乗馬教室16 長身の男前
メイショウドンタク 2006年2月28日生まれ
2024年10月18日
国体が終り、馴染みのお馬さんたちが無事に三木ホーストレックに帰ってきた。
ラピュタの足はまだ治っていない。誰が悪いのでもない。フレグモーネにかかるのは、不運としか言いようがないそうだ。早期発見早期治療にもかかわらず、ラピュタの場合は、たったの一晩で発症そして重傷化してしまったそうだ。すでに2か月以上がたっている。完治は難しいかもしれないと、先生は言った。お願いだから、命だけは助かって・・・・。祈るしかない。
さて、前回は働き者のアイドル牝馬トラちゃんだったけれど、今回からまたモンテに戻ると思って受付に行った。
違うかった。
メイショウドンタク。初めてのお馬さんだ。
厩舎に行くと、ドンタクはおとなしく待機していた。
「ドンタクちゃん、いつも馬房巡りしてご挨拶してるけど、レッスンは初めてやね。よろしくね」
「うん。よろしくです」
美しい黒鹿毛で、おでこにポテッと大きな星じるしが入っている、かなりのイケメン。
モンテより一つ年下の18歳の男の子で、なんと、モンテより背が高いんだって。ここでは3番目に大きいお馬さん。
だけど、モンテのような「デカい」という印象はなく、シュッと長身のスマートなお馬さんだ。現役時代の体重を比較したら、モンテは550キロ超。ドンタクは500キロ前後。
ドンタクは落ち着いている。まったく問題なく、馬房から洗い場に来て、すっと足を上げてくれたので、後ろ脚の裏掘りまでなんなくできた。
でも鞍は重かったし、ドンタクの背中がモンテより高いので、ひとりで鞍を乗せられなかった。先生に手伝ってもらったけれど、トーラクは自分で着けられた。馬装完了。いざレッスン場へ。
乗ってみると、確かに目線は高かった。でも常歩を始めてみると揺れないので、驚いた。恐くない。
そして常歩での「立つ座る」の練習のあと、先生から軽速歩の合図が出た。
「了解っ!」
まあなんと、前回のトラちゃんと同じく、さっと軽速歩を始めてくれた。
揺れが少ないので、着座位置が高くても、恐怖感なし。
モンテと乗り心地が全然違うやん・・・・。
軽速歩の練習がいっぱいでき、私の心は充実感で満たされた。
レッスンが終わって、丸洗いなどのお手入れをしたあとのおやつタイムも、ドンタクは前カキこそすれ、取り乱すことなく、持ってきていたニンジンをお行儀よく完食した。
今日は完璧やった。これぞまさに、「The 乗馬レッスン!」て感じ。
祝着、祝着。
「メイショウドンタク」の馬主さんについて
メイショウドンタクは競走馬時代の戦績は大したことないんだけれど、賢くて優しくて、見た目も美しいので、誘導馬になったのだろう。特に小倉競馬場での誘導馬時代は博多ではないけれど、ドンタクという名前も手伝ってか、人気者だったそう。
ドンタクの馬主さんは松本好雄さんという86歳のおじいちゃんなんだけど、この人についての記事を読めば読むほど惚れ惚れしてしまう。
「きしろ」という、世界シェア4割を占めるディーゼルエンジンの部品メーカーの社長さんをされていたそうだ。お歳がお歳だけに、事業のほうはもう引退されていると思うけど。
さてその松本さんは、もともと競馬が好きで、50年前くらいに馬主になったそう。その後「明石市の松本さん」の漢字の頭文字をとって「メイショウ(明松)」を持ち馬の冠名にしたそうだ。これまでの保有馬は2,500頭以上。
馬名については、「メイショウドンタク」、「メイショウドトウ」、「メイショウカンパク」、「メイショウサムソン」、「メイショウダイクン」など、けっこう適当につけたかと思ってしまう昭和チックな名前。(こりゃ失礼)。50年前の「タニノチカラ」とか「ヒカルイマイ」とかを思い出させる名前であり、「オルフェーブル」とか「イクイノックス」などの今風のハイカラ路線ではないと思う。
まあ、馬名についてはさておき、松本さんの詳しい経歴等はウィキペディアでも出ていて、馬主協会の会長もしたほどの有名人だ。
彼には崇高な理念があり、それは社会と競馬とのつながりをもっと健全で密なものにし、社会貢献する集団を目指すということだ。
大きくて難しい構想については私には分からないのだけれど、とにかく感動したのは、彼の馬やそれにかかわる牧場に対する姿勢だ。小さな牧場で売れ残っている安いお馬さんを買って育て、競走馬としてデビューさせてきたということ。
廃馬になってしまうようなお馬さんの命を守り、それらの馬を買うことによって小さな牧場の経営を助けてきたのだから、小さな生産牧場にとって、松本さんはまさしく神である。そういうことを繰り返した結果、保有馬の数が2,500頭にのぼったのだろう。大金を出して強い馬を買ったのではないので、2,500頭の中には強いお馬さんもいただろうけど、勝てない子が多かったそう。ご自身でも、馬主になって儲けたいと思ったらだめ、とんとんなら御の字くらいに思ってるのがいい、とおっしゃってる。
私なんかよりも競馬ファンの皆さんのほうが松本さんに関するエピソードをご存知だろうけど、松本さんを悪く言う記事は見当たらない。たたえ、慕う人が多いようだ。
ある競馬ファンの掲示板に、「自分が買った馬券ははずれて残念だけれど、メイショウさんところの馬が勝ったので、これはこれでうれしいことです」と書かれていた。
私はこれまで競馬で大変なことになってしまった知りあいを何人か見てきたので、競馬に対してあまり良いイメージは持っていなかったけれど、業界にこんな立派な人がいることを知った。その人がメイショウドンタクという、今私の身近にいるお馬さんの馬主さんだった人だということが分かり、嬉しくなった。
ドンタクは誘導馬になり、そのあと今こうして良い施設で乗馬レッスンのお馬さんとしてのんびり活躍している。もちろんドンタク自身に誘導馬になる素地や資質があったからだろうけれど、松本さんが、簡単に引退馬を殺したくないという考えの持ち主であることも大いに関係しているんじゃないかなあ。
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