台風の思い出
奄美・沖縄の人なら誰でも「台風の思い出」というのがあると思う。
子どもの頃は不謹慎にも「学校が休みになる」というそれだけのことで台風が来るとワクワクしたという人も多いだろう。私もその中の一人だ。
40年前の大学生の時に私は週末に小学校の警備のバイトをしていた。現在と違って当時は市町村の非常勤職員としての採用である。
勤務中の日曜日に暴風圏に入ったまま、月曜の朝になったことがあった。
朝5時頃に職員室の電話が鳴る。「今日は学校の授業はありますか?」という保護者からの問い合わせだが、学校にはまだ私一人。「私は警備員なのでわかりません。校長先生に電話して確認するので後でもう一度かけてもらえますか」と言って、私は受話器を置いて電話を切り、校長先生のお宅へ電話をかけようとした。
ところが、受話器を置いた瞬間に電話が鳴る。別の保護者からの同じ問い合わせだった。同じように応え受話器を置くと、その瞬間に別の電話がかかってくる。これでは校長先生に連絡がとれない。私は困ってしまった。しかし同時に、「電話での申し込みや問い合わせの時になかなか電話が繋がらないということはこういう事なのだ」と妙に納得してしまった。
何十人という人が学校に一度に電話してきて、その中でたまたま私が受話器を置いたタイミングで最後のダイヤルを回した人が繋がるのだ。「すごい運のいい人だなあ」と思ったが、感激している場合ではない。私は受話器を外したまま廊下にあるピンクの公衆電話から校長先生に電話した。今日の授業はないとのこと。
それから一時間以上、私は「学校はお休みです」と電話対応だった。受話器を置いた瞬間に次の電話。私の勤務時間はとっくに過ぎているが教職員はだれも出勤してこない。結局台風が長引き、私はそれから丸二日学校に閉じ込められてしまった。
今年はなぜか沖縄に台風が来ない。
海水温が上がりサンゴの白化現象が増えているという。海水温が下がるためには台風の風が必要だという。そういう意味では台風に来てほしいという気持ちがないわけではない。
とはいえ、台風は農産物に多大な被害を与えるし暫く漁にもでられなくなる。沖縄は相対的に台風被害が少ないとはいえ、やはり台風は人間が太刀打ちできない自然現象であり恐れるべきであろう。
それでもやはり・・などと考えるのは、やはり暫く台風が来ず以前の被害を忘れているからだと思う。現代人は自分勝手だ。