人のぬくもりが伝わる「顔が見えるプロダクト」
以前書いたSlackのリリースノートに関するnoteをTHE GUILDの安藤さんにシェアしていただいたのですが、そこでまたとても勉強になる事例を紹介されていました。
マンガアプリ・アルのリリースノートです。
この事例を見て、プロダクトと開発者の関係性について大きな学びがあったので、ちょっとまとめてみたいと思います。
開発者の立ち位置で書くリリースノート
こちらがそのリリースノートです。
このリリースノートを見てわたしが驚いたのは、社長のけんすうさんが、けんすうさんとしてリリースノートを書いていることです。
こんにちは!アルの社長をやっている、けんすうと申します!
この一文からはじめることで、開発者側の立ち位置からこのテキストを書いていることを明言しているのです。
UXライティングにおいて重要なことのひとつに、どういう人格でテキストを書くかというものがあります。
例えば前述のSlackの最新のリリースノートはこんな感じです。
この部分に関していうと、特に立ち位置に関する言及はありません。
開発者側からのメッセージとしても受け取れますが、ユーモアを感じさせるフレンドリーな文体は、Slackのプロダクト内で使われる言葉のトーンと統一されています。
つまりこのリリースノートは、Slackというプロダクトそのもの人格として、Slackが発している声としても受け取ることができます。
(Slackが発する声のイメージ)
それに対して、アルのリリースノートは開発者であるけんすうさんの立場から書かれています。
当然アルのプロダクト内で書かれるテキストは、けんすうさんの立場から書かれているのではなく、アルというプロダクトの声として書かれています。
こちらはアルのマイページの一部ですが、「あなたの好きなマンガをまとめた本棚を作ってシェアしてみましょう!」というのがアルのプロダクトの声です。
つまりリリースノートとプロダクトが明確に別の人格として書かれているのです。
ではなぜ、あえて別の人格である開発者側の声としてリリースノートを書いているのでしょうか。
生産者の顔が見えるとストーリーが生まれる
わたしがアルのリリースノートを読んで頭に思い浮かんだのが、生産者の顔が見える野菜です。
(いらすとやにドンピシャのイラストがあって感動した)
スーパーなどでよく見かける「わたしがつくりました」というやつです。
野菜をそのまま売るのではなく、農家さんの写真やメッセージを添えることで、わたしたちは誰がどのような想いでこの野菜をつくっているのかを知ることができます。
すると、野菜にストーリーが生まれ、その野菜が自分にとってぐっと身近な存在になるのです。同じ野菜であるにも関わらず。
わたしはこれと同じような気持ちを、アルのリリースノートに感じました。
何と言っても心を惹かれるのが、最近おもしろかったマンガを紹介している部分です。マンガが好きな人はこれを読んで「ああ、この人は信頼できるな」と思い、アプリとユーザーとの気持ちが一気に近づくのではないかと思います。
こうして開発者からのメッセージを届けることで、顔が見えるプロダクトになっているのです。
アルの事例を見て、このような心を惹かれるリリースノートがほかにもないか探してみたところ、めちゃくちゃいいのを見つけました。
カレンダーアプリ・TimeTreeのリリースノートです。
それでは早速ご覧ください。
めちゃくちゃミルクボーイにハマってますやん。
わたしはぺこぱのM-1のネタでnoteを書くぐらいお笑いが好きなので、このリリースノートを読んでTimeTreeとの心の距離がぐっと近づきました。
こちらもやはり一枚目の画像にある通り「運営」という立ち位置を明確にした上で、ユーモアを感じるリリースノートを書くことで、開発者の顔が見えるプロダクトになっています。
デジタルだからこそ求められる人のぬくもり
今回取り上げたアルとTimeTreeの事例を通して、開発者や運営が自分たちの個性を発信することは、愛されるプロダクトになるためのひとつの手法として有効なのではないかと思いました。
無機質になりがちなデジタルプロダクトだからこそ、その裏側にある人間らしさや、アナログでエモーショナルな人のぬくもりが、今後求められる時代がくるのかもしれません。
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