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乗馬教室10 いろいろがんばった

モンテクリスエス  いろいろがんばった

たいていはモンテが相手をしてくれる。だから大好き。ほかの子と言えば、たまにコスモラピュタなんだけど、真面目で優しいラピュタも大好き。

モンテクリスエスは、2005年2月21日生まれ。満19歳だ。
51回も競走に出て、2憶3千万を稼いだらしいんだけど、競馬をしない私は、競馬界での常識や相場を知らない。戦績云々はともかく、普通は6歳くらいで引退するものだと思っていた私から見れば、8歳になっても引退しないで、障害に挑戦したというタフさにびっくりしてしまう。ちなみにモンテは障害に出場するための試験を2度の不合格のすえパスしたようだけれど、あの巨体と年齢で軽やかに障害を越えるのは少々無理があったと、私は素人ながら思う。本人もそれを分かっていたんじゃないかなあ。試験のとき障害の前で失速してしまったそうな。体、重いし、それなりの年齢だし、きっとやばいと思ったのだろう。
まあ、障害に挑戦して若い子たちに混じって勝てずに引退したみたいなんだけど、怪我なく無事で本当によかったと思う。
モンテは若いころ、柵にぶつかって柵を壊してしまったにもかかわらず、自分は怪我なく無事だったというエピソードもあるみたいで、一時は560キロもあった巨体のモサだ。よくがんばったと思う。

猛暑だけど、今日もるんるんでレッスンに行った。
うれしいなあ、今日もモンテだ。
前にトーラク着けでめちゃくちゃ手こずって、私はブルーな気持になったので、今日は先にしっかり釘をさしておくことにした。
お部屋に行くと、モンテは寝転がっていた。
「もし今日トーラク着けでわたしを困らせたら絶交やからな」
お部屋に入って、モンテの耳元でそう言ったら、彼はゆっくり起き上がった。
「今日はえらい強気やな。ええぞ。その代わりおまえもふざけたことしたら、出禁(できん)にするからな」
「出禁て何それ」
「そうじゃ。おまえは客。そして俺は店主や」
「モンテは店主やったん」
「そうや。俺は店主や。だからこっちにも客を選ぶ権利あるんじゃ。悪い客は出禁にするからな」
「げ。出禁・・・・」
おまえみたいなダメなやつはもう来るな、って言われたら悲しすぎる。私は目の前が真っ暗になった。
「もう偉そうなこと言わないから、出禁にせんといて」
私があっさり負け、頭を下げると、モンテは笑った。そして洗い場へ。
ブラシかけて、裏堀りして、プロテクターつけて、鞍乗せて、いよいよ問題のトーラク着けだ。
あれれ、すんなりイケた。
「言うとくけど、俺は絶交されるのが怖かったからとちゃうからな」
モンテが強がっているように聞こえて、なんてかわいいヤツなんだろうと思った。
(本当は、先生が前もってモンテの足に虫よけスプレーをかけてくれていたので、モンテのイライラが軽減されたのだ)
今日も立つ&座るの練習をしたんだけど、やっぱり彼は何度も勝手に止まった。
以前、モンテは軽速歩を勝手に止まって、私が背中でどすどすやると走りにくいとか背中が痛いからだと言ったけれど、本当の理由はそんなことじゃないと、今日、先生から聞いた。
乗っている私がバランスを崩して落馬してしまいそうなとき、事故を回避するために止まるというのだ。
モンテの背中には乗っている人の状態を一瞬にして察知する、すごいセンサーがついているようである。
レッスン後のお手入れが終って、ニンジンタイム。
「モンテが勝手に止まるのは、自分の都合だけじゃなくて、わたしが落ちるのを防ぐためやったんやねえ。ちゃんとわたしを守ってくれてたんやー。ありがとう」
「そらまあ、人を落としたりしたら俺だって後味悪いやんか」
「さすが、店主や」
「まあな」
そしてさらに、今日は驚くべき事実も知った。
モンテはここにきて3年ほどになるんだけど、なんと、彼もまたそれまでJRAの誘導馬をしていたそうな。
先生は、
「競走馬としても立派な戦績を残したけれど、それだけじゃなくて、誘導馬時代も後ろの競走馬たちが暴れたり騒いだりしても、モンテは取り乱さず落ち着いて誘導してました。あの馬格だし、めちゃくちゃカッコよかったですよ」と言った。
「へぇーーー。びっくり」
まあ、確かにモンテの巨体は見栄えするし、その巨体が落ち着いて誘導していたら、そりゃあステキだよね。私も見たかったなあ・・・・。
これから競走をする気合入りまくりのお馬さんに乗っている騎手さんたちも、誘導馬が落ち着いて先導してくれるから、自分たちも助かっていると言う。
「誘導馬って、見栄えが良くて、賢くて冷静な子しかできないと思ってたけど、モンテも誘導馬してたって聞いたよ。驚きや」
「いやいやいやいや。おまえ、知らんかったんか。俺はカッコよくて賢いお馬さんなんじゃ。ちゃんと勉強しとけ」
「そんなこと言ったって、こないだ黒川先生が言うてたよ」
「ああ。黒川さんなあ。あの子はかわいくて、優しいええ子や。その黒川さんが何言うててん」
「モンテはちょっとおさぼりさんや、って言うてた」
「マジか」
「うん」
そのあとモンテは黙ってしまった。黒川先生のことが好きだったのかもしれない。
「あ。でもモンテはカッコいい、って言うてたよ」
わたしが取り繕うと、
「ホンマか。俺、がんばるわ」
と、モンテは嬉しそうな顔をした。

ウィキペディアで三木ホースランドパークを見たら、主な繋養馬の欄に、モンテクリスエスの名前も挙がっていた。
繋養、って、命を繋いで養う、という意味だ。だからちゃんと繋養されていくのだろうと思うと、ほっとした。
どの子もみんな無事に寿命をまっとうできることを切に望むばかりだ。

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