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「ツイートする」をボタン文言にするという発明

前回のnoteでCTAのボタン文言の話を書きましたが、今回もまたCTAのボタン文言についてです。

サービスの開発やマーケティングに関わっている方が、サービスを世に広ためにための手段として誰しもが一度は考えるのが、サービス名の動詞化です。わかりやすく言うと、Googleで言うところの「ググる」というやつです。

私はコピーライターやUXライターとしてテック企業で働いていますが、社内のマーケターやプロダクトマネージャーから「なんかググるみたいなやつ考えられない?」というようなことを、何度か言われたことがあります。

例えば、食べログは「食べログる」という言葉を企画の中心にして、過去にCMを展開しています。

こうした事例からも、サービス名の動詞化は、マーケティング施策のひとつとしてよくとられる手法のひとつであることがわかります。

ただ、現実問題としては、実際に動詞化したサービス名を世の中で定着させるのは、非常に難しいと感じています。こういう時にだいたい「ググる」が事例に挙げられるのですが、「ググる」以外で定着している言葉をパッとは思いつきません(「LINEする」「Slackする」「Zoomする」のようにサービス名そのままは結構ある)。

ではなぜ、「ググる」は定着したのか?その理由のひとつは、ユーザーから自然発生的に生まれた言葉だから、というのが私の考えです。ググるはGoogleがCMやマーケティング施策のために開発した言葉ではなく、Googleが発信した言葉ではありません。あくまでユーザーが自発的に言い始めて、それが世の中に広がったものです。そのため、企業が「ググるみたいなやつ欲しい」と思った時点で、その言葉を定着させるのは難しい状況になっているというパラドックスがあります。

以上のような理由により、「ググるみたいなやつ考えられない?」と相談された際は、「全然考えられますけど、企業発信でそういう言葉を定着させるのは莫大なお金と時間をかけない限りあまり現実的ではないと思います」というような返事をすることが多く、相談してくれた方もそうだよねえ、と納得してくれることが多かったです。

なんですけど。

最近、広告的発想とは全く違うアプローチで、サービス名の動詞化を実現した事例を発見しました。

それが、Twitterの「ツイートする」というCTAのボタン文言です。

今は亡きTwitterのスクショ。
ちゃんとスクショとってた俺、サンキューな。

Googleの検索ボタンは「Googleする」ではないし、LINEの送信ボタンも「LINEする」ではありません。今皆さんが読んでいるこのnoteだって、投稿ボタンは「noteする」ではなく「投稿する」になっています。しかし、Twitterの投稿ボタンは「ツイートする」でした。

このことに気付いたのは、奇しくもTwitterのサービス名がXに変更されたことがきっかけでした。Xでは、サービス名の変更に伴い、「ツイート」や「リツイート」など、「Twitter」というサービス名に紐づいた名称の変更が行われています。その結果、現在、Xの投稿画面は下記のようなものです。

投稿するボタンの文言は「ツイートする」から「ポストする」に変更になっています。

この「ポストする」という言葉は、Xに固有のものではありません。インスタもポストできるし、Facebookだってポストできます。しかし、「ツイートする」というCTAはTwitterでしか使うことができず、インスタでツイートすることも、Facebookでツイートすることもできないのです。

また、ツイートするのはツイッターでしたが、ポストするのはXです。「ポスッター」でポストするわけではありません。

このように、Twitterにとって「ツイートする」というCTAのボタン文言は、非常に優れたUXライティングだったことがわかります。

TwitterはCTAのボタン文言を「ツイートする」にすることで、動詞化したサービス名を世の中に定着させることに成功したのです。

しかし、CTAのボタン文言をサービス名に紐づいた固有の名称にすることは、UXライティングの観点では非常にリスクの高い判断でもあります。その言葉が浸透するまで、ユーザーの認知負荷が増大するからです。

以前noteで、ナインティナインの岡村さんが、「うちの炊飯器は早炊きはできない」と思っていたら、実は機能の名称が「白米急速」になっていて、早炊きと気付かなかった、というエピソードを紹介しました。

サービス固有の名称を開発することは、ユーザーの体験を毀損する可能性があります。

自分がもしUXライターとしてTwitterに関わっていたとして、プロダクトマネージャーにボタンを「ツイートする」にしたいと言われたら、絶対に反対していたと思います。初めて見る「ツイートする」という謎の言葉よりも、例えば「投稿する」のほうが圧倒的にわかりやすいからです。新しい言葉が浸透するまでは、コンバージョンに差が出るレベルだと思います。上記の岡村さんの炊飯器の事例のように。

しかし、Twitterはブランドの個性を重視し、「投稿する」ではなく「ツイートする」にすることで、その言葉を世の中に定着させることに成功しました。私にとってこの事例は、今後のUXライティングの言葉の考え方を大きく変えるひとつになったと思います。

そして、サービス名がXになり、CTAが「ポストする」になった今も、多くの人が「ツイートする」とXにポストしているのを見て、改めてこの言葉の凄さを感じずにはいられません。


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