小集団の特徴と成員の自由
個々人にとっては小集団が生きるベースとなっているため、集団の中で全く他と関係のない行動をとるのは困難だ。その結果、行動だけではなく、思想や考え方にまで集団の力が入り込む。日本型組織において公と私の違いが明確でないのは小集団の帰属意識が関係する。長期にわたって醸成された仲間意識を基盤としているために、途中から出たり入ったりするのがとても難しい。
それと大きく関わるのが「感情」。日本のように異なる資格を持つ者が集まるだけでは、何もしなければ単なる寄り合い所帯である。これが社会集団となっていく上では、エモーショナルな結びつきが重要になる。日本人は個人の優秀さよりも成員の一体感が重視される。
閉ざされた社会では親しい人たちの中でことが運ぶ。そうすると論理よりも感情が優先され、論理ではなく感情に訴える方が説得力を持つ。小集団内の感情に基づく人間関係は、しばしば共通の目的、仕事の達成よりも優先される。リーダーと成員の関係がしっくりいかなくなると、組織が分解する可能性が高まる。
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「ウチ」と「ソト」の意識はタテだけにあるわけではなく、ヨコのシステム、たとえば、インドでもカーストが異なるものに対して「ソト」と感じることはある。ただ、場を形成する小集団が封鎖的で、なおかつエモーショナルな結びつきを重視していると、ウチとソトの意識がはっきりしてくる可能性が高くなる。
ウチとソトの前提として、そもそも日本人の順番認識には次の三つがある。
第一に、同じ場を共有する小集団の人々。彼らは長期にわたって、恒久的な関係を結ぶ。
第二に、この第一の人々を取り囲む人々。大企業であれば、小集団以外の会社内の人々であり、小さな集落であれば隣接の村になる。直接は顔を知らなくても近づける人たち。
第三は、自分と関係のない人々、つまり他人。
日本人は外国人と仲良くなりたがらないと言われてきたが、たとえ外国人であってもタテの関係、つまり第一の(第二も)集団の中に入れば、日本人は安心して付き合う。国籍よりも同じところに所属しているかどうかを重視する。
同じ職場に五年十年と勤続すると、集団帰属の意識もより高まり、職場における社会的資本が蓄積される。そのため待遇が良くても転職したがらない。
日本の組織の中において特徴的なのは、第一に序列意識。課長、課長補佐などの制度的なものがなくても、加入年次が序列設定の指標になる。加入順位が同じであれば、年齢、入社年次が問題になる。
もう一つ特徴的なのは、リーダーの権限が小さい点。社長であっても小集団に属しているため、直接は命令を下に届けられない。集団を自己のプランに応じて動かす自由は制約されており、権力をふるって采配するというのは考えにくいシステム。そのため稟議制のようなシステムが有力である。
リーダーの自由が制約されている理由として考えられるのは、内部が集団ごとに系列化されている点にある。一般にリーダーはいくつかある系列集団の中の優勢集団から出される。
だとすると、大集団のリーダーはメンバー全員に対して等距離に立てない。自分の系列の成員と、他の系列の成員とではリーダーとの関係が異なる。リーダーの属する系列に属さないメンバーは外様意識を抱くようになる。つまり、系列というファクターが大集団全体のリーダーシップを制限することになる。
しかし、大集団は小集団の数珠つなぎという話をすると、日本の組織においては、中堅クラスは序列の中に埋もれているように感じられるかもしれないが、序列を守り、人間関係をうまく保っていけば、能力に応じて羽を伸ばせる。驚くほど自由な活動の場を個人に与えているのがタテ社会の長所でもある。