乗馬教室13 時計読める
モンテクリスエス
休養中のラピュタのお部屋にお見舞いに行った。フレグモーネは簡単に治る病気ではないのだろうか。ゆっくり治してね。
ほかのお馬さんたちにも一通りのご挨拶をして回った。
そして、やっほー!、今日もモンテ。
いつも通り体中おがだらけになってごろんしていたモンテ。
「モンテ、おはよう」
なかなか立ち上がってくれないので、寝転がったままムクチをつけようとしたら、
「こんな態勢でムクチを着けるなんて、おまえには無理やろ」と言いながら、モンテはゆっくり立ち上がってくれた。
ムクチをつけて、洗い場に行き、ブラシをかけて、裏堀をして、馬装だ。
モンテは特大のお馬さんだし、彼の鞍は重いので、乗せるのが大変。なのに私より小柄な女性の先生でもひょいとモンテに鞍を乗せている。
私にだってできるはずだと思ってがんばり続けているのだけれど、なかなかだ。
もっと驚いたのは、腹帯を締めるときだ。私が、もうあかん、と思うくらい必死で締めても、先生は「もう少し締めておきましょうか」と言いながら、涼しい顔でさらに二穴くらい締めるのだ。
その怪力っぷりを称賛すると、先生は笑いながら「これもコツがありましてね」と言う。腕や指先の力だけでなく、体全体を使うんだって。
かわいい先生たちの内に秘めたる力はすごい。
なんじゃかんじゃ苦労しながらも、自分で馬装ができるようになってきた。もちろん歪んでいたりずれていたりして、あとから先生に直してもらいながらなんだけどね。
そして今日もいざレッスン場へ!
前回、乗るときにヘンなことをしていろんな人に迷惑をかけてしまったので、今日は慎重だ。
モンテの腰に乗ってしまって大変だったことを今日の先生に話したら、
「大丈夫。今日はきっとうまく乗れますよ。自信を持っていきましょう」と言ってくれた。そして、
うん、うん。ちゃんと乗れた!
いつも通り、モンテに歩いてもらって、立つ&座るの練習から始める。
その次に先生が軽速歩の指示を出すんだけれど、モンテは常足のままだ。
「とっても良い常足をしてたんで、そのまま軽速歩に移ってくれると思ったんですけどねえ」
先生はそう言いながら、何度も軽速歩の指示を出す。
でもモンテはのんびり歩き続けている。
先生に言われて、かかとでモンテの胴を蹴っても、軽速歩をしてくれない。
時間がどんどん過ぎ、大きな掛け時計を見ると、30分のレッスンも残り5分ほどになっていた。
やっとモンテは軽速歩をしてくれた。ようやく今日やりたい練習を始めることができた。
もちろん私がバランスを崩すとすぐに止まるんだけれど、モンテは先生の指示に従がって軽速歩を繰り返してくれた。
「最初からこの動きをしてくれたらいいんだけど」
先生がぼそっと言った。
そう言えば、これまでだってそうだった。特に最近は、この2.3歩で軽速歩をやめるどころか、軽速歩を始めることさえなかなかしないというのは、暑いからなのか。コイツは乗せ心地が悪いから軽速歩したくないねん、とモンテは思っているのかなあ。
最悪、最後まで軽速歩をしてくれないことも1度あったけど、あれはいくらなんでもやりすぎやと思う。
たいていは残り5分になったときに軽速歩を始めてくれたんだ。コイツはこの程度なら怒らない、と軟弱な私の性格を見切ったのだろうか。
そして、あっという間に時間切れ。このパターン。
レッスン場から洗い場に帰るときは、るんるんで歩いてくれるし、お手入れのあと、前カキをしてニンジンをせがむモンテは生き生きしていて本当にかわいい。
「モンテ、あんたもしかして時計が読めるん」
するとモンテはニヤリとした。
「アホなこと言うな。俺はお馬さんやぞ。時計なんか読めるわけないやんか」
確かにモンテはお馬さんだ。けれど、彼の不敵な笑みから察するに、本当はあの大きな壁掛け時計を見ながらやってるにちがいないと、私は思った。
多分、めちゃくちゃ頭が良いんだ。
おやつを食べるモンテを見ながら、笑いが込み上げてきた。
この年齢での乗馬挑戦なんだから、上達の早さについてはとやかく考えていない。夜道に日は暮れぬ、というもんねえ。
そんなことよりも、モンテは私の好奇心と興味をあおってくれる。彼が怒ったり暴れたりしているのではないので、恐いとも思わない。
私が乗馬で見出す楽しみはほかの受講生さんたちとはちょっと違うのかもしれない。
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