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虹色銀河伝説 地の章⑨

46 秘密基地

 ゼッペル•バルスキー医師とサザ•クールキン医師はベッドに拘束された僕を定期的に見にやってきては、僕の知らない言語で短い会話をした。
 ゼッペルは白衣を着ているがゲームのVRゴーグルのようなものをつけている。サザは左腕が義手のようになっており、指は5本ではなく10本の太いアームで構成されていて、クレーンのように開閉時にカチャカチャと音が鳴る。
 僕の動かない身体に幾つもの管が繋がれ全身は電極だらけだ。さまざまなデータを取らながら、得体の知れない注射を何本も打たれた。こんなことの繰り返しが数日間続いた。今日の日付も外の情報もまったく分からない。そして何度見返しても僕の右腕と両足は元には戻らなかった。

 初めはここを病院だと勘違いしていた。だが、数日経つうちにそうでないことが明らかになっていった。
 メビラス•バルトンという若い男性が訪ねてきた。背が高く細長い顔に顕微鏡の対物レンズのような前に飛びしたタイプの眼鏡をかけた身なりの整った人だ。鼻筋がピンと美しく、表情からは冷たさや賢さ、厳しさを感じる。その横には通訳のゾフ•リーというまだ10代のアジア人少年のような見た目の男が立っている。

「気分はどう?」
 ゾフが軽快な声で僕に尋ねた。

「……日本語?」

「まあ、通訳だからね。それより身体はどう? 痛むかい?」

「……」

「手足が無くて不便かい? だけどゼッペル先生とサザ先生の治療で痛みはないはずだよ。君たちの病院にここまでできる医師はいないよ」

「……手足があったって僕には何もできない……ないのと同じだ」

「何か、しようとしてたことがあったってこと?」
 ゾフは何か言うたびにメビラスにアイコンタクトを取った。

「そんなことより……ここ、どこなんですか?」

 僕が尋ねるとゾフはそれを話していいのかメビラスに確認した。そして許可が降りたのか、笑顔で僕に振り返った。

「スペースユニオンの秘密基地だよ。場所までは教えられない。秘密基地だからね」

 ゾフは無邪気さを装っているのか本当に無邪気なのか、楽しそうに話す。

「スペースユニオン、ってなんですか?」

「スペースユニオンってのはね、違う星に住む人間同士が手を取り合って宇宙の平和を守っていこうという条約に同意した星の集まりだよ」

「素晴らしいですね。どうして僕はそんなところの基地にいるんですか?」

「君を調査するためだよ」

「調査?」

「君、どうやって怪獣の手を逃れたの? 怪獣が君を殺さずに助けたなんて不思議だよね?」

「知りません。僕は助かったんですか? ここは死後の世界じゃないんですね」

「覚えてないのかい?」

「怪獣に掴まれてとても痛かったのは感覚的に覚えています。もう死ぬんだと思いました」

 ゾフは再びメビラスとアイコンタクトを取った。今度は少し長めのコンタクトだった。

「本当に知らないの? あの怪獣は君が呼び寄せたんじゃないの?」

「怪獣を? ……いや、そうなのかもしれません。よく分からないんです」

「そうかもしれない、というのは?」

「うまく言えません。なんとなく、運命的な意味です」

「運命的? 君は怪獣と何か因果関係があるのかね?」

「あるような、ないような。でも僕は……いいえ、うまく言えません」

 ゾフはしばらくメビラスと知らない言語で会話すると、メラビスは一度部屋を出て行った。
 二人きりの方が本音を話すと思ったのだろうか。悪いけど僕は本当に何も知らない。

「焦らなくていいから、一つずつ教えてくれないかい?」

「あの、僕の、名前とか、聞かないんですか?」

 彼らは一方的に名前を伝えてくるけど、誰も僕に名前を訊いてはこなかった。僕の名前に興味がないということは、僕の気持ちなんかにも興味はないということだ、そう直感的に思った。

「君の名前? 分かった一応教えてよ」

「やっぱりいいです」
 一応くらいなら教えたくない。

「ところで、怪獣を作ったのは君なの?」
 ゾフは真顔で僕を問い詰めた。

「……僕に作れると思います? そもそも怪獣って作れるものなんですか?」

「作れるよ。君が見てきた怪獣はすべて作られたものなんだよ」

「誰があんなもの!? なんのために作ったんですか!?」

 ゾフは少し驚いた顔をして僕を見た。この人は本気で僕が怪獣を作ったと思ってるみたいだ。

「そうか。君は本当に知らないのかい?」

「だから何度もそう言ってるじゃないですか!
あんなのを作ってるやつがいるとしたらそいつは悪魔だ!」

「知らない方がいいこともある。それでも君は知りたいと思うかい?」
 ゾフはしばらく考えてから僕に尋ねた。当然、僕は知ることを選んだ。

47 真実

 ゾフはポケットから小型の立体プロジェクターを取り出して、どこかの宇宙を表示してみせた。
「君たちの標準時間軸で説明すると1979年1月、南極でスペースユニオンは君たちと接触した。そしてその接触は事前から準備されたものだった。正確に言えば1969年7月20日から約10年の歳月をかけ、接触の場所、時間、条件など何度も打ち合わせし、用意されたものだった。地球に正式な実権者がいなかったことを考えれば10年という短期間で実現したことは本当にすごいと思うよ」

 プロジェクターは南極や月面を映し出した。

「何度も打ち合わせできるほど、簡単にコミニュケーション取れるものなんですか?」

「スペースユニオンが地球を発見したのはもっと前で、ファーストコンタクトは実に7000年も昔のことなんだよ。そこからユニオンは地球を監視し続けてきた。そしてユニオンが地球とコンタクトすることを決定したのは、君たちの戦争に核が使われるようになってからだね。ユニオンの使節団が太陽系に到達するには約20年かかる。使節団は月軌道上に到達してから10年の間君たちの準備が終わるのを待った」

 漫画の読み過ぎでおかしな夢を見ているのか、怪我で脳が壊れたのか。はっきり言ってゾフの話が正気とは思えない。

「そしてスペースユニオンはアメリカ合衆国大統領を含めた地球の実権者たちと会合を行った。そこで述べ196つもの議題について話し合われ、実に708つの条約が結ばれた。我々はこれを《アポロ条約》と呼んでいるよ」

 ゾフは立体プロジェクターを切って一呼吸置いた後、目線の高さを僕に合わせた。

「君はどうして怪獣が日本にばかりに現れるのか疑問に思わなかったかい? それも決まって東京に現れるのか? そして横須賀基地や横田空域、米軍のヘリポートがある六本木には近寄らない。そして最近、そのルールが破られていることに疑問を感じなかったかい?」

 え?

「それもアポロ条約で決まったことなんだよ。
ユニオンは君たちの地球を保護する代わりに兵器開発と実験の場を地球に提供することを求めた。兵器開発は局地で行うにしても兵器の実験には正確な被害規模を計測する都合上、ある程度発展している都市が望ましかった。その実験場に日本、東京が選ばれたのは地球側の意思だよ」

「酷すぎる!そんなの日本政府が許すはずがない」

「いいや、快諾してくれたよ。日本政府の官僚たちには見返りとして多額の献金とユニオンの技術提供が行われる約束となっているからね。日本の切り札ともいうべきロボット兵器《ガンボット》はそれこそ莫大な資金と高度な技術力があってこその産物。そして日本政府の官僚たちは例外なく海外に逃れていった。今も海の向こうから高みの見物ってところだろうね。まあ一番割りを食ってるのは、何も知らない日本の庶民たち……君たちだね。気の毒だけど」

 ゾフは怒りに震える僕を哀れむような目をして優しく微笑んだあと、
「ほらね、知らない方が幸せな事ってあるだろ」
 と、因果応報と言わんばかりに僕から目線を逸らした。

「……ただ、最近その条約が破られてしまった。先ず東京以外の地方に怪獣が現れるようになった。怪獣の進行上、都外に出てしまうのは仕方ないことだとして出現地点が東京の範囲を越えている。これは立派な条約違反だ。そしてさらに人型の怪獣まで出てしまった。毒性のあるキノコ怪獣も重大な違反だが人型はもっとまずい。そのせいで日本は壊滅寸前だよ。つまりユニオンにとって貴重な実験場が破壊されてしまったということ。ユニオンは一連のイレギュラーを意図的に引き起こされたものと見て捜査している。まあ、日本政府の官僚たちもいよいよ本腰を入れて怪獣退治に乗り出すだろうね。あの方達も今回の件には相当キレてたからね」

 僕の脳裏にさまざまな景色が浮かび上がってくる。鉄河アテル君、鉄河家の鉄塔、ヒリコたち、松野シュラ、日々木ワタル、水城ミホ、お父さんお母さん、燃える家、近所の暴徒たち、落書きだらけになっていた僕の家、じいちゃんばあちゃんとその家、笠良木団地、桜台中学校、暑苦しい避難所の中、ワタルと見た月、これまで寄せられた誹謗中傷の数々、目の前に現れた怪獣ザリザ、そして《にせタイタンマン》、テレビで活躍する本物のタイタンマン……僕たちの日常は、どこの誰とも分からない人たちの勝手な決定によって虐げられてきたんだ……僕たちは、そんな決定をした人たちのために犠牲になったっていうのか……。
 権力者は安全な場所から危険な決定を下して、犠牲になるのはその権力者たちから支配されている庶民たちなんだ。
 怪獣のイレギュラーは、そんな権力者たちに対して誰かが起こした反乱なのかもしれない。
 誰かの支配と革命と気まぐれによって滅茶苦茶にされた僕の人生なら……いっそのこと……。

「僕に協力させてくれませんか?ユニオンの役に立たせてください。こんな目に遭わされて黙ってられません。僕を使ってください」

 僕はあまりに冷静な口調で提案した。
 まるで劇場で役を演じているようだ。感情なんてもう消え失せてしまったかのように。

「手足がない君が、怪獣と戦えるの?」

「義手、義足をつけてください。知ってますよ、サザ博士の身体の半分が機械でできていること。あれを僕にもしてください。来年は高校生になる歳です、必ず役に立てますから」

 ゾフ•リーも僕には利用する価値があると思ったのか、すぐにメビラス•バルトンに確認した。
そして答えは意外にも、二つ返事でOKだった。

48 新しい名前、新しい居場所

 サイボーグになった気分はどう?
 と、何度も訊かれたが、はっきり言ってそんなことどうでもよかった。
 締めつけられた金属が肉体に食い込むような痛みや慣れない神経系の接続時に感じた痛みより、壊滅寸前の日本の映像を見た時の、胸を締めつけられるような痛みの方が苦しかった。
 これが本当に日本の姿なのか? 見慣れた景色とは一変どこもかしこも焼け野原。怪獣は増え続け最大12匹の怪獣が同時に現れたのだという。
 SDFの総攻撃によりその内4匹の撃破に成功したが、ガンボットの甚大な損壊によりSDFの攻撃は中断されている。頼みの綱であるガンボットは本国を一時撤退したとのこと。さらに修理の目処も立っていない。
 そして残りの怪獣、つまりあと8匹の怪獣が今も日本国内に健在している。今後も怪獣が増えないという保証はない。
 今、日本はまさに怪獣王国だ。

「サイボーグになった気分はどう?」
 これで何度目だ? また同じ質問をされた。
 僕の身体は《メイルガレン》という名前の金属で作られた両義足と右義腕義手がつけられたハーフサイボーグとなった。
 慣れるのに時間がかかる。うまく身体が動かないこともある。または勝手に反応して動き出すこともあった。その度に僕は調整を受けた。
 そして、ほぼ毎日調整を受ける度に、少しずつ新しい機能も追加されていった。

「パワーアップした気分はどう?」

 ああ、いいよ。と、今度は機嫌良く答えた。
 これまでの身体と同じように脳神経と接続されていて、物がぶつかれば痛みや温度も感じる。ただ変わったのは力だ。義足は歩くのもやっとだったのが素早く走ることができるようになったし、右手の握力は石ころだって砕けるほどの強さ。そして何より最大のポイントは右手に電磁気力/プラズマ発生器とプラズマシューターが内蔵されていること。
 プラズマシューターは電磁気力で高温プラズマを収束して放出する出す武器だ。今の僕の右腕には高温プラズマ発生器と電磁力発生器の両方が備えられている。副次的な効果として軽い磁性体なら磁力で引き寄せたり弾き飛ばしたり、空中に浮遊させることができる。超能力みたいだ。願ってもないパワーアップ。これで中学や小学校に通えていたらヒーローになっていたと思う。
 ただし、嬉しくないこともある。

「その武器はスペースユニオンが味方と認識するものに対しては発動されない。それからもし君が我々を裏切るようなことがあれば……でなくとも我々に不利な状況を齎すと判断した場合は、君に内蔵されたバイオトラップが発動して君の生命維持活動を停止するようになっている。簡単に言えば君の行動が我々の都合に反するようなら死んでもらうということだ。でもまあ秘密基地を知ってしまった時点で生きてここから出られないと分かっていたわけだし、君が我々の仲間に志願したことは賢明な判断だったと思うよ」

 つまり僕が協力を言い出さなければ、生きてここから出られなかったというわけだ。どこまでも人を馬鹿にした連中だ。知れば知るほど怒りが込み上げてくる。しかし復讐のためにはここで下手を打つわけにはいかない。今は大人しくスペースユニオンの兵士として良い子を演じよう。

 ゾフはスペースユニオンの兵士となった僕に、僕が入隊する部隊や組織のことについて説明してくれた。

「スペースユニオンには我々のような遊撃隊が幾つもあって、遠方の惑星に使節団を送る時には必ず護衛の任を授かり、その惑星の規模や軍事力、技術レベルから推定された規模で編成される。我々地球戦隊の規模は小さいけど、地球の戦術レベルには十分対応可能な部隊だと言えるよ。
改めて紹介すると、我々の正式名称は星間遊撃隊第十班地球戦隊と翻訳される。
我々の言葉では戦隊を《アーク》、
地球を《ザイン》と発音することから、
我々の部隊は《アーク・ザイン》と発音する。

 ちなみに我々の使う言語は《ミーユ》と発音する。《ミーユ》の直訳は難しいけど、あえて訳せば《境界無き言語》って意味になるよ。君には伝わらないから矛盾した名称になるけどね。これは本当に翻訳が難しいんだ。特に君たちの日本語は数多い地球の言語の中でも独特だから、変な形に変換されることもあると思う。通じないこともね。眩暈がするよ。ボクの責任は重大なんだ」

 この時ゾフがはじめて一人称に「ボク」を使った。これまで「我々」と話していたゾフの新しい一面を見た気になった。

「地球は辺境の星だから応援を呼んでも到着には最速15年はかかる。よって今回の怪獣退治は我々地球戦隊の単独任務となる。
 次にここ秘密基地について説明するね」

 立体プロジェクターに映し出された秘密基地は、円錐の先端を前に進むコーンのような形状をしていた。基地というより要塞、もしくは一種の武器そのものに見える。

「この基地の名前はグレンライガー。グレンを直訳すると《ドリル》。まあそのままだね。地中にはこの円錐状の外殻を回転させて潜るんだから。ドリルは我々の秘密基地であると同時に攻撃と防御の基点となる移動要塞でもある。地中海中海上地上空中宇宙どこへでも移動が可能で、ある程度の攻撃設備も整っている。その気になればこの要塞ごと突貫する荒技だって切り札として有効さ」

 今度ゾフは《ドリル》の中の案内をしてくれた。
 今まで僕の部屋だと思っていたメディカルルーム。それから作戦会議を行うブリーフィングルーム、休眠用ベッドルーム、個人用ロッカーから共同のシャワールーム、食堂やジム(運動場)、酸素ルームを巡った。そこで理解したのはスペースユニオンの隊員たちは、宇宙人といえども身体のつくりは地球人とあまり変わらないということだ。
 部屋は横並びというよりは上下に繋がっているところが多く、移動には天井や床を通過するロープリフトによって行き来する仕組みとなっていた。こんな世界が現実にあるなんて、平和なときなら、これを見てどれだけはしゃいだことか。
 ここで見たこと聞いたことを、お父さんやお母さん、僕を知っている誰かに無性に伝えたくなった。みんなが懐かしく感じる。帰りたい。
 僕の居場所に帰りたい。
 自然と涙が溢れ出てきた。

 最後にゾフは、僕を部隊員らが集っている通信室まで連れて行ってくれた。
 カメラのシャッターを思わせる自動ドアが開くと、そこにはギョッとする光景があった。
 中でバッタやイナゴのような姿の奇妙な連中が六角形の台(立体プロジェクター)を囲んでいたのだ。通常の大人より一回り大きい背格好で頭に2本の触覚のようなものが伸びている。彼らの異様な見た目は悪寒がするほど率直に言えば気持ち悪かった。全員宇宙人なのだろうか?

「怖がる必要はないよ。彼ら10人は君の所属するヴェルデ隊の隊員たちだ。さっきも説明した通り
我々は全部で60人に満たない少数精鋭部隊。兵数でなくテクノロジーで戦うのが主流だから、この人数は決して少ない訳ではないよ」

 奇妙なイナゴ達が一斉にこちらを向いたから、たまらず背中がゾクっとした。

「ヴェルデ隊は今、月軌道上にある使節団《ゼルドアン》や南極の兵器開発部隊《モンドラ》と通信して次の任務を話し合っていたところなんだ」

 ゾフは彼らに向け、彼らの言葉で僕を紹介すると、その中で最も背が高く、肩幅の広いイナゴ人間が僕のところまで歩いてきた。
 僕とイナゴ人間の目が合った。緊張感やばい。
イナゴ人間は突然自分の頭を両手で外した。僕はワッと声が出そうになるのをグッと堪えた。するとイナゴ人間の中から普通の人間の顔が現れた。
 イナゴのような奇妙な顔はマスクだったようだ。見た目はヨーロッパ人のようなはっきりとした顔立ち、面長の輪郭、けれど肌や目、髪の色はアジア人のようだった。
 彼は何か僕に話しかけてきた。中身が人間だとわかって少し安心したとはいえ言語(ミーユ)は未知の言葉、全く分からない。
 すかさずゾフが通訳してくれた。

「彼はゼダン。ヴェルデ小隊の副隊長だ。この部隊の中では最も経歴が長い。困ったことがあればなんでも聞いてくれ、と言ってくれている」
 僕は、ありがとうございます、と答え、ゾフはそれを翻訳してくれた。

「君の入隊を歓迎するよ」
 と、ゾフがゼダンの言葉を翻訳する間、ゼダンは僕に軽量のアッシュケースを差し出してきた。受け取ったはいいものの、開け方が分からない。困っているとゼダンはケースのボタンを押すようにとジェスチャーで教えてくれた。
 あった!これだ!
 取手近くのボタンを強めに押すとカシュウゥッと静かに音を立ててケースの口が自動的に開いていく。途中、中を覗いてみると、僕は思わずアッと声を上げてしまった。
 中身はあのゾッとするほど奇妙なイナゴスーツとイナゴマスクだったのだ。

「戦闘服の支給だよ。その服とマスクがあれば、さまざまな惑星の大気や宇宙の放射線、毒性物質、感染症に耐えることができる。他には仲間との交信やレーダー探知、熱源反応の感知など一人でこなすことができる」

 僕が与えられたスーツとマスクの機能性に感動していると、ゾフは立て続けに、

「君に支給されたのはそれだけじゃない。スペースユニオン所属の証である《名前》も与えられる。実はもう既に君の名前は決定している」

 と、衝撃の一言を放った。
(……ん? 名前が勝手に決められている??) 

「君に与えられた名は、
Xb1ジャクト ・ノーム、だ」


(……は?)

「今から君はxb1ジャクト・ノームだ。」

(……本名、木田真一じゃダメなんだろうか?)

 突然名前を決められ戸惑う僕に向け、隊員一同は一斉に拳を突き出すようなポーズを取った。

「おめでとう。Xb1ジャクト・ノーム 。これで君も立派なアーク・ザイン/ヴェルデ隊の一員だ」

 ゾフに聞けば、拳を向けるポーズは敬礼や歓迎の合図らしい。ヘンテコな名前には同意できないが、一応僕も同じポーズで返した。
 そしてその後、こっそりゾフに名前を変更できないか訊ねたが「できない」と即答された。
(※名前には役職役割階級等の意味が込められているらしい💦)
 ええっと、僕の新しい名前は……xb1の、
 じゃくと、のうむ……??
 ………………ダサい。

49 怪獣王国

「メビラス•バルトン隊長率いるアーク・ザインは5つの小隊から成り立つ。我々ヴェルデ隊はその一つだ。他にエリュトロン隊、アズール隊、ゲール隊、ロザート隊があって、個々の任務に就いている。我々は主に味方勢力との通信や各勢力との交渉、課題分析、作戦立案を行なう部隊だが直接戦闘に加わることもある。
 そしてこれが現在の怪獣分布図」

 ゾフの通訳の通り立体プロジェクターで映し出された日本地図上8箇所に怪獣の立像が映し出された。その中には桜台中学校を襲ったあの憎き《にせタイタンマン》もいた。

「ちなみにこれまで君が認識しやすいように怪獣と呼んできたが、今後作戦に加わるにあたり正しい名称を覚えてほしい。
 怪獣の正式名称は《変質異常生物兵器》
 ミーユでは《イ:レギオン》と発音する」

 ホログラム立体地図上に表示された8大怪獣(じゃなく8大変質異常生物兵器)に注目すると、

北海道エリアには氷雪を撒き散らす扇風機型、
東北エリアには僕たちを襲った溶岩の巨人型、
関東エリアには騒音を撒き散らす楽器型、
中部エリアには唐辛子とトカゲの混合型、
近畿エリアには雷電を動力にする孔雀型、
中国エリアには砂丘を動き回る人喰いワーム型、
四国エリアには生態系をも変える毒性植物型、
九州エリアには火炎弾を降らせる怪鳥型
 と、8つの各エリアにそれぞれ条約違反のレギオン(生物兵器)、《イ:レギオン》が出没している。

「これはどう見ても意図的にイ:レギオンが配置されているとしか思えない、とメビラス隊長が言っていたが、ボクもそう思うよ。そしてこの8つのエリアのどこかにイ:レギオンを生み出した張本人がいるはずだ。そいつは、我々の中の裏切り者か、地球側の反逆者か、それとも新手の侵略者か……どちらにしろ今もこの中に燃える街を見て喜んでいるやつがいるはずだ……」

 僕はそんなやつを倒すためにスペースユニオンの兵士ジャクト・ノームになった。
 僕から手足を奪い、中学校生活を破壊したあの《にせタイタンマン》に復讐するために……いや、それだけじゃない。八大怪獣と怪獣を生み出したイレギュラーを倒したあとは、僕たちの世界を滅茶苦茶にした根源、真の黒幕、スペースユニオンと地球の傲慢な権力者たちに復讐する。
 僕やアテル君、ワタル、ミホ、シュラ……みんなの人生を弄んだ奴らを決して許さない。

⑩《地の章最終回》へ続く

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