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地域包括ケアシステムの深化・推進を目指す国の政策は幻想。(在宅医としての社会風刺)早く気づけ。自ら行動を起こし、多職種から小規模自己完結ケアへ転換せよ!

はじめに

2000年に介護保険法が成立して以来、国は医療・介護・福祉など多職種を連携させ、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らせる社会を実現しようと「地域包括ケアシステム」という多職種連携の仕組みを打ち出してきました。しかし、20年以上が経過する中で、そのシステムは空回りを始めています。現場では複雑な事務作業や非効率な会議に時間を取られるうえ、報酬や人手の不足により介護事業所が相次いで倒産するなど、疲弊が目立ちます。
在宅医として実際の現場をつぶさに見ていると、生き残り、かつ本当に助け合いができているのは少人数で顔の見える小さなユニットやコミュニティ、いわゆる「小国寡民」の形態であると考えます。



1. 多職種連携は、実は「幻想」になっている

「みんなで助け合おう」という理想は美しいものですが、多くの人が関わるほど情報共有や調整に膨大な労力がかかり、会議や手続きばかりで本来必要な支援がおろそかになりがちです。さらに、各分野のやり方や考え方をすり合わせるための時間もかかり、結果として利用者に迷惑が及ぶ事態もしばしば目にします。
そうした中で、理想的とされる多職種連携よりも、「信頼関係のある少人数のユニットが自分たちで支え合う形」のほうが、在宅医療・介護の現場では現実的に機能しているのです。


2. 「小国寡民」―少人数で生きる知恵

「小国寡民」という言葉は、老子が説いた「過度な欲望を持たず、自給自足で穏やかに暮らす」生活スタイルを指します。国の大規模な制度に頼り続けた結果、日本の財政や人材不足といった根深い問題は容易には解決できないという現実に、私たちはそろそろ気づくべきではないでしょうか。
だからこそ、「自分たちだけで十分やっていける」小さなコミュニティを作ることを提案します。たとえば、シェアハウス型の高齢者共同生活や、小規模なお泊りデイサービスなど、すでに実践されている事例が好例です。過度な利益を追求するのではなく、最低限必要なケアを提供しながら、仲間同士で互いを助け合い、他者と比較せず自分たちの生活を楽しむのです。地域が推奨する一律のシステムに固執したり、周囲と比較したりするのではなく、「うちはこうやって助け合っている」という自分たちで決めたルールとペースに沿ってサービスを提供することこそ、これからの時代を生き抜くうえで実践的な方法だと考えます。

3. AIやロボット介護への過度な期待は禁物

近年、AIやロボットによる介護現場の革新が期待されていますが、現状の技術では「心のケア」を担うことは難しいのが実情です。高齢者であれ誰であれ、最終的に求めるのは温かみのある直接のふれあい、すなわち「顔の見える関係」です。オンラインやICT技術を活用しても、介護は本質的に「人の手によるもの」だといえるでしょう。

AIがさらに発展していく未来においても、人と人との信頼関係はますます重視されるようになると考えられます。一方で人手不足が深刻化するなか、大きな成果を出すには、気の合う仲間が少人数で協力し合える「小さなユニット」が重要です。そうしたユニットこそが、そこで働く人や暮らす人にとって安心できる場として、今後ますます注目されるでしょう。


結論:地域包括ケアシステムはもはや時代遅れ。

自ら小さくとも温かいコミュニティを築こう!
国が推し進める地域包括ケアシステムは、机上の空論ばかりが先行し、将来的に予算や人材がさらに乏しくなることを考えれば、実行不可能だということは明らかです。勝ち目のない戦いに「みんなで頑張ろう」と率先して行動する人が果たしているでしょうか。疲弊しきった現場の実態を見れば、一目瞭然です。

それよりも、「広く浅く」より「狭く深く」の仕組みを作り、それぞれが自分たちに合った小さなケアの形を持つほうが、持続可能な社会に近づくのではないでしょうか。ここでいう“小国寡民”とは、アリストテレスの提唱する古代のポリス的共同体と一致します。すなわち、共に善く生きることを目指し、政治的・社会的意味を形成していくコミュニティです。ただし、小国寡民は規模が小さいぶん、政治的意味合いは意識されず、気の置けない者同士が互いの幸福を考えながら協力して暮らす共同体です。

もちろん、小規模ユニットには専門性や総合力が不足しやすい面があり、アクセスの自由が損なわれるなど、公的制度上の不公平が生じる可能性も否定できません。それでもなお、「ここが自分に合っている」「このままで十分だ」と思えるような小規模で自己完結できるケアユニットは、人々が安心して暮らし・働き、そして人生の最終段階を迎えるときに大切な“自分らしさを支える拠り所”となり得るでしょう。

最後に、各コミュニティやユニットがそれぞれの強みを活かしながら、無理のない範囲で互いに連携する道を早急に模索することこそ、本来目指すべき「地域包括ケアシステムの深化・推進」ではないかと、私は考えています。自己完結できるケアユニットこそ、これからの時代に求められる新たなケアのかたちなのです。




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