予期的UXとコピーライティング(とUXライティング)
遠くかけ離れたものに同質性を見出せるのは、鋭い洞察力のあかしである。
ーアリストテレス(古代ギリシャの哲学者)
これは、私が非常に好きな言葉で、物事の思考を深める際に、指針となっている言葉のひとつです。全く異なる領域の本を読んだり考察を進めていく中で、「これは同じことを言っているな」と感じたり、二つの異なる領域が交差することで、新たな発見が生まれる瞬間があり、強い知的興奮を覚えることがあります。
また、スティーブ・ジョブズが残した有名な言葉のひとつに「Connecting the dots」というものがあり、これも私の座右の銘と言ってもいいぐらい好きな言葉なのですが、こちらも本質的には同様のことを表しているのではないかと思っています。スティーブ・ジョブズは、これまで交わることのなかったアートとサイエンスの交差点に自らが立つことで、これまでになかった全く新しいコンピュータであるマッキントッシュを生み出しました。
スティーブ・ジョブズと自分の経験を並べて語るのはあまりに烏滸がましいのですが、私も自分のキャリアの中で、広告とUXという、これまであまり交わらなかった2つの領域で、ライティングという仕事をしています。私の中でそれぞれを広告=コピーライティング、UX=UXライティングと分類して整理していますが、当然、両者が重なる部分もでてきます。
そんな中で、不勉強ながら最近知った「予期的UX」という概念を自分が関わるライティングに持ち込むことで、非常に綺麗に整理できるという大きな気付きがあったので、今回はその話をまとめてみたいと思います。ちなみに前述のとおり、まさに今が知的興奮を覚えている状態なので、若干整理されていない部分もありますが、鉄は熱いうちに打ての精神で走り書きしたいと思います(あとで修正するかも)。
コピーライティングとUXライティング
これまで私は、コピーライティングとUXライティングを、下記のように整理していました。
コピーライティングとUXライティングでは、マーケティングの4Pで担う部分が違うと考えています。以下の4つがマーケティングの4Pです。
・Product(製品)
・Price(価格)
・Promotion(プロモーション)
・Place(流通)
このうち、Promotion(プロモーション)の部分を担うのがコピーライティング、Product(製品)の部分を担うのがUXライティングです。
具体的に説明します。こちらがコピーライティングの例です。
iPhoneの広告のコピーですが、「早い話、速いです。」というキャッチフレーズが入っています。「早い」と「速い」を重ねる表現上の工夫があり、いわゆるコピー然としたコピーライティングらしいコピーだと思います。
こうしたプロモーションで使われるコピーライティングのコピーは、プロダクトを利用する前の人に向けて書かれています。テレビCMや交通広告などで接触する人たちは、ほとんどが新しいiPnoneに関して興味がありません。
こうした興味がない人の関心を惹きつけ、最終的にはプロダクトを購入してもらう必要があります。新しいiPhoneがどれだけ魅力的で、あなたの人生を豊かにしてくれる製品なのかがしっかりと伝わらなければなりません。そのため、コピーライティングのコピーは強く、訴求力があり、エモーショナルで、見る人の心を動かし、記憶に残るものが求められるのです。
一方、UXライティングの例がこちらです。
iPhoneのロック画面に表示される「上にスワイプしてロック解除」というコピーです。
仮にこれまでの人生でガラケーしか使ったことがなく、スマホに指一本触れたことがない人がこの画面を見たとしても、「上にスワイプすれば、ロックを解除できる」ということは伝わると思います。このように、プロダクトの利用を言葉でサポートするのが、UXライティングの役割です。
こうしたUXライティングのコピーは、プロダクトを利用中の人に向けて書かれています。プロダクトをすでに利用しているので、コピーライティングのように、必要以上に興味を喚起する必要はありません。むしろ、コピーライティングのような表現の工夫により情緒的な起伏が生じると、プロダクトを利用する上では邪魔になってしまいます。つまり、記憶に残らないようなコピーが必要になるのです。
以上のことをまとめると、プロモーション領域(広告)で記憶に残るライティングをするのがコピーライティングで、プロダクト領域(UX)で記憶に残らないライティングをするのがUXライティングである、と言えます。
こうして自分の中では一通り整理出来たな、と思っていたのですが、そんな時に出会ったのが「予期的UX」という概念でした。
コピーライティングは予期的UXの一部
きっかけはこちらのnoteです。
「深津さんが考えるUX」として、下記のように書かれています。
一般の定義とは少し違うかもしれないですが、僕の考えている定義としては、「ユーザーがサービスやプロダクトを認識してから忘れてしまう間に、その人の脳味噌で生まれるいろいろな脳内の電流全て」としています。
「使う前」も含んでいるのがポイントで、例えばiPhoneだと、一般的には触っている間だけと思われがちですが、友達がiPhoneを持ってるとか、iPhoneは良いという噂を聞いたこともUXに含まれるんじゃないかなと思っています。
まさにこの部分を読んで、私は身体に電流が流れるような感覚になりました。なぜなら、iPhoneを「使う前」という、自分がコピーライティングの整理として使っていた考えを、深津さんがUXの一部として話をされていたからです。そしてその後、それが「予期的UX」という考えに基づいていることを知りました。
重ね重ね不勉強ながら「予期的UX」はもちろん「UX白書」も読んだことがなかったのですが、このnoteを読んだあと、爆速で「UXデザインの教科書」を注文しました。
予期的UXの詳細はこれから改め学びますが、現時点でわかったこととしては、コピーライティングは予期的UXの一部である、ということです。偶然にも私もiPhoneのコピーをコピーライティングの事例として挙げていましたが、「早い話、速いです。」はまさに「iPhoneを購入する前に抱くイメージ」を形成するためのコピーです。
私がコピーライティングが利用前でUXライティングが利用中だと気付いたのがこのあたりのnoteを書いた頃だったのですが(まだnoteを書き始めたばかりでこなれてなくて恥ずかしい)
この時はこれは大発見や!みたいな気持ちでドヤ顔で書いた気がするのですが、予期的UXというまんまの概念を知ってまさに車輪の再発明の気持ちです。
予期的UXのUXライティングがコピーライティング
また、UXライティングを「すべてのUXに関わるライティング」と定義した場合、予期的UXの領域を担うライティングのひとつが、コピーライティングということもできます。上記で引用させていただいたnoteには、UX白書で定義するUXについて下記のように書かれています。
1. 予期的UX(iPhoneを購入する前に抱くイメージ)
2. 一時的UX(iPhoneを実際に使用している最中)
3. エピソードUX(iPhoneを使う前の予期体験や、実際に使った体験
が記憶に落ちてエピソード化されたもの、いわゆる思い出)
4. 総体的UX(1~3をトータルした全体評価)
このうちの予期的UXと一時的UXについてという分け方で整理すると、上記の表はこんな感じになるかもしれません。
コピーライティングとUXライティングを分けて考えていた時は、分断することに若干の違和感があったのですが、こう整理することで、UXライティングとコピーライティングをより一貫した体験として捉えられるのではないかと思いました。
今後もUXについて深く学び、新しい知見を得ることで、自分の中での整理をアップデートしながら、よりUXライティングについて解像度高く考えられるようにしていきたいと思います。
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