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第1回「心を動かすUXライティング」の授業内容を公開 #Schoo
8月12日に生放送コミュニティのSchooで、オンライン授業「心を動かすUXライティング」の第1回を行わせていただきました。
たくさんの方に見ていただき、このnoteを読んでくださっている方にも見ていただけたようで、本当にうれしいです。ありがとうございます(涙)
第2回「事例から学ぶUXライティング」は8/21(金)20時からです。
無料でどなたでも受講いただけます!
第1回の授業もプレミアム会員(月額980円)になると録画を見れますので、興味のある方はぜひそちらもご覧ください。
第1回「心を動かすUXライティング」の授業内容を公開
さて、今回のnoteでは、第2回の授業をする前に、第1回の授業でお話した内容をnoteでもまとめておきたいと思います。
授業を受けていただいた方は復習に、受けていない方は予習にご活用ください。
それでは早速はじめます。
本日の目的
まず本日の授業の目的ですが、「行動を変える言葉の基本を学ぶ」です。
この授業が終わった時に、言葉によって行動が変わる、というのが一体どういうことなのかを、実感を持って掴んでもらえるようになっていればいいなと思っています。
さて、いきなりですが、問題です。
2020年も8月まで過ぎたところですが、2020年の流行語大賞にノミネートされるのは、一体どんな言葉でしょうか?
今年はコロナの影響もあり、これまでになかったような新しい言葉がめちゃくちゃたくさん生まれた一年だと思っています。
これは2019年の流行語大賞にノミネートされた言葉の一覧ですが、流行語大賞というのは、その年最も日本人を動かした言葉だと考えています。
流行語大賞を見ると、その年どんなことが流行ったのかとか、社会的にどういう状況だったのかとかが見えてくるので、毎年チェックするようにしています。
過去の流行語大賞も見てみると、当時の社会情勢が見えたり、今では当たり前になっている習慣が、実はこの年に生まれたものなのか!みたいなことがわかってすごくおもしろいです。
そんな流行語大賞に今年ノミネートされるであろう言葉の中で、わたしがいちばん注目している言葉がこちらです。
「3密」です。
この3密という言葉が生まれたことで、わたしたちは密閉、密集、密接を避けるようになりました。
しかも短くキャッチーで、口に出しやすい言葉なので、露出の多さもあり、人々の間で爆発的に流通しました。
この言葉を正確に密閉・密集・密接と記憶している人はそんなに多くないと思うのですが、正確に理解していなくても「なんとなくこういうのを避けたほうがよさそうだな」みたいな感覚になるのがすごく大事だと思っていて、直感的に伝わる力がこの「3密」という言葉には宿っていると感じます。
それはつまり、3密という言葉が人々の行動を変え、少し大げさに言うと、3密という言葉が生まれる前と生まれた後では、世界そのものが変わったと言えるのではないでしょうか。
3密という言葉がある世界とない世界を比べると、3密という言葉がある世界のほうが、感染拡大を抑制できているのではないかと思います。
これがわたしが考えている「言葉によって行動が変わる」ことの本質的な部分です。
UXライティングは言葉による課題解決です。なので、ある課題を解決するために、その言葉がしっかりと機能しているかどうか、が最も重要な評価指標になります。
では、その課題解決のための言葉を、サービスやプロダクトに落とし込んでいくにはどうすればいいのかを、これから一緒に考えていきましょう。
UXライター/UXライティングとは
まずはじめに、UXライターについて説明します。
UXライターは、UXライティングを専門とするライターです。
日本ではまだあまり馴染みのない職種ですが、海外、特にシリコンバレーのテクノロジー企業では、積極的に採用しています。
「日本のITは海外より10年遅れている」とよく言われますが、UXライターも今後日本で増えていく職種のひとつなのではないかと思っています。
次に、UXライティングについてです。
新しい言葉なので人によって解釈や定義が異なりますが、わたしは、UXライティングとは、ユーザーの行動を言葉でデザインすることだと捉えています。
もう少し具体的に言うと、WEBサービスやアプリなどのプロダクトのユーザー体験を、より快適で洗練されたものにするために、PCやスマホなどの画面(UI)に表示される言葉を設計することです。
プロダクトを体験しているユーザーが、迷わず行動できるように導いていく言葉なので、簡潔でわかりやすく、思いやりのある表現が求められます。
SchooのUIを例に説明します。
赤枠で囲った部分が、主にUXライティングで検討する言葉になります。
またUI以外でも、アプリのPUSH通知やメールなど、ユーザーの接点となる言葉をほぼすべて考えることになります。
コピーライティングとUXライティングの違い
既存の職種でUXライティングに近いものとして、コピーライティングが挙げられます。
わたしは元々コピーライターとして広告会社でコピーライターをしていて、その後転職して、IT系の事業会社でUXライティングに関わるようになりました。なので、実感として2つの差を感じることが多いです。
わたしが考える最も大きな違いは、マーケティングの4PであるProduct(製品)・Price(価格)・Promotion(プロモー ション)・Place(流通)のうち、どの部分を担う言葉であるか、だと思っています。
コピーライティングは、広告などのプロモーションで使われる言葉を主に考えます。プロモーションなので、その対象はプロダクトを使う前の生活者です。なので、より惹きの強い言葉でユーザーの心を捉える必要があります。
一方、UXライティングは、WEBサービスやアプリなどのプロダクトで使われる言葉を考えます。こちらの対象は、プロダクトを今まさに使っているユーザーになります。なので、コピーライティングのような惹きの強い言葉よりも、より快適でスムーズにプロダクトを体験するために必要なシンプルで平易な言葉が求められます。
そしてもう一つの違いが、主にWHAT TO SAYとHOW TO SAYのどちらを考えるかという点です。
WHAT TO SAYとHOW TO SAY
WHAT TO SAYとHOW TO SAYはUXライティングを行う上で非常に重要な概念なので、詳しく説明します。
WHAT TO SAYは何を言うか、HOW TO SAYはどう言うかを考えることです。
まずWHAT TO SAYですが、プロダクトのメリットやユーザーにとっての具体的なベネフィットになります。
Schooを例に説明すると、ユーザーが40万人、生放送授業を365日配信、動画数5,000本、のような訴求ポイントがWHAT TO SAYになります。
それに対して、例えばユーザーが40万人という訴求ポイントは、会員数40万人突破!、40万人が学習中!、40万人と一緒に学ぼう!というような、いくつかの表現で訴求することができます。
このようにひとつの訴求ポイントに対して、どのように表現するのかを考えるのがHOW TO SAYになります。
UXライティングではどちらかというとHOW TO SAYを考えることが多いです。
その理由は、何を言うかがすでに決まっているからです。
例えば、「カテゴリーで探す」というナビゲーションは、カテゴリーが一覧になっているページへの遷移を誘導する言葉です。
ユーザーにしてもらいたい行動があらかじめ決まっているため、どうすればもっと積極的にその行動をしてもらえるか、を考えることになります。これがそのままHOW TO SAYになるのです。
ふつうの言葉を用いて、非凡なことを語りなさい。
これは、ドイツの哲学者のショーペンハウアーが、著書『読書について』で語った言葉です。
わたしはこの言葉に、WHAT TO SAYとHOW TO SAYの大切な部分が凝縮されていると思っています。
「ふつうの言葉を用いて」がHOW TO SAYにあたる部分ですが、難しい言葉を使わないことはUXライティングにおいて最も重要なことのひとつです。誰にでもわかる平易な言葉で、シンプルに伝えることが求められます。
そして、WHAT TO SAYでは「非凡なこと」、つまりほかのプロダクトと比較して、いかに自分の関わるプロダクトが優れているかをしっかりと見つけることが大切になります。
また、UXライティングに近いものとして、もうひとつ「マイクロコピー」というものがあります。
こちらは、UXライティングの中でも、購入や申し込みなどの具体的なビジネスの成果指標に直結するようなコピーです。
わたしはマイクロコピーを、コピーライティングとUXライティングのちょうど真ん中あたりに位置するコピーだと思っています。
ユーザーの体験の一部でありながら、プロモーションとしての役割を担うコピーになります。
言葉で人を動かすための4つのルール
ここからは、わたしが考える言葉で人を動かすためのルールについて説明していきます。
まずルール①です。
この写真の中に、コピーと同じ役割を持つものが写っています。
それはなんでしょうか?
正解は、白枠で囲った非常口のマークです。
コピーは短い文章ではなく、矢印を言語化したもの
これはコピーライターの谷山雅計さんの言葉です。
コピーライターというと、なんかいい感じの上手いことを言う人、みたいな印象を持たれがちですが、それは本質的な意味でのコピーライターの仕事とは異なります。
コピーは矢印であり、その矢印を考えるのコピーライター、そしてUXライターの仕事です。
UXライティングにおいて、コピーはユーザーの行き先を指し示す矢印のような言葉でなければなりません。
これはSchooのボタンのコピーの例ですが、「無料会員登録する」という言葉には、なんとなく矢印のような、人が動くイメージがあると思います。
この矢印のようなユーザーを導く言葉を考えるというのが、UXライティングではとても重要です。
このように、ボタンの中の言葉を変えることで、矢印の強度はどんどん変わります。
一般的なUIで最もよく使われる言葉のひとつに「詳細はこちら」があります。UXライティングの観点でいうと、「詳細はこちら」は利用を避けたほうがいい言葉のひとつです。
具体性がないので、どうしても矢印としての力が弱くなってしまいます。
詳細はこちらより会員登録、会員登録より無料会員登録のほうが、矢印の力は強くなります。
こうして矢印の力を強くしていくことにより、より人を動かす言葉に改善していくことができるのです。
次にルール②です。
このグラフは、一般的なWEBページの滞在時間において、文章の長さに対して、どれぐらいの割合まで被験者が読むことができるのかを実験したものの結果です。
横軸のワード数が多くなればなるほど、縦軸の割合が低くなっていることがわかります。
こうした実験の結果やこれまでの経験から、わたしは人間は文字を読まないという前提で言葉を考えることにしています。
なので、とにかく短く書くことが重要だと考えています。
そのために必要なのが、言葉を削る技術です。
人は、書くことと、消すことで、書いている。
これはトンボの消しゴムのコピーで、わたしがとても好きなコピーのひとつです。
このようなコピーが生まれることを考えても、書くことにおいて消すことがいかに大切かがわかると思います。
こちらは実際に言葉を削ることで、どれぐらい読みやすくなるかを示した事例になります。
「されています」の重複を避ける、「そこでは」という指示語を削る、体言止めを活用する、などのテクニックによって、とても読みやすくなっていると思います。
実際に言葉を削るテクニックを学ぶ上で、おすすめなのがこちらの2冊です。
特に『言葉ダイエット』に関しては、その名の通り言葉を削ってスリムにすることだけを目的として一冊書かれた本なので、技術を身につける上でとても参考になると思います。
次に、ルール③です。
こちらの文章は、とある日のほぼ日に糸井重里さんが書かれたエッセイの一部です。
この文章の特徴的なところはどこでしょうか?
わたしがこの文章を見て気が付いたのが、ひらがなが多いという点です。
普通なら漢字で書いても問題ないような言葉を、あえてひらがなで書いています。
こちらのグラフは、文章中のひらがなの割合と、その反応率を示したものになります。
ひらがなが70%程度含まれている場合に、最も反応率が高くなっていることがわかります。
ひらがなで書くと、漢字で書くよりも優しく、わかりやすく伝わるようになります。
特にわたしが気をつけているのが「かんたん」と「はじめられます」という言葉で、ひらがなで書くとより「かんたんではじめやすい」印象を生み出せるのではないかと思っています。
これは行動経済学の学者であるダニエル・カーネマンが、著書で提唱している認知容易性に関する図です。
人間の脳は、シンプルだったり簡単だったりするものがインプットされると、親しみや信頼という感情をアウトプットするように設計されています。
わたしたちがUXライティングをする目的は、新しい商品を使ってほしかったり、サービスをもっと好きになってもらったりすることです。
そのためには、よりわかりやすく、シンプルに伝える必要があるのです。
一方、UXライティングにおいては、ひらがなにすることが必ずしもベストでない場合もあります。
例えば「スマホ決済ですばやくお支払い」という文章ですが、一瞬だけ見ると「スマホ決済です」までがひとつの文章のように見えて、すばやくが頭に入ってこないと思います。
スマホ決済において「すばやく」というのは重要なメリットのひとつです。確実にユーザーに伝えなければなりません。
その場合は「スマホ決済で素早くお支払い」と漢字を使ったほうが、瞬間的に正しく伝わります。
ルール2で述べたように、人間というのはそもそも文字を読まない生き物です。
そのため、UXライティングの勝負は一瞬で決まります。
ほんの数秒しかないチャンスで、いかに正確に伝えるか。これ考えるのも、UXライティングの重要な役割のひとつです。
その言葉に接触する場所やタイミングにおいて、ひらがな、カタカナ、漢字のどれを使うのが最適かを高い解像度で考えることで、より伝わりやすい表現に改善することができます。
最後のルール④です。
これは、ある雑誌で、AKB48に関わっていたスタッフの方が、プロデューサーの秋元康さんに言われた言葉として紹介されていたものです。
わたしはこの言葉を見て、とても共感しました。
わたしも、とにかくたくさん考えることが、優れたアプトプットを生み出すためのたったひとつの方法だと考えているからです。
このことを、あるクリエイティブ・ディレクターは「思考力より思考量」という言葉で表現していました。
才能やセンスという考える力よりも、考えた時間という量のほうが重要である、ということを表現した言葉で、自分のこれまでの経験からも非常に納得感のあるものです。
わたしは、アイデアの質は考えた時間に比例すると思っています。
これは「ひらめき」という現象についても、同じことが言えます。
ニュートンが引力を発見した際のエピソードとして「リンゴが落ちるのを見てひらめいた」という逸話があります。
その真偽は定かではありませんが、仮に真実だったとしても、何も考えていない状態で突然ひらめいたわけではなく、彼が常に考えていたからこそ、リンゴが落ちるという刺激によって着想を得た、と言えるのではないかと思います。
優れたアイデアはリラックスした状態で思い付く、というのも脳科学でも証明されていますが、これも事前にしっかりと考えた材料が、睡眠などにより整理され、リラックスした状態で結合する、というプロセスになっています。
こうした脳科学の観点から見ても、優れたアイデアがたくさん考えることによって生まれるというのは、間違っていないのではないかと思っています。
また、UXライティングにおいて、たくさん考えることのメリットはもうひとつあります。
それは、A/Bテストのパターンを増やせる、ということです。
これはマイクロソフトで分析・実験チームに所属していた方の言葉です。
テストでよい結果が出るのは10%~20%だとすると、10パターンのコピーでテストしても、よい結果が出るのが1つか2つということになります。
つまり、よい結果を出す確率を上げるには、たくさんのコピーで試すしかないのです。
UXライティングは言葉という感性的な表現でありながら、数字の結果が強く求められるサイエンスでもあると思っています。
こうした特性からも、とにかくたくさん考えることが、非常に重要であると思っています。
①コピーは矢印
②短いは正義
③ひらがな上手はコピー上手
④思考力より思考量
この4つが、わたしがUXライティングをする上で気を付けている4つのルールになります。
今後何か人に伝える文章を考える時に、ちょっと思い出してもらえると、よりよい文章になるかなと思います。
第2回は8/21(金)の20時から「事例で学ぶUXライティング」
以上が第1回でお話した内容になります。
第2回は8/21(金)の20時から、「事例で学ぶUXライティング」と題して、身近なサービスや製品などの事例から、実際に活用されているUXライティングについて一緒に学べればと思っています。
第1回に参加いただいた方はもちろん、このnoteを読んで初めてUXライティングに興味を持ったという方も、ぜひ見てみてください!
皆さんに授業でお会いできるのを楽しみにしています。