「自己パターンの認識」とイノベーション
感情知能(EQ、Emotional Intelligence)は、自分や他人の感情を認識し思考や行動と調和することで、仕事や生活に役立てる能力のことを指します。EQは、心の知能指数とも呼ばれますが、IQ(知能指数)よりも、人生や仕事における豊かさを手に入れられるかどうかに深く関わっており、変化やストレスにもうまく対応できることから、私はイノベーションや新規事業におけるEQの発揮について研究と実践を進めています。
私も参画している、国際的なEQ開発組織である6Secondsでは、EQを以下の3つの主要な能力で構成されると定義しています。
上記、「知る Know yourself:自己認識」の構成要素は「感情リテラシー」と「自己パターンの認識」に分類されます。前回「感情リテラシーとイノベーション」という記事を書きましたが、今回は、これに続いてもう一つの要素である「自己パターンの認識」について、イノベーションとの関係を論説してみたいと思います。
はじめに
自己パターンの認識とは、自分の中の習慣化したパターン(ある状態や出来事をトリガーとした、感情、思考、行動、の一連の固定化した組み合わせ)を自ら認識するする力を指します。
まずは、なぜ人は「パターン化してしまうのか?」について説明してみたい思います。
そもそもなぜ「パターン化」するのか?
人が「パターン化」するのは、脳の仕組みに立脚します。脳は非常にパワフルである反面、エネルギーの消費も大きく、脳が効率的にエネルギーを使うための仕組みが必要であったとする脳科学の研究があり、以下のように説明できます。
脳のエネルギー節約
脳は、全エネルギー消費の20%以上を使う大変エネルギー消費の大きい器官です。そのため、できる限り効率的に働く必要があり、反復する作業や経験をパターン化(自動化)して、少ないエネルギーで処理できるようにしているとされています。例えば、毎朝の準備や車の運転など、日常的な行動が習慣化すると、意識的な思考をほとんど必要とせず自動的に行えるようになります。これは、脳が過去の情報をもとに「こうすれば大丈夫」と判断し、エネルギーを節約するためです。常時何に対しても「ゼロベース」で考えていては、生活を成立させるのは難しいとも言えるでしょう。
脳の構造とパターン化の関連
脳の「基底核」という部位は、ルーティンや繰り返しの行動を司り、習慣や自動反応を助けます。ある行動や反応を繰り返すと、基底核がその行動を自動的に引き出すように働くため、無意識に同じ行動をとりやすくなります。これが「パターン化」の基盤となり、脳は新しいことを一から考える負担を減らし、慣れ親しんだ行動に基づいてスムーズに反応するとされています。我々はその経験から「家の床は歩いても安全だ」という認識をパターン化しているからこそ、一歩一歩確かめるながら歩くことはないのです。
「予測と準備」を担う脳の仕組み
さらに、脳は「予測」の機能も持っており、過去の経験をもとに未来を予測し、そのための準備を整える特性があります。過去にうまくいった反応や行動をパターン化しておけば、似た状況に出会ったとき、迅速に対応できるのです。この「予測と準備」のメカニズムにより、人はパターン化された行動や思考を取るようになります。ある意味の成功パターンが「コンフォートゾーン」を形成することにもつながり、「パターンから抜け出す」ことにはある程度の負荷が必要であることも指摘できるでしょう。
このように、人がパターン化するのは脳が少ないエネルギーで効率的に機能し、安全で予測可能な環境に対応するための合理的なプロセスです。ただし、パターン化に頼りすぎると、柔軟な思考が難しくなり、新しい発想や行動を妨げることにもなるのです。
自分の中に存在する「パターン」を認識することが、イノベーションにおいて非常に重要なことを、ここから述べていきたいと思います。
1. 習慣化したパターンが「無意識の制約」を生む
私たちは、日常のさまざまな状況で、ある出来事や状態をトリガーとして感情・思考・行動が自動的に反応する「習慣化したパターン」を持っています。例えば、批判を受けた際に不安を感じ、その不安がさらに防衛的な思考や行動に繋がる、といった一連のパターンです。これらは日常の多くの場面で無意識に発動され、心地よい安心感をもたらしますが、反面、新しい発想を妨げる制約にもなります。イノベーションに必要な「柔軟な発想」や「既存の枠を超える勇気」を持つためには、こうしたパターンに無意識に従うことを防ぎ、意識的に新たな行動を選ぶ必要があるのです。
2. 自己パターンと固定観念の関係
習慣化したパターンは、知らず知らずのうちに固定観念をうみ、それらが社会の既成概念へと結びついていきます。例えば、「失敗してはいけない」という固定観念があると、リスクを避ける行動を無意識にとりがちです。これが自己パターンとして深く根付くと、たとえ革新的なアイデアがあったとしても、行動に移すことをためらい、無意識に保守的な選択をしてしまうのです。このように、自己パターンに無自覚でいると、結果的に固定観念に従い続けることになり、自らのインスピレーションを受け取るチャンスや行動から新たな学習をするチャンスを逃してしまうのです。
3. 自己パターンの認識によるイノベーション促進
自己パターンに気づくことで、無意識に行っていた選択を意識的に変える、別の選択をするきかっけになることはもちろん、むしろ有効活用してしまおうということもありえます。例えば、自分が「ストレスが溜まるとスマホゲームに無意識に手が伸びてしまう」というパターンを持っていると気づけば、実は自分以外にも多くの人がこのパターンに陥っていることも想像がつくでしょう。
そこから、この様なパターンを解消したり、逆に活用したりする事がイノベーションのきっかけになることもあり得るのです。具体的には、ストレスの解消に繋がり、罪悪感も少ないスマホゲームを開発しようという心意気であれば、「運動」を伴うスマホゲームとして、ポケモンGOの様なアプリであったり、ピリカの様なゴミ拾いを促進するアプリの開発といった方向性が、見出されるかもしれません。
おわりに
自己パターンを意識的に認識することは、自らの固定観念に気づき、それを打破するための第一歩です。自己パターンに無自覚でいることが、知らず知らずのうちに革新への壁となってしまう一方で、パターンを認識することは、新しい発想や行動への扉を開く鍵とも言えます。
自己パターンへの気付きは「振り返り:リフレクション」の実践がお勧めであると同時に、チームで実行するなど他者の視点を取り入れることも有効です。振り返りのフレームワークなどは多岐にわたりますが、ご興味があれば拙著を参考にしてみていただいても良いかもしれません。
・ひらめきとアイデアがあふれだす ビジネスフレームワーク実践ブック
・仕事はかどり図鑑 今日から始める小さなDX
また、自己パターンへの自覚から、脱却・進化を加速する考えかたとして、私は「DIYメソッド」を開発し、推奨しております。
DIYはDo It Yourselfの略である通り、「まず自ら実践せよ」「手足を動かせ」という事を啓蒙すると同時に、「でろ(D)」「いけ(I)」「やれ(Y)」の略にもなっております。
D:社内、既存の枠組み、常識の範囲から、意図的に「でろ」
I:気になる現場や顧客のもとへ「いけ」
Y:現場に行くことで得た学びは必ず簡単なことでも「やれ」
これは、蛇足ながら、自己パターンの範疇から「でろ」であり、自己パターンに反してでも「いけ」であり、自己パターンを意図的に活用しながら「やれ」である、といった説明が可能でしょう。
勝ちパターンはもちろんうまく活用しながら、けれど、「あなたの新たなパターンの獲得」こそがイノベーションの源泉であると、私は信じております!
最後までお読みい頂きありがとうございました!!
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