著書『秒で伝わる文章術』の「第2章 短いは正義」を無料公開
私の初めての著書『秒で伝わる文章術』が4月11日発売されました!
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今回は、私が文章を書く上で最も重要だと考えている「短いは正義」について書いた第2章を無料で公開します。
第1章では「人間は文章を読まない」ということについて書きましたが、文章を読むことが得意ではない読み手に対して、文章を読んでもらうための最も効果的な手段がこの「短く書く」ということだと思っています。
このnoteに興味を持ったら、ぜひ『秒で伝わる文章術』を手に取ってみてください。
また、こちらの章は練習問題を解くことで、具体的なテクニックが身につくような設計にしています。今回は練習問題だけを掲載するので、解答例とひとこと解説はぜひ本書でチェックしてみてください!
それではどうぞお楽しみください!
短かさは読みやすさ
読み手ファーストな文章を書く上で、最も重要なこと。それは、「とにかく短く書くこと」です。
本書で何度も言及している通り、読み手は文章を読んでくれません。そんな読み手に対して、少しでも読みやすくするための最も効果的な方法が、「短く書く」ということなのです。
「短く書く」ことを意識するだけで、あなたの文章は見違えるように読みやすくなります。
私は、過去に所属した楽天や、現在所属しているPaidy(ペイディ)で、「A / B テスト」と呼ばれる手法を使って、短い文章と長い文章で、どちらがより読み手がクリック/タップするかを何度も検証してきました。
その結果はいつも同じで、短い文章のほうがクリック率が高かったのです。このことからも、短い文章こそが、読み手を動かす文章であることがわかります。
では、文章を短くするには、具体的にどのようにすればいいのでしょうか。
言いたいことを絞る
文章やプレゼンなど、「何かを伝える」という行為は、大きく 2つの要素に分けられます。「何を言うか(What to say)」と「ど う言うか(How to say)」です。私がコピーライターになったばかりの頃、初めに学んだのがこの「何を言うか(What to say)」と「どう言うか(How to say)」でした。
文章を短くする上で、最も重要であり、最も簡単なのが、「何を言うか(What to say)」を絞る、つまり、「訴求すべき内容を絞る」ということです。
たとえば、こちらの文章をご覧ください。
新型スマートフォンの特長を紹介した文章ですが、この中に、新型スマートフォンの特長として「言いたいこと」はいくつあるでしょうか?
正解は、次の6つです。
世界最軽量
最先端の高性能カメラを搭載
長時間バッテリーを実現
全5色のカラーラインナップ
防水性も抜群
顔認証システムでセキュリティも万全
どうでしょうか。一度に6つも特長を伝えられても、頭の中に入ってこない、頭の中に残らない、そんな感じがしませんか? では、思い切って、優先度の高い最初の3つに絞ってみます。
これなら、「最軽量」「高性能カメラ」「長時間バッテリー」の 3つは記憶に残りそうです。こうして、言いたいことを削ることによって、重要度の高いものだけを、確実に伝えることができる のです。
たくさん伝えることは迷惑
私は文章力養成講座で講師をしていますが、本当によくある質問が「いろんな人からたくさん情報を入れてくれと言われて困っている」というものです。たとえば、今回の例文のようなスマートフォンのメーカーの場合、パンフレットを作成するような立場の方が、開発部の方に大量に資料を渡され、「あれもこれも情報を入れてくれ」と言われて困っている、というパターンです。
そこで私はいつも、「あなたが作っているパンフレットが達成するべき目的はなんですか?」という話をします。パンフレットの目的は、お客様に製品を買ってもらうことです。そのためには、製品の特長を、しっかりと記憶に残るかたちで伝えなければなりません。開発者が伝えたいことそのまますべて伝えられても、お客様にとっては迷惑でしかないのです。結局伝えたいことは何一つ伝わらず、製品を買ってもらうことはできません。
文章を書く人間は、集めた素材をすべて伝えるのではなく、読 み手の立場になって、選別しなければならないのです。これこそが、読み手ファーストの「何を言うか(What to say)」です。
スティーブ・ジョブズと5つの玉
「言いたいことを絞る」ということの重要性において、圧倒的な説得力を持つエピソードを1つ紹介します。
Apple の創業者、スティーブ・ジョブズが、初代iMac のCMについて考えていた1998年のエピソードです。世界最高の広告の1つである「Think different.」の生みの親であり、スティーブ・ジョブズの生涯のパートナーでもあったクリエイティブ・ディレクター、リー・クロウと、CM の内容についてディスカッションをしていました。
リー・クロウは、CM のメッセージは1つに絞るべきだと考えていました。しかし、スティーブ・ジョブズはこのCM で、「iMacの特徴を5つ入れたい」と主張しました。
そのとき、リー・クロウはこんなパフォーマンスをしてみせたのです。
このパフォーマンスのあと、スティーブ・ジョブズはCM のメッセージをシンプルにすることを選んだそうです。
このエピソードが私は大好きなのですが、これは文章を書く上においても、圧倒的な説得力を持ちます。文章でたくさんの紙の玉を投げられても、読み手は1つしか受け取れないのです。
「いろんな人にたくさん情報を入れてくれ」と言われて困っている。そういう人は、ぜひこのエピソードを話してみてください。きっと、「伝える情報は絞るべきだ」と納得してくれるはずです(自分がスティーブ・ジョブズより優秀な人間だと思っている人以外は)。
なぜポイントは「3つ」が最強なのか
「言いたいことを絞る」と言われても、たくさん伝えたいことがある中で、たった1つのメッセージに絞ることは非常に難しいと思います。では、一体いくつまでなら一度に伝えてもOK なのでしょか?
それはもう、言うまでもなく「3つ」です。きっとあなたも、「プレゼン必勝法!」のような本や記事で、「初めに『ポイントは3つです』と宣言する」というテクニックを読んだり聞いたりしたことがあると思います。
この「ポイントを3つ」を最もうまく使いこなしたのも、スティーブ・ジョブズでした。彼は、ある新製品を発表する際、「革命的な製品を1つではなく3つ、紹介する」と語ったあとに、こんなプレゼンテーションを行っています。
そうです、iPhone が初めて発表されたときのプレゼンテーションです。3という数字を非常にうまく使いこなすことで、プレゼンテーションを劇的なものにしています。
ではなぜ、「ポイントは3つ」なのでしょうか? もちろん、そこにも科学的根拠があります。たとえば、前述のスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションについて詳細に解き明かした『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(カーマイン・ガロ、日経 BP)によると、私たちの頭が短期記憶に保持できる情報は、ごくわずかです。これは、ベル研究所のジョージ・ミラーが発見し、『マジカルナンバー7±2』という論文で1956年に発表されています。この論文で、「数字が7桁から9桁を超えると、短期記憶で処理するのが難しくなる」という研究結果を示しました。最近は、人間の頭が楽に思い出せるのは3項目から4項目というのが学会の定説となっているそうです。
そして、私たちの身の回りには、数えきれないほどの「3」があふれています。
じゃんけんの「グー•チョキ•パー」
物語の「3びきのこぶた」や「三国志」、桃太郎の家来「いぬ•さる•きじ」
毛利元就「三本の矢」
ことわざ「石の上にも三年」「三人寄れば文殊の知恵」
ジャンプの原則「努力•友情•勝利」
このように、とてもここには書き切れないほど、「3」にまつわるものが多くあります。図形の中でも、三角形が最も強度が強いといわれています。特に物語においては「3」の威力は強力で、私の大好きな『新世紀エヴァンゲリオン』も『進撃の巨人』も、メインキャラクターは3人です。
冒頭で書いた通り、人間の構造が長い間にわたってほとんど変わっていないとすると、これまでの長い歴史で「3」という数字が多く活用されてきたことは、私たちの脳や身体を動かす非常に強いパワーを持っている証だと考えられます。
文章を書くときや、物事を整理するときは、ぜひ、この「3」という数字に注目してみてください。
内容を変えずに短くする
「言いたいことを絞る」で紹介したのは、訴求する内容を絞ることで、短く伝えることを実現するテクニックでした。言いたいことを削って短くしたら、次は、内容を変えずに短くしていきます。つまり、「どう言うか(How to say)」を改善することで、短くするのです。
まずは、こちらの文章をご覧ください。
どうでしょうか? 読みにくいと思いませんか? この文章を、読み手ファーストな短い文章にすると、次のようになります。
文章全体がすっきりとして、圧倒的に読みやすくなったと思います。
この文章で使ったのは、次の4つのテクニックです。
①一文を短くする
BEFORE の文章では、1つの文の中に、すべての内容が入っています。一方、AFTER では、3つの文に分かれています。このように、1つの文でだらだらと書くのではなく、一文一文を短くすることで、読みやすさは飛躍的に向上します。
1つの文で、1つの内容について言及することを、「ワンセンテンス・ワンメッセージ」といいます。今回の例でいうと、文章全体では次の3つについて言及しています。
新型コロナウイルスは感染力が高い
感染対策としてマスクが有効
外出時にはマスクの着用を
この3つについて、それぞれを1つの文で伝えることで、全体として読みやすい文章になっているのです。
また、今回の例では、1つ1つの文の文字数を減らしながら、文章全体としても文字数が少なくなっています。こうして地道に文字数を削っていくことが、読み手ファーストな文章につながっていくのです。
②短い言葉に言い換える
ある言葉を、別の言葉で言い換えると、文字数を大幅に削減できる場合があります。
たとえば、「マスクを着用すること」は、「マスクの着用」と言い換えるだけで、4文字も短縮できます。「〇〇すること」という表現は、言い換えによって文字数を削減できる可能性が高い言葉の1つです。この表現を見かけたら、短くできないか考えてみてください。「外出される場合」も、「外出時」と言い換えると、文字数を削減できます。
③体言止めを活用する
文の最後を名詞で止める手法を、「体言止め」といいます。 この手法が効果的な理由は、単語の重複を避けることができるからです。
49ページのBEFORE の文章には、「新型コロナウイルス」という単語が、2つ含まれています。「短いは正義」であることを考えると、単語の重複は最も避けるべきことの1つです。
そこでまず、1つ目の文の前後を入れ替え、「非常に感染力の高い、新型コロナウイルス」と体言止めにします。その後、2つ目の文の「新型コロナウイルス」に当たる部分を「その」という指示語で言い換えます。すると、文章の意味を変えずに、「新型コロナウイルス」という単語を1つ減らすことができるのです。
体言止めは、文章のリズムを良くする上でも非常に効果的です。文章を音読してスムーズに読めなかったときは、ぜひ体言止めを試してみてください。
④丁寧な言葉づかいを避ける
日本人はその国民性から、丁寧な言葉を使いがちです。しかし、丁寧な言葉づかいをするあまり、読みやすさが損なわれ、本当に伝えたいことが伝わらない場合が本当に多くあります。日本人の文章が伝わりにくい最大の要因が、この丁寧すぎる言葉づかいと言っても過言ではないほどです。
「マスクをご着用いただきますよう何卒よろしくお願い申し上げます」という文は、一見丁寧で良い文章に思えます。しかし、丁寧な言葉を使いすぎて、文が過度に長くなっています。「一文字でも短い文章こそが読み手にとって負担の少ない文章である」ということを考えると、シンプルに「マスクを着用してください」と伝えたほうが、よりダイレクトに読み手に訴えかけることができます。
また、「〜してください」のような具体的な行動変容を目的とした文章では、より短く、鋭い言葉で伝えることが、効果を最大化することにつながります。丁寧な言葉を使うことで、本来果たすべき目的が達成できなければ、本末転倒です。丁寧すぎる言葉づかいで文章がぼやけた印象になっていないか、しっかりとチェックするようにしてください。
漫画の読み手の負担を減らす工夫
私が人生で最も影響を受けた人物の1人がクリエイティブ・ディレクターの箭内道彦さんなのですが、これは私が広告に夢中になっていた頃、箭内さんがよく言っていた言葉です。
この言葉は、いま私が文章の技術を磨く上でも大きな指針になっていて、書籍やウェブだけでなく、ゲーム、エンタメ、ファッション、哲学、アートなど、あらゆる業界から言葉について学びを得るようにしています。
そんな私にとって、まさにお手本となったのが、漫画家を対象とした創作講座「ジャンプの漫画学校講義録⑥ 作家編 松井優征先生『防御力をつければ勝率も上がる』」というブログです。
「漫画学校講義録」というタイトルがついていますが、私にとってこれは、完全に文章術の講義録でした。
このブログを読んで、漫画を書く上でも文章とまったく同じ「読み手ファースト」な考え方が必要だったんだ、という気づきがありました。たとえば、「文字数を一文字でも少なく」という部分です。
このことについて、松井先生は次のように語っています。
私が文章を書く上でいちばん気をつけているのが、まさにこの「文字数を一文字でも少なくすること」です。そして同時に、いちばん難しいのが、この「文字数を一文字でも少なくすること」でもあります。
前述の通り、「文章を読む」という行為は、読み手にとって私たちが想像している以上に労力を必要とします。松井先生はブログで「脳が疲れる」という表現を何度も繰り返していますが、「いかに脳を疲れさせないか」が、文章を書く上で非常に重要だと思っています。それがこのブログでは、漫画のような面白さを追求するエンターテイメントにおいても重要であると知り、技術として語られているのを読んで、本当に目から鱗が落ちるような思いで
した。
文字を削るまでがライティング
文章が完成するときとは、いつでしょうか? 一度文章を書き終えたあと? いいえ、違います。
文章が完成するのは、一度書き終えて、削ったあとです。
文章を書き終えたら、そのままの状態で「完成」としている方が多いと思います。しかしそれでは、読み手ファーストな文章には決してなりません。文章を書いたあとに、「文字を削る」という工程は、読みやすい文章を書く上で、最も重要なプロセスの1つです。
「家に帰るまでが遠足」といわれるように、文字を削るまでがライティングなのです。
メールや企画書、SNS、就職活動のエントリーシートなど、あらゆる文章において、「書き終わったら、まず削る」をぜひ習慣にしてみてください。たったそれだけのひと手間をかけるだけで、あなたの文章はずっと読みやすくなるはずです。
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