打ち込む。
バックハンドへのスイッチが間に合わない。シャトルが千晶の左頬を打った。
「早く次、まだ?」
桜子は冷淡にシャトルを催促すると、今度は晴也にやられたスパイクサーブのように相手バックハンドのライン際を狙ったサーブ、そして千晶がなんとか打ち返した羽を、再び千晶の顔面めがけてスマッシュを打ち込んだ。
「痛っ」
悪意あるスマッシュが、千晶の額に当たる。
「大丈夫? 千晶ちゃん?」
二年、古川鮎奈が心配して声をかける。
「はい、大丈夫です」
「すいません、わざとじゃありません」
3年、志島渚部長が忠告するも、桜子は千晶を激しく痛め続けた。
それでも千晶は懸命にシャトルを追いかけたが、結果は12-7と敗北。
「バドミントンって楽しいね」
と、桜子は傷だらけの千晶に囁きかける。
晴也は千晶を意識し過ぎてミスする場面もありながら、若宮光や堤清佳(ツツミ サヤカ)と対戦して勝利を収めていた。
そして、次は晴也と桜子の因縁の対決。
コートで向かい合う百園と晴也。
「百園。緋波にした仕打ち、許さないからな」
「あんたさあ本当キモいよ。自覚ないの? マジで生きてるだけでセクハラレベルだから」
試合が開始され、今度は桜子からのサーブ。
晴也はいきなりドラゴンドライブで先制点を取る。サービスオーバー。晴也のスパイクサーブ。しかし、桜子は前回一つも取れなかったスパイクサーブを今度は横ステップで打ち返した。当然、晴也は空いている右側に打ち込む。ただそれも桜子は横ステップで追いつき、クリアで返した。晴也はそれを空いている前方左ネット手前に、ドロップで戻す。桜子は横ステップで前に戻り、晴也の意表をついたヘアピンが決まる。
得点1-1。一年生からどよめきが起こる。
「ナイス!桜ちゃん!もう一本!」
桜子のペア、堤清佳(ツツミ サヤカ)は手を叩いて喜ぶ。このペアは晴也対策をしてきた。この前とはまるで違う。なにより強化された桜子の横ステップとヘアピンは、晴也に効果的だった。
しかし、晴也が失点を5点に抑えてマッチポイントを獲得した途端、桜子はラケットを投げ捨て、試合を棄権してしまった。
「あー、つまんなー」
捨て台詞を吐いて、桜子は帰っていく。
この試合を興味深く見ていた美空が、志島に
「面白い子がいるわね」
と、声をかける。
「面白い子? 葵くん? 百園さん?」
「堤清佳さん。百園さんに葵くん対策を講じたの、彼女でしょ? 頭の良い子ね」
志島部長は同意して、今年の一年がそれぞれ違う強みを持っていることを指摘する。
晴也のトリッキーな技の数々。
千晶の粘り強さ。
堤の分析力と作戦立案。
桜子のフットワークの器用さ。
若宮の運動能力の高さ。
大宮寺の体力とパワープレイ。
須刀の反射神経。
今野のマイペースな動き。
そして最も先輩たちから期待されている二人、河原と伊藤の基礎力。
千晶は大宮寺真琴(ダイグウジ マコト)と対戦する。パワーなら一番と言われる大宮寺は、直線的な力勝負で実力を発揮する。千晶は大宮寺の強力な打球を押し返せないで苦戦する。
千晶は追い詰められ、12-2で敗れる。直後、千晶は激しい運動により酸欠で倒れ、顧問の森尾先生によって保健室に運ばれていく。
晴也は河原と対戦中。しかし、千晶が気になって集中できない。
保健室。落ち着いた千晶は、はじめて森尾先生に弱音を吐いた。
大宮寺のスタミナについていけなかったこと、自分の身体の弱さ、運動能力の低さを嘆く。
目に涙を浮かべる千晶に、森尾先生は優しく、
「人それぞれ身体つきも能力も違うから、誰にでも向き不向きはあって当然。できないことより、自分の強みを見つけていこうね」
と、諭す。
千晶は絶望感に見舞われる。
一方、桜子にこそ返されたものの、まだまだ決定打と思われていた晴也のスパイクサーブだが、小学校からバドミントンクラブで活躍していた河原翔子には、まるで通じない。
これまでバドミントンを楽しむことに重点を置いてきた晴也とは正反対に、河原はプレイヤーとしての上達、技術の向上を目指し、自分に厳しく練習に取り組んできた。その差が明確な形となって表れた。
基礎力、努力の差に苦戦する晴也。さらに千晶の事が気になり、上手く力を発揮できない。
河原の目は鋭い、突き刺さるほど真っ直ぐだ。
(まずい、気迫に押されている……なら、押し返すまでだ!行くぞ!)
晴也は目線と身体を(晴也から見て)左奥に向け、スマッシュの構えで飛び跳ねる。
河原は瞬時に反応し、(河原から見て)後方右側に跳ぶ。
瞬間、晴也はスマッシュと見せかけ、グリップを転がした。※ドラゴンドライブと同じ持ち方
(しまった!)
それがフェイントだと河原が気づいた直後、晴也は力一杯シャトルを相手コートに叩き込んだ。
「ここだ!ビームショット!」
ラケットを捻らず真っ直ぐ叩く。シャトルはビームのように直線的に空を切る。基本形にはない打ち方だが、威力はある。
シャトルは河原から見て左手前端の地面を直撃した。
得点12-9、葵晴也の勝利。
河原はパートナーの伊藤にもたれかかり、悔恨の表情を浮かべる。河原の悔しさを受け取るように伊藤舞が河原の肩を叩く。
「翔子、次は私の番。仇は取るから」
伊藤に睨まれながら、晴也は次戦のコートに移動する。晴也と伊藤の試合が始まる。
第6話に続く
第6話『努力vs才能』
伊藤舞と葵晴也の試合。
伊藤は構えも動きも教えられた通り、教科書のような正確な動き方をする。
一方、晴也は小学生の時、当時高校生の暁龍郎から教わったテクニック以外は自己流我流だ。それも、教わったといえど学ぶという形ではなく、遊びの中でアドバイスを受けただけ。練習したわけでもない。楽しんで続けてきただけだ。
伊藤も河原と同等の基礎力を以て晴也を追い詰める。戦術も基本中の基本、相手を左右前後に動かし、虚をつく攻撃で得点を狙う。
基礎体力のない晴也はこの時点でもう6試合目。本日最後の試合とはいえ、完全に息が上がっている。スパイクサーブも通じない。そこにきて伊藤舞の華麗な羽さばき。
応戦するのもやっとな晴也は、河原戦で見せたフェイントとビームショットでなんとか点差を詰める。しかし、伊藤舞にも隠し技がある。
「葵晴也の弱点が見えたわね」
エースの美空は、冷静な分析を同学年の志島渚に伝える。それは渚も十分に理解していた。
「あれはダメだね。葵のスパイクサーブはあくまで初心者キラーのサーブであって経験者には通じないし、ドラゴンドライブも見慣れないうちは強いけど、慣れれば攻略は難しくない。フェイントもまだまだ甘い。なにより最大の問題は基礎体力と運動能力。初心者ばかりの新人戦ならいいところまでいくかもしれないけど、実力勝負になった途端、使い物にならなくなる。やはり基礎体力と基礎技術は練習でしか磨けない。それができないなら……」
「中総体なら、女子部でも通用しないわ」
息が上がりきった晴也がなんとか打ち上げたシャトル、その真下に走り込む伊藤。そしてラケットを水平に構え、斜めに切り込む。これが伊藤舞の隠し技だ。
「決める!ウインドカッター!」
斜め横に大きく空を切り進むシャトルは、距離感を錯覚させ、タイミングを狂わせる。
空振りした晴也は、鋭い剣で斬られたような感覚を覚えた。
12-11。この日、伊藤の勝利で幕を閉じた。
帰り道、ぼろぼろの千晶の前に、晴也がふと現れる。千晶は驚くが、すぐに平静に戻る。
晴也は「大丈夫?」とか「心配してた」という言葉をかけるつもりで来たが、千晶の暗い夜の底のような表情を見て、何も言えなくなる。
「……森尾先生から、言われちゃった。わたし、バドミントン向いてない、って……」
「……」
「わたしには、バドミントンは無理だって……人にはそれぞれ向き不…」
「おれも負けた!」
千晶の話を遮って晴也が口を挟む。
「伊藤にバッサリやられちまった」
「……葵くん?」
「……でも、何よりおれ……自分に負けた気がする。努力すればいいって分かってるのに……しようと思ってもできなくて……どうしてかな、頭ではしなきゃ、って分かってんのに、身体が全力で拒否してくんだ。できないんだよ、緋波みたいな努力が、おれにはできない。だから、百園から注意された時も、図星すぎて、カッコつけることしかできなかった。カッコ悪すぎだよな」
晴也は一歩分、千晶に近づく。
「緋波には努力ができる、才能あるよ。おれなんかよりずっとバドミントンの才能あるよ。努力できるって伸び代あるってことじゃん。努力できないおれには工夫しかなかった」
「葵さんは、強いです。上手です」
「違うんだ、偽りの強さなんだ。そう見せてるだけだよ」
「葵さん、だけど…」
「だけど、おれ、千晶を勝たせたい!新人戦で闘う千晶が見たい!」
「え?」
「次はダブルスの総当たり戦だろ。おれ、絶対千晶を勝たせるから。だから、だからおれ……努力……しないと、な。明日からも、頑張ろうぜ、千晶!じゃあな!」
晴也はそのまま走って帰る。心臓が爆発しそうで怖かったからだ。
千晶は戸惑いながら、晴也を見送った。
第7話に続く